スカイツリーが建ったまえとあと / 米山勇(建築史家)

  • 米山勇建築史家

写真:平林克己、他
聞き手/編集/執筆:望月大作

目次

  • 京都駅と京都タワーと東寺と
  • 京都を見ていると、ちょっとパリを連想する
  • 建築は景観を破壊的に変える
  • 金閣は前衛建築
  • スカイツリーが建ったまえとあと
  • 取材のあと
  • 京都駅と京都タワーと東寺と

    米山勇(建築史家)

    きょうは建築の話をしようと思ってます。たとえば「ランドマークが建つ前と後」というのは、王道で面白いテーマだから、興味ある人が多いんじゃないかな。

    望月

    個人的にもランドマークがテーマなのは、面白そうでありがたいですね。

    米山

    「建築の建つ前と後」では、自分をとりまく環境が大きく変わる。ちょっと大げさだけど、世界観が変わります。

    望月

    学生のころまで京都に住んでいたので、たしかに京都駅は変わりましたね。

    米山

    建築の世界でランドマークの話になるのは、やっぱりまず京都タワーですね。

    望月

    いま京都駅京都タワーは共存している感じはありますよね。

    米山

    そうなんですよ。

    望月

    南禅寺の水路閣の話も学校で学びました。

    米山

    建物の「前と後」をわかりやすく教えてくれるのは京都かもしれない。京都は一見保守的な感じがするけど、実は革新的な意識が、常に「伝統」とともにある。

    望月

    米山さんの言わんとすることは分かります。どっちかというと、いま住んでいる横浜が保守な気がします。

    米山

    そうかもしれません(笑)

    望月

    ですよね。京都っていわゆるイメージが逆なんですよ。横浜に来てみてわかったんですけど、おっしゃるように京都は保守的に見えて革新的なことをやりがちなんです。でも横浜はみなとみらいに代表されるように、一見きらびやかな革新的な雰囲気があるけど、めちゃめちゃ保守です。

    米山

    京都は壮大な時間軸と常に向き合ってきているから、歴史的な事象をどう扱うべきかを、ある種客観的に考えられる。たとえば近代のことは、「昔のことだから~」としてはぐらかさず、「近過去」として相対化する。

    望月

    さきの戦争と言えば応仁の乱ですもんね。

    米山

    そう。伝統は本当に深いものであるから、京都と他のところとはレベルが違うんですよね。いわゆるランドマーク的なものは、新しいランドマークでも何年か経ってくるとその存在をわかりやすく見せてくれるような気がする。

    望月

    でも正直なところ、歴史と今のランドマークが「京都」では共存してますよね。

    米山

    「京都にランドマークを建てるなら、簡単じゃないよ」という怖さがあるからこそ、問題を明確に示してくれています。たとえば東京や横浜に新しいランドマークを建てるとしても、「いいんじゃない、何年かすればもっと馴染んでいくんじゃない」とまた次のランドマーク建設にすぐ行っちゃう。

    京都は簡単に「新たなランドマーク」の建設を許さない感じがあるんですよね。京都駅の近くには東寺があり、今の東寺五重塔ももちろん「古建築」だけれど、寛永期の再建だから京都にあってはそんなに古い部類の建築ではない。ランドマークと言えば、「最近建った東寺があるじゃん」となる(笑)

    ランドマークや景観について、京都はその都度かなり本気で揉めてくれるんですよね。問題をガチでやるから、その後がしっかりする。適当に揉めているとダメなんですよ。

    望月

    なるほど。

    米山

    東京や横浜は問題をすぐ手打ちでシャンシャンしちゃうから。京都は新しいものが建っても「数十年間は見守ってるぞ」って怖さがあるんですよ。われわれ関東の人間は「京都タワーも建った頃はいろいろ言われたけど、建てば馴染んできていい景観じゃないですか」という。でも本当にいい景観かどうかは、実は怪しいところで、旅行者の「ああ、京都に来たな」という安心感を充足させる、ノスタルジックな装置に過ぎないのかもしれない。

    京都を見ていると、ちょっとパリを連想する

    京都を見ていると、ちょっとパリを連想するんです。今のパリは、いやらしいほど計画された人工都市なんだけど、世界一美しい都市のひとつであることは間違いない。そして、京都ほどではないけれど、パリにも歴史はある。決定的なすごみは、新しいものを作ることに躊躇がないことです。

    建物が新しくても、それが良いものであれば歓迎する。エッフェル塔のように最初はもちろん抵抗されるものもあるけど、新しいからとか古いからとか関係なく「批評」する視点が大事です。

    日本は、高度成長期やバブル期への反省もあり、古いまち並みや建築を大切にしようという意識がだいぶ浸透したように思う。それはすごくいいことだと思いますが、逆にそれが過度なレトロ志向になって、「新しいものは全部ダメだ」という空気を醸成する危険性を孕んでいるような気もします。

    望月

    でも面白いのは、新しいものは良しとしないのに、いま大部分の人が新築の家に住みたがるとかあるじゃないですか。

    米山

    そうですね。

    望月

    その新築信仰はすごく不思議だなと。ヨーロッパだと古いものを年ごとにリノベして住み続けるじゃないですか。日本は元からクラッシュ&ビルドが多いせいか、新築信仰になるのかなって思うんですけど。

    米山

    なかなか自分を客観視できないのかな。他者から言われて初めて「あ、そうか」となるようなところがある。

    「みんな古いものを大事にしないで、新しいものにばっかり飛びついて」

    「あなただってそうじゃない?」

    「私は別」

    的なやり取りになるみたいな(笑)

    望月

    そうですね。

    米山

    その点、パリはやってくれますよね。凱旋門があるなかで新凱旋門を作るというのは、なかなか勇気がいる。たとえば五重塔があるのに新しい塔を建てるということを、パリはやったわけです。

    そこで大事なのは、新しく造るべきものは「何か」ですよね。今だからこそできる、最良のものを造るって視点を持つこと。今にふさわしいものを造ればいいと思うし、ふさわしいものを造らなきゃダメなんです。そして、新たなランドマークが造られる顛末を、みんなでしっかり見届けていくことが、すごく大事ですね。ランドマークができる「まえとあと」を。

    望月

    そうですね。

    米山

    新しいものがダメなんではなくて、新しい建物が古い建物に簡単に負けてはダメだって視点で、都市を見ていかないといけない。「古いものを大事にしよう」一辺倒ではなくて、古いものと新しいものと、どっちがいいか比べながら見ていく視点が大事です。

    望月

    結局今建ったものも年月が経てば古くなりますからね。

    米山

    そうなんですよね。そういう面もあると思います。

    建築は景観を破壊的に変える

    望月

    京都はまだ再開発をやっていますよね。

    米山

    大事なのは前のランドマークを持続しながら新しいランドマークが建つことで、今度は京都駅を建てるから、前の京都タワーを壊すというのではないわけです。都市はアップデートしていくものだから。

    面白くないですか、今の京都駅が建つ前は今の京都駅はなかったわけですよ、当たり前だけど。京都駅の「まえとあと」で、大きく京都の景観は変わった。そして簡単に後戻りはできない。ちょっとイマイチだから「やっぱりやめておきます」は出来ないですからね。建築にはその恐ろしさがある。景観を破壊的に変えるから。

    景観を劇的に変えたという意味では、東京スカイツリーによって東京の、特に東方面の景観は劇的に変わりました。一方、おもしろいのは、東京タワーが何かノスタルジーを呼び起こすみたいな現象がある。「スカイツリーよりも東京タワーが私は好き」って意見も少なくない。

    望月

    京都駅を見て京都タワーの方が好きなんだよねって言うみたいですね。

    米山

    その京都における比較は、東京との違いを言い表すのには分かりやすいかもしれないですね。

    望月

    だからたとえば第二京都タワーが出来たりすると変わるかもしれないですね。

    米山

    かもしれないですね。でもね、新しいものにすぐ馴染めないというのは、誰だってそうなんですよね。パリの人たちもそうで、「ルーブルのガラスのピラミッドや、グランダルシュ(新凱旋門)を私たちは何の抵抗もなく受け入れた」なんて、たぶん誰も思ってない(笑) 大事なのは、建ったランドマークを自分たちのものにしていこうという意識。これまでを見て、新たなものを懐深く育てていこうという信念と、必ず新しいものにも慣れていくという確信があるんですよ。

    金閣は前衛建築

    望月

    たしかに京都の建築物は、古いものも新しいものも共存している気がする。金閣を見てもノスタルジーは感じないですね。

    米山

    今の金閣は1955年の再建ですしね、おそらく割り切って見られると思います。僕も金閣は京都へ行ったらちょくちょく見ますよ。銀閣より金閣のほうが圧倒的にデザインがいいと思います。まずプロポーションが3階建てでいいんですよ。しかも1層2層3層と全部性格が違う。

    ローマにコロッセオがあるじゃないですか。あれも1層2層3層でオーダー(柱頭飾りに代表される古典主義建築の構成法)を変えていて、下からドリス式、イオニア式、コリント式になっている。もっともコロッセオは金閣よりはるかに古い古代ローマの建築だから、3つのオーダーの種類を変えて積んでいるに過ぎない。

    金閣は、1階が住宅、2階が和様仏堂、そして3階が禅宗様仏堂。変幻自在の構成が画期的です。構成の面白さに加えて、1階が左右非対称でかっこいいんですよ。建った当時からすれば、そうとうな前衛建築だったんじゃないかな。

    スカイツリーが建ったまえとあと

    僕は以前から言ってるんだけど、東京スカイツリーが今の場所に建つことはものすごく意味があって、それは江戸時代以来の宿願なんですよね。

    スカイツリーが建っている本所地域は、江戸時代にはまったく起伏も、高い建物もない、いわば「xy座標都市」でした。隅田川の存在自体も、強固なy軸として認識されていたと言えます。そのような認識に拍車をかけたのが、関東大震災後の後藤新平による帝都復興計画です。

    望月

    碁盤の目状の「xy座標都市」?

    米山

    そう、高い建物が何もない平坦な「xy座標都市」。そこにy軸としての隅田川が流れていた。ところで、江戸の絵師たちは、何であんなに隅田川の花火を描いたのでしょうか。

    望月

    なぜでしょう。

    米山

    Z軸への憧憬です。

    望月

    なるほど! 面白いですね。

    米山

    どこまでもxy座標が続く本所の風景において、花火は、夏の限られた時のみに現前するうたかたのz軸でした。だからこそ、江戸時代の絵師たちはこぞってそれを描いた。それが現実になったのがスカイツリーなんです。江戸の絵師たちが描いたうたかたのz軸が、恒常的なランドマーク=東京スカイツリーとして、今建っている。

    望月

    それは面白いですね。納得できます。

    米山

    スカイツリーは今の場所に建つべきものだったんです。あれが東京タワーの近くに建ったら何の意味もないですから。

    望月

    そうですね。なるほど。

    米山

    スカイツリーの建設を計画した人たちにはそこまで(Z軸)の意識はなかったでしょう。はからずもそれは江戸以来の宿願の成就なんですよね。実際、「スカイツリーの建つまえとあと」で、東京の景観は劇的に良くなった。それはただ漫然と写真を撮っても、スカイツリーがあることによって出来る奇跡的な構図なんですよ。

    だからスカイツリーはなぜあそこに建っているんだという人も多いけど、僕は今の場所に建つことに意味があると思っています。

    平林

    だとすると、スカイツリーは建つべくして建ったということなんですか?

    米山

    そうです。

    平林

    じゃあ(スカイツリーがない)江戸にはZ軸が不足していたんですか?

    米山

    江戸の西側のZ軸は富士山があったわけですよ。

    平林

    (スカイツリーの前に建っている)あの東京タワーはどうやって解釈するべきなんでしょう?

    米山

    東京タワーは都心で、電波塔の役割があった。それは名古屋や札幌のテレビ塔と同じ役割で建っているから。東京タワーは逆にスカイツリーみたいな立地じゃいけないわけですよね。

    望月

    墨田区は本当に平べったいところなので。

    平林

    二次元だよね。

    望月

    だからそこに三次元が建つってことで、Z軸! なるほど!と。

    米山

    スカイツリーが出来上がる前から、僕はそれはすごく意味があることだと言ってきました。

    平林

    スカイツリーって周りの人たちからも良いほうに評価されているんですか?

    米山

    建った当時のすごい盛り上がりと比べると、今はどうなんでしょうか。

    平林

    興味がない?

    米山

    人がスカイツリーに集まることはいいことなんでしょうけどね。たぶん東京タワー的な都会的な香りはスカイツリーにはしないのかもしれないですね。

    平林

    スカイツリーは独特の雰囲気というか。

    米山

    それは出来るものが逆でもそうなると思いますけどね。あの土地の力でしょうね。でもね、「盛り上がらなくなった」じゃすまされない。新たなランドマークには、責任もって「まえとあと」の歴史を描き続けていってもらわないと(笑)

    取材のあと

    声配信アプリ Stand.fmを使って、取材後のインタビューをしています。

    ここには出ていない話もあり、それらは「まえとあと」サポーター制度「まえとあとも」向けのメルマガで配信をしております。

    Profile

    米山勇

    1965年東京都生まれ 建築史家 東京都江戸東京博物館研究員
    早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。早稲田大学非常勤講師、日本女子大学非常勤講師などを経て現職。著書に『写真と歴史でたどる日本近代建築大観』(全3巻)(監修、国書刊行会)、『世界がうらやむニッポンのモダニズム建築』(監修、地球丸)、『日本近代建築大全 東日本編』『同西日本編』(監修、講談社)、『米山勇の名住宅鑑賞術』(TOTO出版)、『時代の地図で巡る東京建築マップ』(共著、エクスナレッジ)、『けんちく体操』(共著、エクスナレッジ)など。
    「日本建築家協会ゴールデンキューブ賞特別賞」(2011年)、「日本建築学会教育賞(教育貢献)」(2013年)受賞。