大阪のまえとあと / 和氣正幸(本屋ライター)

  • 和氣正幸本屋ライター

写真:平林克己
聞き手/編集/執筆:望月大作

目次

  • じつは中学生のときは引きこもっていた
  • 妻との出会いで変わった思考パターン
  • 転換点となったのは、大阪での取材記事から
  • 固定費が増えて芽生えた経営思考
  • 基本的に「まえ」よりも「あと」がいつもベターな結果に
  • 取材のあと
  • [New]まえとあとのあと
  • 本屋を経営しようと思ったライターが作った本
  • 今も売上が変わらないお店も多い独立系書店
  • ステレオタイプを壊していく
  • いまの社会に独立書店は必要
  • じつは中学生のときは引きこもっていた

    和氣正幸(本屋ライター)

    中学生のときにずっと引きこもってたわけですが、学校には行ってたんですけど、ただ他人と基本喋らない生活をしていたんですね。

    望月

    ちょっと意外やね。

    和氣

    今でも基本僕はわりと引きこもり体質なんで黙っていても何の問題もないんですよ。だからきっかけは何も覚えてないけど、ちゃんと自分の気持ちって外に言わないと分かんないんだなって思いました。そこからちゃんと親しい人には言うようにしたり、コミュニケーションについて学ぶようになりましたね。3年間ほとんど喋っていないと本当にマイナスからのスタートです。

    望月

    そんなにしゃべってなかったの?

    和氣

    ほとんど身内としかしゃべってなかったですね。

    望月

    じゃあ、ほぼ高校デビューとか?

    和氣

    中3デビューかな(笑)。でも特にオシャレをするでもなく、普通に友だちになろうとするだけなんですけど。その後の大学に入学したことも大きかったですね。中高と男子校だったんですけど、すごくつまらなかった。

    これは本当につい最近わかったことなんですけど、僕、男子嫌いなんですよ。たぶん男子的なカルチャーが全般的に苦手なんですよね。男子のとりあえずマウントを取っていく文化がダメなんですよ。

    妻との出会いで変わった思考パターン

    その後、妻と会う前と後も違いがありますね。自分で自分のことを考えたとき、パターン認識が強いほうだと思うんですよ。こうやったらこうなるだろうなって、ある程度わかるんですけど、ただ自分は頭でっかちなので、そこから出られずにいることが過去にはあったと思うんですよね。

    でも妻が全然その時の僕の常識の範囲内の人ではなかったので、付き合ううちに、自分が考えすぎていることに気づいて。

    望月

    じゃあ、それまでよりもっと楽になったの? 

    和氣

    はい。考えるのもいいけど、自分はそれで1から10まで出来る人ではないんだって。だったら早めに動いちゃおうと考えました。僕はそれから対応していくほうが向いていると、妻を見ていてそんな気持ちになれましたね。

    望月

    なるほど。じゃあそれをきっかけにして、考えすぎるよりは早めに動き出すようになったの?

    和氣

    妻と会ってスグではなかったですが、もし妻と付き合ってなかったら、今ごろ独立してなかった気がします。

    望月

    なるほど、きっと独立する前に考えすぎちゃってね。

    和氣

    そうです。やっぱり考えすぎて怖くなって止めてしまっていたような。

    望月

    じゃあ独立後は、ざっくり動きながら修正していくの?

    和氣

    そうですね。ざっくり方向性だけ決めて、あとはどんどんやっていくごとに、人が大事だと感じるようになってきましたね。人がよければやっていくうちに楽しくなってきますからね。

    転換点となったのは、大阪での取材記事から

    まだ独立する前の前職で大阪に約3年いたときに、自分のブログの話を朝日新聞大阪本社の記者が記事にしてくれたことがあります。その記事をスタンダードブックストア(2020年5月現在閉店。6月から天王寺に移転予定)の中川さんが見てくれたんですよね。それがきっかけで中川さんと一緒に飲むようになって。そこは僕の活動では大きな転換点だった。

    そこで中の人と仲良くなれるんだって気づきがあって。だからそこで、むしろ本屋の中の人の話を聞くのが楽しいんだと気づきました。それまでは本屋をやろうと思っていたので、なるために必要なのは棚の調査をすることだったんですよ。喫茶店になりたい人が喫茶店めぐりをするみたいノリだったわけですよ。そうしたら本屋の中の人と話せるようになると、「あれ、そっちもけっこう面白い」って感じになったのは、大きかったかもなぁ。

    望月

    今はそっちのほうが大きいわけでしょ?

    和氣

    僕としては人の話を聞く方が好きだったんだなって発見でしたね。さらにそれを掘り下げていくと、僕は大学生のころに院試に落ちてしまったんですよ。僕は臨床心理学に興味がある、臨床心理士を目指していました。

    それって何でと突き詰めると、人の話を聞くのが割と好きだった。それがのちのち話すことも好きだって話にもなるわけですが。僕は基本的に人って意味わかんないと思ってるんです。「何でこの人は5分前と全く違うことを言っていることになぜ気づかないのだろう」みたいなことに答えを求めた時期がありました。

    でも院試に落ちた時に、教授に「和氣くんは営業や人と話すような仕事が向いてるけどね」と言われたけど、あれは今となれば至言だったと思いますね。

    僕は時間をかけて人と対面して、その人に話を聞いたり、それをつなげたり、それをいろいろな人に知らせたりするほうが向いているのかなと思っています。もし研究職に行っていたらけっこう不幸だったかもしれない。

    望月

    人当たりは良さそうに見えるけど?

    和氣

    人当たりは良いし、色々ごまかせるけど、だから何周もした結果、素直になっているだけなので(笑)。

    望月

    なるほど(笑)。

    和氣

    その何周もしている部分は基本言わないんですよ。でもそれを言うとあまり面白くないし。僕は僕のことをあまり面白いと思ってないからこそ、ほかの人の話を聞きたいんですよね。

    固定費が増えて芽生えた経営思考

    望月

    直近だと、何を想う?

    和氣

    直近だと家賃が高くなったってことですかね。初めはオーナーのご配慮で安く、本当にトライアルみたいな感じだったのが、上手くいった結果、それ以上にいくためにもということで、家賃が高くなりました。

    望月

    じゃあ最初の滑り出しが良かったってことだよね?

    和氣

    そうですね。店自体は運用も含め、棚を貸しているシステムや値段も途中で変えたりしつつ、みんなの意見を聞きながらやっていたんですけど、棚のメンバーがかなり集まってきて良くなりました。

    そうしたらカフェの客席の一部を使わせてもらっているんですけど、その一部をもっと広げていこうと。そのためにも家賃を高くしようって話で。それはすごくそうだと思ったし、もう少し棚を増やせると思ったのは良かったんですが、やっぱり固定費が増えると急に意識が変わりますね。

    独立してからずっとあまり固定費を増やさずにやってきたので、流動費というか、例えば悪く言うと嫌になったら辞めちゃえばいいし、良く言えば自由度が高かったところが固定費を増やして、ここでやっていく覚悟が出来てきたこと。

    普通の会社とは違い、いま棚を借りてくださっている人が約70名いるんですが、その人たちに対してどういう態度を示して行くのか。そこで心構えや考え方が今までは自分のことだけで良かったんですが、そこにもう一つ違う視点で考えることが増え、そうすると見聞きするコンテンツも全然変わってきました。例えば戦略とか戦術、作戦などの話がやけに気になるようになってきました。

    望月

    ある種マネージメント的なところだよね?

    和氣

    そこは大きかったです。今から考えると、かなりそこでテンパって、ちょっとギアを変えた気がしましたね。

    望月

    やっぱりそこら辺はプレイヤー的なところとマネジメント的なところでは、全然考え方が違うと思う。どう割り切るというか。そこら辺は割り切れるものなのか、それともオーバーラップして考えるものなのか?

    和氣

    そこは今でも調整中です。僕はプレイヤー的な部分ではライターが大きいんですよね。マネジメントは店の話になるんですけど。この2つは全然考え方が違うので、集中力の使いかたが違います。そこは早い遅い、深い浅い、長い短いの三軸で考えると良いって話があって。

    正確な意味でのマネージメントとは全然違うと思うんですけど、店のことを考えるときの集中力と、ライターの仕事をする時の集中力の種類が全然違うんです。そこのスイッチの切り替えが今でもすごくしんどい。

    望月

    それはあるよね。右脳と左脳ぐらいの違いがあるしさ。ライターはどちらかというと、ある種クリエイティブやし、マネジメントはどう考えても左脳的な気がする。

    和氣

    両方とも使うと言えば両方使うんだけど。でもライティングの方が集中が深いんですよ。自分に潜る深さが深いというか。マネジメントはもう少し浅いんですけど、すごく広くやらなくちゃいけない。

    書くことは基本降りていく作業なので、降りて行ったときって降りるまでに時間がかかるんですよ。特に店のことを考えているときに、急に降りるとなると結構しんどい。字数が増えるときが特に危険です。新聞での連載とか最近出した「大人になっても行きたい私の絵本巡り」だと、250字〜550字だから出来るんです。並行してマネジメント系のことも同時に走らせることが出来る。

    今書いている本の場合、一本1400字以上になっていて、それだと同時並行は急にしんどくなってきます。こちらとしても本の内容は紹介というよりは、一緒にそこにいるような物語性のあるものを書くとなると、急に降りる深度が深くなり、そこの集中がしんどくて執筆が進んでなかった。でもこのタイミングが合って逆に執筆を進めることが出来ました。

    望月

    ちょっと店のマネジメントのことを少し休憩出来るもんね。

    和氣

    そこがあったんですけど、ようやくこのタイミングの直前で、店を運営する上での考え方が割とどうなると良いか、何となく分かってきた。となると逆にライターとして、今後どうするかちょっとモヤモヤしはじめて。

    望月

    マネジメントの方は多少仕組みというか、フレームをある程度決めて埋め込んで行けばいいからね。

    和氣

    それを人に任せようと思った。

    望月

    向き不向きがあるからね。

    和氣

    やっぱり無理なんですよね。僕はこれ絶対楽しいよと、ガッと引っ張るところまでやるのは出来るんですけどね。その後ちゃんと仕組みにするのは、他の人にやってもらいたい。

    望月

    それって経営者の仕事の側面としてその要素もあるから、横にいるシステマティックな人がそれをサポートすることは大事だろうね。

    和氣

    それが今年の課題だと認識してますね。それが直近の「前と後」ですね。

    望月

    じゃあ独立する前と、独立した後って価値観的にはあまり変わってない?。 

    和氣

    そうですね。価値観的な話でいくと、独立の前と後では余計なものがなくなった感じです。元の価値観に戻った感じです。組織って苦手ですよね(笑)。僕は大学時代からずっと周囲に言ってきてるんで、辞める時には安定だけが大事だぞって言われた。

    基本的に「まえ」よりも「あと」がいつもベターな結果に

    望月

    何かこのタイミングで考えたことはある?

    和氣

    ここ最近は店で疲れてたんだなって思いましたね。目のクマが取れました(笑)。店をやっていて、その後ちょっと仕事したり飲んだりしていると、本当に余裕がなかったんだと気づいて。最近ちょっと仕事をこなすだけの感じになっていたので、これはアカンってタイミング、そういう意味でコロナで一つ自分を見つめなおすところがあったのかもしれません。

    「前と後」って意外と「前」のことを思い出せないですね。考えってある程度ぐるぐる回ってくるじゃないですか。ぐるぐるの段階が変わっていくんです。そうすると前のぐるぐるのことは思い出せなかったりするじゃないですか。

    望月

    でも結局「後」の方が良いんだったらそれでいいんじゃない?

    和氣

    そうですね。今のところはまだ良いと思っています。忘れっぽいので。

    望月

    あの時の方が良かったみたいな、そういうのがないんだったら。

    和氣

    そうですね、それはないですね。

    望月

    それがあったら、多分それを覚えてるから。

    和氣

    確かにそうかも知れない。でも店の運営がしんどすぎたときは、一ヶ月休ませてくれって思ったときがあった。そのときは体力的な部分が一番大きかったですけど。 

    望月

    ひとりでそこを考えるのは大変だからね。基本的に和氣くんの場合は、あとの方がいいんだろうね。

    和氣

    そうですね。だいたい昔よりは今のほうが基本的に体力もついていると思っているし。本当に昔よりは基本的には常に良くなっていますね。歳を取ることは良いことだと思ってますからね。

    取材のあと

    音声配信アプリ Stand.fmを使って、取材後のインタビューをしています。

    [new] まえとあとのあと[アップデート版]

    ソチオリンピックを見て本屋が生まれた話

    『続 日本の小さな本屋さん』(エクスナレッジ)より。写真:砺波周平

    望月

    和氣くんの「続・日本の小さな本屋さん」は全部読みました。

    和氣

    ありがとうございます。前作よりも文章がうまく書けたと思います。

    望月

    この本の内容から話を聞いて、今回の記事にできたらいいなと思うんだけど、まずすごく疑問に思ったことから聞くんだけど。

    和氣

    何ですか?

    望月

    ソチオリンピックの閉会式を見て、本屋をはじめた人がいたよね?

    和氣

    Pono books & time」ですね。

    望月

    そうそう。なぜソチのオリンピック閉会式を見ると本屋を始めたくなったの?

    和氣

    ともかくソチ五輪の閉会式を見てて、あれはロシアでしたよね。ロシアってすごく文豪のことを大切にしてるから、向こうの文豪をフィーチャーしてる場面があったんです。ソチ五輪では大きめに文豪をフィーチャーしてるんですよ。文豪のデカイ自画像みたいなものがあったりして。それにビビっときたそうなんです。

    望月

    なるほどね。

    和氣

    そう。ソチの五輪の映像がYouTubeで残されてるので、ちゃんと見たらこれかと思いますよ。あれ見たら納得すると思う。

    本屋を経営しようと思ったライターが作った本

    『続 日本の小さな本屋さん』(エクスナレッジ)より。写真:砺波周平

    11月下旬と12月に、福岡・大分と行くんです。ウチの店のオリジナルの香りをつけた栞を作ったんですけど、各地の本屋に直接行って、その栞をお店にある僕の続巻に挟みに行く予定で。ついでに各書店の方とラジオをしましょうと。もし許可がもらえたらアーカイブにしていこうと思ってます。書店めぐりツアーでやろうと思っていて。

    望月

    それはいいね。和氣くんの本を読んでいると、本屋になろうとそもそもあんまり思ってなかった人が個人書店を出してると思ったんだけど、これはたまたま? 続編の狙い?

    和氣

    たまたまですね。で、これが難しくて、「日本の小さな本屋さん」のシリーズは、写真と文章の構成じゃないですか。両方でって難しく、すごくいい本屋でめちゃくちゃ話を聞きたいんだけど、狭い本屋じゃいけないとか、手紙社さんは本当は広いんだけど、このコロナ禍の関係でちょっと狭くなったところもあったり。写真じゃある程度の広さがあって、行けそうなところをわりと優先順位としては高めにしてるんですね。あとは関西だとホホホ座と誠光社は外せない。

    望月

    本屋になろうと思ってなかった人が本屋を経営するようになり、和氣くんみたく本屋になろうとしてた人がライターになったりね。それがすごく対比的に面白いと思った。

    和氣

    なるほど。そういう見方ができるんだ。

    望月

    いま取材の心境としては羨望的なものがあるの? それとも全然違う視点?

    和氣

    今は別に羨ましさは特にないです。もう本当に約200店の書店にちゃんとしたインタビューをしてるはずなんですよね。だからこの人はこういう感じだっていうのは出てくるけど、やっぱり1回のインタビューにつき1回は意外な発見があって面白い。あと時々いい意味で「マジでこの人は頭やべえな」って人がいて、そういうのが楽しい。

    望月

    逆にそういういい意味でぶっ飛んでる人に会えるのが楽しみになってるよね?

    和氣

    そうそう。いろいろな方向性で飛び抜けている人っているじゃないですか。それはいいなって思う。

    今も売上が変わらないお店も多い独立系書店

    『続 日本の小さな本屋さん』(エクスナレッジ)より。写真:砺波周平

    望月

    でも本を読んでいると、今の状況で個人で本屋というジャンルに、「よしやろう!」って感じでやるのはすごいと思った。

    和氣

    どういうこと?

    望月

    そもそも書店経営は儲からないんじゃないかって、僕なんかは思うわけ。しかも個人でやるじゃない。大型書店でさえもいろんなところが撤退するなか、個人でしかも特に地方でやろうって決心するのは勇気なのか、はたまた飛び出てるだけなのかは分からないけど、その力強さと経営手腕はすごいなって。

    和氣

    自分も含めて、まだまだ勉強中な人もいっぱいいますけど、でもやっぱり経営をすごい考え、新しく書店経営をする人たちは、むしろ経営の方法に関してビジネスモデルから検討できるから、勉強したら今だったらすぐわかる。多分カフェを始めるのとそんなに変わんないと思うんですよ。

    組み合わせの問題で、自分でカフェをやったり飲食をやったことがあるなら、カフェ機能を強めたり。本屋部分はやるけど、元書店員でコーヒーも好きな人はその逆のバランスだとか。他の仲間と組んでやるとか。利益率も、全体的な利益率が何割くらいになったらいいかなとか。昔ながらの街の本屋さんで残っているところは、本当に経営手腕がちゃんとしてますね。

    望月

    やっぱり残ってるだけのことはあるってことですね。

    和氣

    そうですね。本当に粗利が2割2分くらいの大変な中で、従業員にちゃんと給料をどうやって出していくか。で、ちゃんといい本をさばいていくか、ちゃんとやれてるのは本当にすごいと思いますけどね。

    望月

    全国まわってみるといろいろ面白い本屋さんがあり、地方のお店は面白そうとは思うけど、この状況下ではなかなか大変なんやろうと思ったり。

    和氣

    そこが面白くて、最近時事通信社さんで毎週月曜配信する連載を全15回でやってるんです。こんな状況なんで、基本オンラインでの取材なんですけど。以前取材した書店にもう一回オンラインで再取材すると、営業時間が短くなってるんだけど、売り上げが変わらないと。僕が取材するような個人の独立書店は、ファンが本を買いに来るわけじゃないですか。お客さんが店に合わせるんですよ。結果的に、夜遅くやるのはむしろ無理してたなって。

    とある本屋さんは、もう子どもができたので、ちょうどいいからしばらくこれでやろうみたいなことを言ってました。何件か取材を重ねて聞こえてきたのは、以前と別に変わんないし、むしろ閉店時間を早くしても変わらないので、以前のは何だったんだみたいな。そんな無理してやることじゃないし、世の中的にいいんじゃないかって声を聞いて、「ああなるほどな」って。特に地方であればあるほどね。

    望月

    お客さんが合わせてくれるってのは、それだけ支持されているってことだもんね。

    和氣

    そうなんです。

    望月

    ステレオタイプでニュースを見てて、またコロナの感染拡大が言われているわけだけど、時間短縮も、あれは夜の商売だから影響が出るんだろうけど、その一方で売上が全然変わんないところもあるんだろうね。

    和氣

    厳しいところの方がきっと多いのだろうとは思うけど、中にはむしろ家族の時間が多く取れたり全体としては生活が良くなったところもあるかもしれませんね。そういうこともあるのだと驚きました。

    ステレオタイプを壊していく

    『続 日本の小さな本屋さん』(エクスナレッジ)より。写真:砺波周平

    望月

    和氣くんのやってることは、ある意味で本屋に関してステレオタイプを打破してくれることなのかもしれないよね。

    和氣

    そうなんですかね?

    望月

    本屋は儲かんないだろうって思いがちだし、でもむしろ個人で本屋をやろうとしている人が増えている話はすごく面白い。

    和氣

    うん。その状況は今もそうですね。

    望月

    一般的に本好きは多いけど、本屋になろうとする人ってなかなかいろいろ考えちゃうから難しいと思うんだよね。それでも個人で本屋をやろうとして、それこそヴィレッジバンガードを個人でアレンジしたようなお店が増えているような感性は、何かイマドキっぽいとは思うんだけどね。

    和氣

    そうですね。実際にビレッジバンガードの影響を受けて始めた人もいますからね。あれは大きいですよね。それと関係なくやってる本屋もいっぱいあるし、いろいろな流れがありますね。

    いまの社会に独立書店は必要

    『続 日本の小さな本屋さん』(エクスナレッジ)より。写真:砺波周平

    この前の取材でも言いましたけど、うちの連れ添いの話に関連して、本当にステレオタイプではまったくない感じが、「普通はこうじゃん!」と考える割合を、どんどん少なくしていきたいと思います。「普通はこうだから」、「何でこうしてるの」みたいなことって、インタビューの手法として1つあるし、そういう一般観念があるとは思うんですけど、自分で何かやろうと思えば思うほど、相対化とは少し違うけど、”普通は”の普通って誰なんだろうなとか、別にそういうことは関係ないと思う感じがする。

    望月

    この本の中のお店のレイアウトと、この本の感じが好きだから実際にお店に行き、行ったらやっぱりよかったから、私もこういうことをやりたいって言って始める人が出てくると、また「続々日本の小さな本屋さん」とかにもなるわけだよね。

    和氣

    そうなんですよ。本屋のいいところは、やっぱりやろうと思うと、ある程度本のことを知らなくちゃいけない。本のことを知っていくと、やっぱり初めは雰囲気だけだったのが、中身に積み重なっていく感じがすごくいいなと思ってます。もっと独立書店が増えるような状況を作っていきたいですね。

    望月

    大きな書店がどんどん撤退って話がある話の中で、こういう個人の書店さんが普通の古き良き本屋じゃないちょっとセンスの欠片があるこういう本屋がフィーチャーされているっていうのはすごくなんか期待が持てるよね。

    和氣

    絶対、今の社会に独立書店は必要ですからね。

    はじまって、半年が経過しました。

    Profile

    和氣正幸

    下北沢にある本屋のアンテナショップBOOKSHOP TRAVELLERの店主でもある。
    ウェブサイト「BOOKSHOP LOVER」の運営や”本屋入門”などのイベント開催、ほか東京新聞での月1連載【BOOKS】など各種媒体への寄稿といった本屋と本に関する活動を多岐にわたり行う。
    著書に『続 日本の小さな本屋さん』(エクスナレッジ)、『日本の小さな本屋さん』(エクスナレッジ)、『東京 わざわざ行きたい街の本屋さん』(G.B.)、共著で『全国 旅してでも行きたい街の本屋さん』『全国 大人になっても行きたい私の絵本めぐり』(どちらもG.B.)がある。
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