させていただく問題

望月大作
まえとあと編集人

最近特に気になっている事柄について、2020年さいごのコラムをお届けします。

Profile

望月大作
同志社大学大学院修了。修士論文のテーマは「ガンダム」。さまざまな企業に勤める傍ら、十数年前にソーシャル系大学、「ツブヤ大学」を立ち上げる。直近ではWebメディア「十中八九」の編集長を退任後、Webマガジン「まえとあと」を立ち上げ、編集人となる。所持する資格は車の免許以外に、漢字能力検定2級/歴史能力検定世界史2級/知識検定1級。

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高校の古文の思い出は品詞分解

高校時代、古文や漢文の授業が個人的に楽しかった思い出として残っているのは、そのときに習った授業の進行の仕方が、それまでのやり方ではなかったことにあると思っている。

それはどういうことかと言えば、くどいくらい古文の文章を品詞分解して訳していったからだ。ひたすら分解して意味を忠実に取る。というやり方は当時まだ10代の自分にとってはエポックな出来事だった。

そんな思い出がタイトルとどう関係あるのか? それはこれから示していこうと思います。

実際に「させていただく」を品詞分解してみた

最近すごく気になるのが、この「させていただきます」というワードだ。以前よりも頻繁に目にしているような気がする。

そもそも、「させていただきます」とは、品詞分解すると、

「さ」サ変動詞「する」の未然形(未然形とはまだ行われていない状態)

「せ」使役を意味する助動詞「せる」の連用形(誰かから何かを行わせる状態)

「て」接続助詞

「いただく」謙譲語の補助動詞

ちなみにこの語句で用いる「いただく」と「頂く」は実は違うようです。

「いただく」は補助動詞で、「頂く」は動詞です。「頂く」は食べる・飲む・もらうの意味の謙譲語です。そのため例えば「食べさせて頂く」となると誤用になります。

少し話が脱線しましたが、先の品詞分解からも分かるとおり、「させていただきます」の本来意味するものとは、未然の状態にあることについて、誰かからの依頼動作について許可をもらって行うようなイメージがつくでしょうか?

よく遭遇する「させていただく」のシチュエーション

つまりよく遭遇するシチュエーションである

「司会を務めさせていただきます◯◯です」

というフレーズですが、その場で主催者に許可をもらっている意味で発しているのであればOKなのかもしれませんが、そういう場合ではない務めるひとの自己紹介で使われている場合は、ただ冗長になっているフレーズになるので、

「司会を努めます◯◯です」でいいわけです。

たぶん「させていただきます」が二重敬語のたぐいの表現のように聞こえるので、多くの場合で使われているケースが多いと思うんですが、今回のケースは品詞分解からも分かるとおり、そのケースには該当しないので、その意味では誤用になります。つまり「させる」は敬語表現ではないともいえます。

他にも、

「株式会社◯◯の代表を務めさせていただいております◯◯と申します」

の「させていただきます」も誤用です。株主総会で許可を得たじゃねえかみたいな発言があるかもしれませんが、だいたいの自己紹介をするような場は講演会だったりなわけで、そこでは誰も許可を求めていないので誤用といえます。

すべて「させていただく」がダメなわけでもない

だったら、全部アウトなんじゃないのか論が出てくると思うんですが、それは違います。

先にも書いたとおり、許可を求めるようなニュアンスを「させていただく」は持っているので、そのニュアンスが活かせる場では有用なフレーズだといえます。

ただ、だいたいそういう場ではないところで頻発するフレーズなので、基本的には別のフレーズを使ったほうがいいのではないかと、個人的には思います。

漢字で書くことに気をつける必要があるもの

あと、このコラムを書いているうえでいろいろと調べてしったことなんですが、

「いたします」と「致します」も「いただく」と「頂く」同様にひらがなか漢字かで動詞もしくは補助動詞と、種別が変わるようです。

そのため、何でもかんでも「有難う御座います」のように漢字を多用すると「えっ」というところにぶち当たるかもしれません。

最後に

個人的には大学院時代にたまたま高校の古文の先生を教えていた言語学者の先生の講義を少人数で受ける機会がありました。そのとき「ら」抜き言葉について先生は「間違った日本語」とは思わない。とおっしゃってました。言葉は変容するものなので、どんどん変わっていくと。たしかに言葉って変わっていなかったとしたら、未だに武士が使っていたような言葉遣いで話しているわけで。言葉の省略化は当たり前のように日本語では起こりうるものだと思っています。

そもそも略語がたくさん作られていく中で、何かが抜けた言葉が生まれることは自然なこと。ただ「させていただく」は別に省略でもなんでもないと思うんです。

個人的には「させていただく」に違和感を持ってからは、何かをするを示す場合は「いたします」を使うことが多くなりました。

もちろん自分は学者ではないので、僕も知らないあいだに誤用しているものはあると思います。その辺りは気づいたときに直していきたいなと思います。

そもそも論でいえば、僕自身も「させていただく」は昔かなり使っていたように思います。そしてそれで敬語はOKと勝手に思っていたこともあり、それがその後バイトで敬語に四苦八苦することにもつながったのですが。。

そんな経験もあり、今回最近ひんぱんに聞くので、「させていただく」についてちょっと書いてみました。

国語辞典に書いてある意味も記載します。 国語辞典より

2020年、まえとあとをご覧いただきありがとうございました。

2021年も地道に更新していきます。引き続き、よろしくお願いいたします。

はじまって、半年が経過しました。

Text:Daisaku Mochizuki