「死後デジタル労働意思表明書」をつくったまえとあと

富永勇亮
Whatever Co. CEO / Producer

ちょっとしたきっかけで決まった取材。実際に伺ってみると、これから大事になってくるんじゃないか、と思うような話を伺うことが出来た。

Profile

富永勇亮
立命館大学在学中 2000 年に AID-DCC設立に参画、COO就任。2014年dot by dot 設立。2019 年PARTY New Yorkと合弁、Whateverを設立、代表就任。2023年武部貴則とOpen Medical Labを設立、取締役就任。広告、インスタレーション、MV、TV などメディアを横断した活動を行い、Cannes、SXSW、メディア芸術祭、Webbyなどを受賞。

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あなたは「死後復活」を認めますか?

富永

最初にちょっとこの質問をしたいんですけど、もちづきさんは死後、自分の個人データをもとにAIやCGなどを駆使してデジタル上で復活させられることを認めますか?

ーそっとしといてほしいですね。それが当たり前の世の中だったら、別に拒否するとは思わないんですが、ノリとしては僕はいいかなみたいな感じですね。

富永

なぜこの質問をしたかと言うと、僕たちはAIを含めて、もう「死後復活」が可能な世界に生きているからです。すさまじい速さでテクノロジーが発達し、ネット上にも個人データがいっぱいあるじゃないですか。

僕もいまインタビューを受けているので、その中にも個人情報や自分の思想みたいなものが含まれています。そういったデータを活かして、疑似的に復活させることができてしまう。

昔は同じものを作るには数千万から億程度の開発費がかかっていましたが、いまや音声を復元するのもAIで簡単に、かつ安価にできる。キャラクターはまだCG感が残りますが、それでもかなり復元度が上がっているとなれば、肖像権を無視した復活も可能になってきます。

要は自分が死後の復活に対し「No」とさえ言っておけば守られる可能性もありますが、今は死後の肖像権を守る法律は日本にはないですし、技術だけがどんどん進歩している状況です。倫理観もまだ追いついてない。

僕らはそういった事象を「Digital Employment After Death」、日本語で「死後デジタル労働」と呼んでいます。

この「死後デジタル労働」の事例をずっと調べてきました。例えば古い例でいうと、1996年に亡くなったラッパーの2PACは、2012年のアメリカのCoachellaにてホログラム上で復活し、Snoop Doggとの共演を実現しています。

Whateverも、2019年4月にNHKスペシャルで、出川哲郎さんと、その当時8年前に亡くなられたお母様をデジタル上で復活させて対談する番組「復活の日」を作りました。また、Whateverの事例ではないですが、その年の12月には美空ひばりさんがデジタル上で復活し、紅白歌合戦に出場されていましたね。秋元康さんが美空ひばりさんの新曲を作り、実際にデジタル上で復活した美空ひばりさんがその楽曲を披露していました。これはかなり賛否両論があった企画です。

次はアメリカの事例です。2020年、当時米国史上最も犠牲者が多かった高校銃乱射事件の被害者をAIで復活させ、その惨状を訴えて米大統領選の投票を呼びかける動画が話題になりました。

メタバースプラットフォームを展開する「Somnium Space」は、ユーザーが現実で死亡しても仮想世界で生き続けられるサービスを開発しています。

ハリウッドでも新たな流れが生まれています。2024年に亡くなったダースベイダー役の声優・ジェームズ・アール・ジョーンズ氏は、生前に自分の声をAIで再現する許可をしており、現在もダースベイダーの声として引き継がれています。

実はブルース・ウィルス氏も2022年、自身のデジタルツインの権利を売却し、AIによるディープフェイク技術を使った復活を許可しています。

さらに2024年になると、生前の写真や動画から故人のアバターを作り、そのアバターとずっと会話ができるバーチャルAI故人サービスが登場しました。初期費用が10万円弱、その後月額980円でずっと会話を続けられる、サブスクでの新しい「死後復活」の形です。

このように、少し前までは制作に数億円かかっていたものが、現在では月額980円までに身近なものになり、完全に一種のサービスとして、広まりつつある状況まで来ています。

ーなるほど。

富永

でもこういうテクノロジーの発達は万人にとって幸せなわけではないじゃないですか。気持ち悪いとか、倫理感がないとか、死者への冒涜だと言う人ももちろんいるわけです。

それこそ美空ひばりさんの事例でそういった世論を目の当たりにしたことで、世の中の人は死後の復活について実際どう思っているのか、どれくらいの人がネガティブな印象を持っているのかを調べる必要があると考え、2019年に日米でアンケートを実施しました。

結果の画像

富永

結果、自分自身の死後の復活に対して「Yes」と答えたのが36.8%でした。他人の復活を許可するかに対する回答では、76.2%の人が「No」と答えています。このアンケートを実施したことで、多くの人が「復活」を望んでいないことが分かり、これだけ嫌だと言ってる人がいるのであれば、その人たちの逃げ道も必要だと考え始めました。

そこからもう少しデータを深堀りしました。年齢層で見ると、若い年代の方がデジタルに対する理解度が高いので「No」の割合が少なく復活に対しての許容度が高い。

対して年齢が上がっていくにつれて、「No」の割合がどんどん増えていくという数字が出てました。さらに、どういう人にだったら自分の個人データの利用を認めますかという質問をしたところ、家族や信頼できる知人が個人データを取得することはOKだが、それ以外の他人はNGという結果が出ました。

富永

また、復活の解像度(再現度)でいうと、テキスト生成、音声、映像と、どんどん復活の解像度が上がるにつれて拒否反応が増えていきました。特に自分の顔が出ることに関しては、ものすごく強く拒否反応がでました。

これは日米の比較なんですが「なぜ復活に反対なんですか?」という問いに対し、日本人の場合は本人の意思が確認できない中で復活させるべきではないという意見が多く見受けられました。これは、他人を慮る、すごく日本人らしい意見です。逆にアメリカでは、倫理的にタブーだと感じる人が多く見受けられました。死に対する概念とか国それぞれの考え方、倫理観がこの結果に反映されていると感じます。

宗教の関係性もすごく大きいと思います。例えば日本では仏教の教えもあり、火葬や輪廻転生する四十九日の考え方があります。肉体よりも魂が他のものに転生していくという考えです。

それに対してアメリカはキリスト教などの教えから死んだ後に復活すると信じられているので、土葬を選択する人が多い。肉体が普遍であることが大事です。

日本やアメリカだけではなく、それぞれの国でもこの答えは違うと思います。いずれにしても多くの人は復活を望んでないことがわかったので、その人たちの逃げ道を何か作ろうと参考にしたのが「ドナーカード」でした。

ドナーカードを参考にできた「死後デジタル労働意思表明書」

富永

実はドナーカードが出来たのは、1997年10月と最近です。日本における臓器移植自体は約50年前(1960年代頃)から11事例ほどあったのですが、法律が追いついたのは最初の臓器移植から約30年後の1997年でした。

この臓器移植の歴史やドナーカードを参考に、自分の死後に復活するのを「許可する」か「許可しないか」を宣言できる「D.E.A.D.」というプラットフォームを立ち上げました。自身の復活に対する意思を「Yes」か「No」で表明できます。その意思表明を紙に記載して、ドナーカードのように持ち歩くことができる仕組みも設計しました。復活する場合、誰に許可するか、どの情報まで許可するかなどの対象範囲もいろいろ細かく設定できます。

ー面白いですね。

富永

また情報利用については、有償・無償も記載されています。有償であればOKという人もいたり。「D.E.A.D.」のプラットフォームではPDFとしてダウンロードもできますし、イベントで展示する際は臓器移植提供カードのように持ち運びできるカードサイズのものもあります。

もちろん「D.E.A.D.」には今現在は何の法律的な支えもないですが、多くの人が体験してくれていて、すで8万人を越える方が意思を表明してくれています。

そして、実はアンケートをとってからここ6年のあいだに「YES」と「NO」の比率はかなり変わってきていて、自身の復活を許可する「Yes」の人達が7%ぐらい増えています。

AIの登場によって、自分を素材に何か作りたいという需要が増し、それも相まって「Yes」と思う人がポジティブに増えてきているのだと感じます。

この活動を2020年に始めてから6年経ちますが面白いことに作った当初よりも最近の方が取材が多い。普段だとクリエイティブ関連のメディアインタビューが多いですが「D.E.A.D.」に関する取材だと、新聞やテレビや新聞でお話することが多いんです。

僕が作ったものの中でも、一番社会に影響が出てくるプロジェクトだと思います。みんなが意識せずSNSで自分の個人情報を発信していますが、それを消すような習慣もまだ身についていないですし、僕らの両親の世代がこれから亡くなっていったときなどに、そのあたりの問題はすごく出てくると思います。

ーそうですね。

富永

「復活の日」もある種イタコのようなものだったんですよ。イタコが死者を口寄せして依頼者と媒介させることで、依頼者自身の内向きな心の整理になる。そういうものが世の中で一般的なサービスになったとき、あなたはどうしますか?といった問いに近いものでした。

臓器移植の歴史について先ほど触れましたが、最初の臓器移植から免許証の裏に臓器移植に関する意思表示が乗るまで、約50年かかってるわけです。

なので、死後の肖像権についての法整備含めていろんな人たちが自分ごととして考え、法議論をして、結果としてそれぞれの気づきに繋がってほしいと願っています。

ーそうですよね。法律を作ろうとすると、めっちゃかかりますよね。

3つに定義されたAI

富永

2023年、数十万人の俳優やスタッフを巻き込んだ俳優組合-アメリカ・テレビ・ラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRA)のストライキがあり、経済損失は100億ドルにも達したと言われています。

そのときに実は最も議論が決まらなかったのが、AIに関するものでした。”Employment-Based Digital Replica”(本人が参加したレプリカ)、”Independently Created Digital Replica”(データから生成したレプリカ)、”Synthetic Performer”(完全に人工的に作られたAI俳優)の3つがAIの定義の議論の的になっていました。

1つめの「本人が参加したレプリカ」とは、さきほどのブルース・ウィルス氏のダースベイダーの声の事案が当てはまります。

2つめの「データから生成したレプリカ」は、有名ではなく、誰のものかはわからないが、データソースがあるもの。

3つめは、完全に人工的に作られたAIです。これがいちばん恐ろしいのですが、そもそものデータベースが分からない、本当にドラゴンボールに出てくる増殖可能なサイバイマンみたいなものです。

こういった議論は日本のエンターテインメント業界でもまだ行われていないので、このストライキによって3つのAIの定義が提示されたことが、すごく大事な部分だと思っています。

ー日本はいま法律がない = 何でも使えるっちゃ使える状態なんで、倫理観だけですもんね。

富永

そうですね。倫理よりビジネスが優先されてしまわないよう、さまざまな議論が盛んに行われることで、日本でも業界自らが自分たちを守るために規制をかけるといった動きに繋がるのではとも思っています。

ーでも早くそういう動きが日本にも出来てほしいですよね?

富永

僕はあった方がいいと思います。僕はは作り手側の人間なので、自由にいろんなモノを作れますが、こういう人の死にまつわるものは、きちんとしたルールの上で整理して作る必要があると思いますし、作り手としてもその人の意思が分からない状態で何かを作るとなるとすごく気持ち悪いんですよ。だからこそ、復活を望まない人がちゃんと守られる世の中を作ってほしいなと。

「死後デジタル労働意思表明書」は「Yes」側と「No」側がいたから作れた

ー最終的に「D.E.A.D.」は臓器移植のドナーカードみたいなことになるのがゴールって感じなんですか?それとも全然違うゴールをイメージしていますか?

富永

まずはみんなの認知が高まって、死後復活に対しての「Yes」or「No」の意思表示が必要だと理解してもらうことが大事だと思っています。僕はそれで言うと、復活したくない「No」側なんですよ。

だから望月さんと一緒です。でも、「復活の日」を一緒に作った弊社CCOの川村は「Yes」なんです。川村は有料であれば復活してもいいと言っています。自分を活かして、例えば家族の糧になったり、新しいクリエイティブの助けになるんだったら別にいいと。

ーでも、逆に言うとそういう意見もあるから、こういう仕組みではっきり言っといた方がいいよねって感じですよね?

富永

そうですね。「復活の日」を制作をした僕と川村でさえ意見が違うからこそ、互いで「Yes」側と「No」側に立って議論し合うことができたと思います。

ーでも、それでよかったんでしょうね、どっちかに2人とも偏っていたら、企画しても「そうなんですよ」「そうだよね」と言って終わったかもですよね。

しかもちょっと先取りでやり始めはったから、今AIも相まってこんな流れになってきて、より余計に際立ってきますよね。

富永

当時「D.E.A.D.」はアートだと思われてました。「D.E.A.D.」は誰かに頼まれて作ったわけじゃないし、有料プラットフォームでもない。だからそういう意味ではアートだとも思いますが、僕らにとっては社会実装みたいなものでした。いずれこの現実に社会が気づくと思って投げかけたし、技術の発達でみんながなんとなく意識し始めてると感じていたので。

ーでも逆に言うと、AIが思ったより早く来ましたよね。

富永

それはもう完全にそうですね。めちゃくちゃ早いです。

ー今はもうグローバル企業が多いから、国で規制することはすごく難しいですよね。

富永

それはおっしゃる通りです。デジタル企業のカスペルスキーが、中東・アフリカで「D.E.A.D.」と同じようなアンケートをやっていますが、国ごとで倫理観は違うので、本当にやっておかないといけないのは、同じようなフォーマットを使って世界中でちゃんとデータを取って公開するってことです。「D.E.A.D.」もデータ公開はしているんですが、日米しかないんで、これを徹底してちゃんと公開していくことは立ち上げた側の人間として続ける義務があると感じています。

ずっと続く「Yes」と「No」と、「死後デジタル労働意思表明書」のゆくえ

富永 

僕、一生「Yes」と「No」 はいると思うんです。

ーはい、いると思います。

富永 

でも、これが逆転する可能性も十分あると思ってます。

世の中の風潮や状況によって、個人の意思が「Yes」になったり「No」になったり変化を続けるだろうと思うので、YES/NO両方というより、守られるべき人たちと、それを享受して使っていく人がいていいと思っています。

癌は急に亡くなるケースもありますけど、早期で見つかればある程度長く死と向き合えるじゃないですか。だから例えば、自分の生前データをしっかり残して、死後に復活させて、遺族の人たちとの会話を楽しめるような保険の付帯サービスをつくるとか。色々考えると、いいものができると思っています。

実際、僕が「復活の日」をやったときにものすごく苦労したのは、出川さんのお母様の写真や動画がほぼなかったことです。残っていたのも17秒のVHSだったので、ほとんど使えなくて。でも、生前にちゃんとデータを保管して、自身をスキャンして3D化しておくとか、音声もしっかり残しておけると、思考はどこまでいけるかわかりませんが、本人の見栄えと声に関してはかなりの精度で復活できる。

ー今までは手紙だったものが、そういう仕組みに置き換わるみたいな感じですね。

富永

そうですね。「D.E.A.D.」もそういったサービスのように、さまざまな人の役に立つ、一つの指針として社会で活用されていってくれたら嬉しいと思っています。

Edit & Text:Daisaku Mochizuki