2021年8月24日、のまえとあと

田中直基
Dentsu Lab Tokyo クリエーティブディレクター / コピーライター / 雑文家

ふたたび田中直基さんに話を聴いた。田中さんにとって2021年はエポックな年だったに違いない。そして、そんな経験のなかで変化し続ける田中さんの思想と仕事について聞いてみた。

Profile

田中直基
1979年生まれ。神奈川県出身。主な仕事にEテレ「デザインあ」、サントリー「話そう。」、「マツコロイド」、YouTube「好きなことで、生きていく。」など。受賞歴にACC賞、東京コピーライターズクラブ新人賞、グッドデザイン賞、Cannes Lionsなど。京都芸術大学情報デザイン学科、特別講師。劇団「満員劇場御礼座」所属。コラム「カプセルタワーからこんにちは」東京スポーツ新聞にて連載中。

Index

パラ開会式の演出について

田中

お久しぶりです。前の「まえとあと」の取材が2020年頭でコロナの直後でしたよね。

そうです。あのときは、サントリーさんの「話そう。」プロジェクトの話などをお伺いしました。そして、田中さんはあの後にパラリンピック開会式を携われられたのを記事で拝見しました。

田中

そうですね。ちょうど前回取材を受けた頃は、パラリンピック開会式自体は、無観客も想定しながら、その特別な環境の中でどういう演出をするべきか悩んでいた時期だったということを思い出しました。

選手入場の時にプロジェクションされていた「カラフルな風」は、すごく印象に残っています。

田中

はい、クリエイティブメンバーの1人であり、特にメインで任されたのは、世界中のアスリートが入場する「選手入場」のパートですね。無観客のなか、90分と最も長いパートなので、プロジェクションマッピングをつかって、常に変わり続けるカラフルな風の演出を実施しました。

カラフルな風は何を意図してつくったんですか?

田中

これですね。一つは、誰も座っていないスタジアムの中を孤独に入場する選手を鼓舞したかったというのがあります。表現としては、自然の風と同じように、全ての瞬間が違う演出というのを目指すことを最初に決めました。

それを実現するためにCGのみではなく、流体シミュレーションのシステムを作り、国旗の色と国歌のサウンドデータを利用して、ジェネラティブな風を作りました。すべての国で違うカラフルな風が吹いたら、選手たちはもちろん、放送で見る人も楽しいと思って。

映像のためにシステムから作ったんですね。

田中

はい、正直いうとあれだけの数の演出をCGで手作業で作ること自体が効率的ではなかったので、ジェネラティブかつパラメーティブに実施しようと決めました。

メッセージ的なものはあったのでしょうか?

田中

誤解を恐れずに話すと、パラの選手をはじめ障がいを持ってる人たちは、「違い」とともに生きていますよね。そして、違いを認め合うことからはじめて、支えあって、高め合って、乗り越える。いま、世の中は「違いに厳しい」じゃないですか。

認めるということから最も遠い時代だなと思っていました。ヘイトスピーチ、いじめ、差別、戦争。このすばらしい選手たちの違いに向き合う生き方に賛辞を送りながら、さらに「違う」ことの素晴らしさ、大切さを世界中に発信したかったんです。

終わって気づいたこと

田中さんの中で何か変わったことはあるんですか?

田中

僕はある年齢を超えてから、自分のすべての仕事が、世界をちょっとでもいいから良くなるものであってほしいとに思うようになったんですよね。残りのキャリアを考えると、そんなに無限に仕事もできないから、一個一個を大事にしようと。今回のパラ開会式の経験は、その気持ちがそのスタンスをより加速させた気がします。

なるほど。具体的に、その後にやった仕事などもご紹介いただけますか?

田中

はい、一つ目は「ALLPLAYERS WELCOME」というんですが、パラ開会式でご一緒した武藤昌胤さん栗栖良依さんと一緒にフランスのカンヌでステージを作ったんです。武藤さんはそれこそデコトラの運転席でパフォーマンスをされていた方でして、ALS*という難病と闘いながらDJや作曲を続けるクリエイターの方です。

カンヌでスタンディングオベーションを起きたそうですね。すごいですね。どんな内容だったんですか?

田中

講演とライブパフォーマンスを行ったんですが、一緒に講演した栗栖さんの言葉がわかりやすいので紹介しますと、「Disability is a different ability」と言うメッセージを発信しました。

Disabledやdisabilityは、身体的な弱者を指す言葉ですね。

田中

そうです。これは今回のパラ開会式での体験がもちろん大きなきっかけなのですが、世の中が「弱い」と定義していることは、実は世界を前進させるための「強さ」なのかもしれないということなんです。ちょっと話が長くなるかもしれませんがいいですか?(笑)

はい、ぜひ。

田中

僕たちはクリエイティブと呼ばれる職種ですが、じゃあ、クリエイティビティの定義ってなんだろうってなった時に辞書とかに載っている創造性とか新しいことを考える力とか、ちょっとフワッとした感じになりますよね。

確かに。いろんな業界、職種で使われる言葉ですしね。

田中

大先輩のクリエイティブディレクターで古川裕也さんという方がいるんですが、古川さんと話した時にその本質について話し合ったことがあるんです。

それは、「その見方によって、世界の常識や価値観がガラリと変わり、世界が前進する新しい視点」なんじゃないかと。でも、その新しい視点に気づくのって、むちゃくちゃ難しいですよね。でも、世の中が弱いと定義する人たちは、いつもその気づきを持っているよねと。

いくつか例えでいうと、曲がるストローは、身体的な理由でうまく飲み物が飲めなかった娘のために、父親が曲げることを思いついたという話や、もっと古い例だと、タイプライターは、目が見えなくなってしまった友人が字を綺麗に描けるようにするために発明されたとか。

パラ開会式の例でいうとデコトラにのって布袋寅泰さんの隣でギターを弾いてる田川さんというギタリストは、ギターをネックの上からピアノのように弾くんですよね。生まれつきギターを目で見たことがなく、独学で弾き方を覚えて行ったそうなんですが。そういう持ち方だからこそ出せる音色があるんです。むちゃくちゃクリエイティブだと思いました。

なるほど。

田中

つまり、弱いと言われがちなこと自体が物凄いポテンシャルを秘めているんです。でも、それは社会次第なところがある。弱さにちゃんと気づけるか、耳を傾けられるか、ということです。強いと言われている人には気づくのが難しいんですよね。そして、強い人中心の世の中は、そういうイノベーションが生まれづらいんです。

ぼくらの共通の友人である小国さんがやってることも近い気がしました。

田中

ですです。で、僕はこの説を実証したくて、自分のテリトリーであるエンターテイメントの世界で探求してみようとまず始めてみたんです。その第一弾として、ALSで視線入力でDJやコミュニケーションをしている武藤さんのクリエイティビティを引き出す楽器を作りました。

武藤さんの視線入力はすごいんですよ。イラストレーターで絵も描くし、タイピングもめちゃ早い。その能力を引き出すための楽器を作りました。EYE XY PADって言うんですけど、X軸とY軸に武藤さんが作ったサウンドとエフェクトを自由に入れることで、新しい音色を作れるようになったんです。

デジタルハープのような不思議な今までにない音色です。武藤さんはもちろん、世界中の誰もで使えるようにWEBで公開しています。子供とか高齢者とかも。今合計3つのツールを公開したんですが、これを続けていこうと思っています。(https://all-players-tool-lab.com/

そもそも、日本はまだ障害を持っている方がステージに立つ機会が少ない気がします。

田中

まだ日本のエンターテイメントとか芸術文化、クリエイティブの世界では、健常者と障害を持っている方々の間には、大きな溝があると思います。例えば広告で言ってもアメリカとかはCMで障害を持っている人が普通に出演するシーンが見られたり、もっと進んでいます。逆の言い方をすると、彼らのクリエイティビティや力を借りたら、コンテンツや表現はもっと面白くなると思います。ぼくらにはない気づきを彼らは持っています。

あと、これはぼくも仕事をするまではそうだったんですが、世の中は、障がい者専用と健常者専用をすぐに作りたがりますよね。でもそれは安全性の担保する目的もありますが、やっぱちょっと健全じゃないと思います。同じ目線の高さで、フラットに関係性を持つ方が面白いし健全です。

いわゆるパラ開会式の経験がストレートに次につながっている例ですね。ありがとうございます。

「人生には、飲食店がいる。」というキャンペーン

田中

もう一つは、2021年にサントリーさんと一緒に実施した「人生には、飲食店がいる。」というキャンペーンです。

飲食店でポスター見ました。これはどういう経緯で生まれたのでしょうか?

田中

2021年の夏頃でしょうか。コロナは第5波の半ばにあった頃です。サントリーさんから相談をいただいたんです。飲食店を救うことができないだろうか、と。徐々に営業自粛や時短営業が解除されてき、飲食店にはそれでもなかなか客足が戻らず、苦しむ状況が続いていました。潰れてしまうお店もかなり多くて。

「話そう。」の時は、自主プレと伺いましたが、これはクライアントさんの意思が先なんですね。

田中

はい、素晴らしいことだと思いました。一方で、結構悩みましたね。企画に苦しんだというか。

同じように見えて、全然違うんでしょうか?

田中

あの頃の社会情勢のことを思い出してほしいのですが、やはりどうしても飲食店はコロナを蔓延させるきっかけになっていると報道などでも言われていました。一企業が「飲食店に行きましょう」とパブリックな場所で言う事のリスクがすごくあると直感的にわかりました。

確かに。下手したら企業のイメージすら下げかねない。

田中

はい、なのでなかなか企画が出ないまま、何度か打ち合わせをしていました。で、3回目くらいのプレゼンでしょうか。もういい加減、企画をまとめなきゃというタイミングで。ふと、自分と飲食店の関係を思い出したんです。

例えば、部活で試合に勝った日や負けた日に仲間と喜びや悲しみを分かち合ったり、仕事の悩みを同期に聞いてもらったり、好きな人に思いを伝えに行ったりと、飲食店はただご飯を食べたりお酒を飲んだりする場所ではなくて、もっと意味のある場だったなと。

実は人生のいろいろな場面で僕らは飲食店に支えられていたんだと気づいた。飲食店に行こうという投げかけではなく、ただ、その事実と感謝を伝える広告にしようって思ったんですよね。その場で、企画書もないまま、それをプレゼンしました。

おお、それはブレークスルーですね。

田中

で、そこからは、店頭に貼るポスター、TVCMと、進んでいったわけです。

あの映画を繋いだCMもすごいですね。あんなの見たことありません。

田中

ははは、僕も見たことないです。

あれは、どういう意図でそうなったんですか?

田中

最初は普通に撮影してもいいと思っていたんです。ですが、リアルにやろうとすると当時はマスク飲食、つまり食べるときはマスクをずらして、口に物が入ったらマスクを戻すのが推奨されていましたから、リアリティを追求するとどうしてもCMの絵が晴れやかにならないと思ったんです。で、その時に、誰もが見た瞬間に今撮影した物ではないと分かる映像だったら、エクスキューズになると思ったんですよね。

おお、すごい。でもよくあんなにたくさんの映画を使うことができましたね。

田中

はい、それは手伝ってくれたプロダクションさんが本当に一生懸命許諾に奔走してくれたり、あとは、役者さん、監督、多くの映画関係者の方が今回のメッセージに共感してくれたというのも大きいです。

田中さんの仕事はいつも手紙を書くイメージがあります。「話そう。」でもタレントさんに手紙を書いたんですよね。

田中

はい、今回も手紙を書きました(笑)

あ、そろそろ時間ですね。今回もめちゃくちゃ刺激をもらいました。田中さんの仕事のスタンスやビジョンが変化していっているのがよくわかりました。

田中

いえ、こちらこそありがとうございます。

また、お会いしてお話を聞くのが楽しみです。

田中

取材してもらえるように頑張ります。

*ALSとは 
筋萎縮性側索硬化症。手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく難病。筋力の低下を引き起こすが、意識や五感、知能の働きは正常のまま。世界で35万人、日本には約1万人の患者がいる。現在、治癒のための有効な治療法は確立されていない。 

Edit & Text:Daisaku Mochizuki
Photo:Katsumi Hirabayashi