1年以上先のことはできるだけ考えない
ー未来のことについては長いスパンで考えられますか?
米光
僕はあまり遠い未来のことは考えないタイプです。考えないというか、直近1年ぐらいまでは考えるが、 そこから先は1年後じゃないとわからないと思っている。自分も変わっているし、周りの状況も変わってるから。
ーその考え方は昔からですか?
米光
昔から。単純に遠い未来のことを考える能力もないし、考えても仕方ない。でも全く考えないわけでもなくて、未来のことは”自然と考えてしまう”ぐらいに任せています。
状況が変わって予定を変更した方がいいはずなのに、そのまま決めた予定をやってしまうことの方が怖い。
ーいまデジハリも含めて、以前は立命館でも教えてはったじゃないですか。学生にアドバイスなど聞かれたりしなかったんですか?
米光
聞かれないようにしてました。あまり真面目なことは教えないようにしてます。
ーなるほど。逆に言うと、何を教えてはったんですか?
米光
基本は教えてない。
一同
(笑)
米光
特にゲーム作りやエンターテインメントを作ることは、こちらが教えた通りに作っても面白くない。
ゲームを作りやすい状況をセッティングして、その場で学生が作ったり、作ってきて迷ったり、無理ですとなったら、もうちょっとこうしてみたらとか、こういう手もあるよって、別の案を見せることはする。
ー逆に言うと、米光さんがセッティングした場でやってもらい、その後はその人たち個々に合わせてカスタマイズする感じですか?
米光
そうです。もちろん最初の導入はあります。だけど学生たちがやってきたものに対して返す形にしているので、毎年やっている内容は変わります。
基本にあるのはゲーム
米光
教える業を始めたときも、最初はカルチャーセンターで教えてくれないかと依頼があって「僕は教えることはできないですよ」と言いました。でも知り合いの推薦だったので、無碍にできないこともあり、まず他の先生の現場を見学させてもらいました。
翻訳家の柴田元幸さんの授業が凄かったんですよ。J・D・サリンジャーの「バナナフィッシュにうってつけの日」を柴田さん訳でみんなが事前に読んできていました。で、その内容について柴田先生が最初話をして、「質問ある?」と聞く。そこで手が上がらなかったら、またちょっと話をする。で、「こう思いました」みたいな感想を喋ったら、その感想に応じて柴田先生がまた返して。
1人が感想を言うと次々に感想を言い始めて、柴田先生はみんなの感想をちゃんと受け取り、「この時代はこうだから」みたいな背景知識を返したりして、話が深まっていく。すごい面白い授業だったので、同じ授業はできないけど、この仕組みだったらできるかもと思った。
相手が言ったことに対して、自分の知見とか、状況に合わせて行うやり取りだったらできるかもと。これってほぼゲームなんです。相手が打ってきたら、俺はこう打ち返すぞってことだったら、ゲームだからできると思った。それで引き受けて、その後いろいろ展開していったところがあります。
ーそうなんですね。
米光
だからよく「講師業とかライターとかゲームとか色々やられてますね」と言われるけど、基本のやり方は一緒で、ゲームなんです。
ーそれをどうバリエーションを持たせるのか。
米光
場が違ったりするだけで、こっちとしては色々やってるわけではなく、同じ仕組みでやってます。
ー確かにいろんな人が思うように、米光さんはいろんなことをされている感があるじゃないですか。でも今の話を聞いてたら「なるほど」と。
アナログゲームの面白さとは?
平林
アナログゲームは人間のコミュニケーションに役立ちますね。
米光
そうですね。ゲームは、コミュニケーションですからね。
平林
新しいゲームって、コミュニケーションの仕方が違う。ゲームで知り合って結婚したって聞くけど、あれはまた別?
米光
オンラインゲームとか、いろんなパターンがあると思う。ボードゲームでもあるし。ボードゲーム婚活みたいなのもあったりします。
平林
デジタル・アナログの文脈の中で、デジタルはいいもの、アナログは古いもの、良くないものっていう考えが世の中にあったりしませんか? でも写真だとデジタルよりアナログが深みがあったりとか色々あるなかで、ゲームもデジタルが当たり前の時代と思われてますが、アナログって世の中のみんなはどう捉えてるんだろう?
米光
コンピューターゲームとアナログゲームって根っこは同じだけど、感覚的に違う部分もある。アナログゲームは、不便といえば不便で、集まらないとできないし、ルールそのものの運用を自分たちがしなきゃいけない。でも、そのことが面白かったりする。コンピューターはやってくれるし、 やってくれることが楽で面白かったりするんですけどね。
平林
コンピューターゲームだと場をコントロールされすぎちゃいそうな気がする。
米光
だから、そこは本当に違う楽しみがたくさんあります。
平林
アナログゲームって、その場を仕切ってる人の仕切りで進んでいくじゃないですか。場の雰囲気も変わっていくだろうし。デジタルだと、その通りにしかならない気がします。
米光
デジタルでもいろんなことが起こります。アナログゲームはみんながルールを共有して、みんながそのルールを守ってはじめて面白い。勝ち負けを競ってるけど、競争じゃなくて共同作業なんです。
平林
シンプルなだけにアイデアを作るのも難しいですね。
米光
そうですね。でも、楽しく作ってます。
パッケージに作者名を入れている意味
平林
パッケージにはゲームデザインに米光さんの名前が書いてありますね。
米光
それは書いてもらうようにしてます。制作者がいないと思われるので。てか制作者が気にされない。
平林
こういうところが気になるんです。
米光
本だと必ずタイトルがあって作者名が書かれますが、ボードゲームやゲームだと書かれないんです。以前新聞に、作ったゲームの話題が載るとなったときに、パブリッシャーの人が米光さんが作者なので、括弧で米光一成と入れてくださいと言ったら「ゲームに作者がいるのが馴染みがないから、意味がわからないから入れられません」と断られました。その状況はよくないし、ボードゲームを作る人が増えてもらった方が、ボードゲームが豊かになると思うんです。
パッケージにちゃんと作者名を書いてもらうようにお願いして、ちゃんと作ってる人がいることは言っていかないといけないと思ってます。
ー最初から作者名が書かれるようになってても、全然いいわけじゃないですか。
米光
作者がいないことの気軽さって部分もあるんですよね。鬼ごっこの作者を知らなくても楽しく遊べる。しかも、じゃあちょっとルール変えてみようってことも気楽にできるから、それはそれでいいんですよね。
ー作者がいたらいたで、お伺いを立てないといけない?
米光
いろいろ難しい問題をはらんではいるけど、お伺いは立てなくていいと同時に発信していかないといけないと思っています。ゲームは遊びなので自由に遊んでもらっていいと思ってます。でも海賊版を出されるのは困る。何人かの人間が関わって、商品として出しているので。
平林
世代は関係なく、いろんな世代の人が買っていくんですか?
米光
そうですね。なるべくいろんな人が遊べるといいなーと思って工夫しています。「はぁっていうゲーム」は、友だちが実家に帰ってやったとき盛り上がった話をしてくれました。たしかに孫とおばあちゃんがいる状況でやると盛り上がります。
おばあちゃんの「好き」って、もうそれだけで面白いし、おばあちゃんが「好き」ってあんまり聞いたことがない。でもゲームのフレームを使えば、おばあちゃんが「好き」とか「チャンネル登録お願いします」って言ってくれる。
平林
会話のきっかけになりうるんですね。
米光
年代とか初めましての人とか、全然文化が違う人がいても、一定のルールを共有すれば、コミュニケーションできるツールという意味では、そうですね。
平林
アナログって人間が動けるというか、話を聞いていると受け身じゃなくて、結局人間の基本的な部分が関わってくる気がします。
『はぁっていうゲーム』の初出しに望月が関わっていた?!
ーIPGでやったイベント「シェイク!」の中で『はぁっていうゲーム』は最初に伊藤P(現 テレビ東京 制作局長)にやってもらいましたよね。
米光
そうそう。望月さんが企画してくれたイベントの中で、まだ印刷も何もしてない試作品を遊んでもらって。友達とはテストプレイしてたけど、外の人に『はぁっていうゲーム』を見せたのは、あれが初出しでした。あんなふうに、いろんな場面や、いろんな人と遊んで、多様な場でちゃんと楽しめるかを試して、どんどん改善していくんです。
最後に
米光
10月ぐらいに『人生が変わるゲームのつくりかた』という本が出ます。本を書くのは1人の作業になりがちなんだけど、編集者とやり取りしながらどうにかできました。
ーどんな内容の本なんですか?
米光
10代向けにゲームを作る方法を書いた本です。若い人にもルールって変えられるんだよってことを伝えたい。いま生きている世界はルールに縛られて嫌だと思ってる人や、ルールは変えられないと思って閉塞感に疲弊している人に。でも意外とルールって変えられて、変えられると自分の居場所が楽しいルールで動くことが可能になるよってことを、ボードゲーム作りで体感してもらえるかなと思ったから、 そのことを書いた本で、めちゃめちゃいい本になったからぜひ読んでほしい。
10/7 発売 『人生が変わるゲームのつくりかた: いいルールってどんなもの? 』
ーこれからもボードゲームはどんどん作られる感じなんですか。
米光
はい。ゲームマーケットっていうボードゲームのイベントがあって、そのタイミングでインディーズで新作を出していくペース。次回は『ジャーナリング・オブ・ザ・デッド』というタイトルで、ストーリーメイクゲームを出す予定です。それ以外も色々お話をもらったりしているので、作り続けていこうと思ってます。
9/2(月)からマガジンハウスGINZAで、『ことば探偵』(ゲームデザイン:米光一成) がスタート!
https://ginzamag.com/kotoba-detective/470719
Edit & Text:Daisaku Mochizuki
Photo:Katsumi Hirabayashi