シウマイ弁当に出会ったまえとあと【後編】

三代目 桂枝太郎
落語家
市島晃生
食べ方学会 会長

以前ツブヤ大学で「シウマイ忘年会」というイベントを開催していた。シウマイ忘年会に出演いただいていた枝太郎さんと市島さんのおふたりに、シウマイ弁当に特化して想いを語っていただいた。その後編。
※崎陽軒さんの全面協力で実施いたしました。

Profile

三代目 桂枝太郎
岩手県奥州市衣川出身。1996年、桂歌丸に入門し前座、桂歌市。2000年二ツ目昇進で桂花丸。
2009年真打で、三代目桂枝太郎襲名。岩手県初の真打ち落語家。
古典・新作両輪で活動。新宿末廣亭、浅草演芸ホールの主任をつとめる。
落語以外にもメディア、コラム、小説等で幅広く活動。
公式サイト
市島晃生
神奈川県大和市出身。1966年生まれ。
本業はテレビディレクターで「料理の鉄人」「ウンナンのホントコ」などを担当。
2017年に食べ方学会を立ち上げ、同人誌「食べ方図説 崎陽軒シウマイ弁当編」1-4巻を刊行。最新刊は「崎陽軒シウマイ弁当 ゲノム解読完全データ」
食べ方学会 Twitter

Index

協力:株式会社 崎陽軒

シウマイ弁当、何から食べる問題と、推し食べ

市島

自分の中の「前と後」で言うと、『シウマイ弁当の食べ方の本』(食べ方図説)を書いてからの「前と後」がもう全然違うんですよ。

もともとテレビのディレクターとして裏方でずっとやっているんですけど、「食べ方図説」を出したら本がプチブレイクして、そこからいろいろなメディアで「シウマイ弁当の食べ方」を語ってほしいとなりました。

普通はこんなことないんですよ。メディアやイベント問わず、いろんな場所に出たり、こんなに人前でしゃべることもなかったのが、急に同人誌がきっかけで脚光を浴び、崎陽軒に詳しい人とみられるようになりました。

枝太郎

タモリ倶楽部は出てますよね?

市島

タモリ倶楽部は出てないです。基本的にテレビ側の人間なんで、いじりやすい、いじりにくいがあるだろうなと思います。

枝太郎

もともとシウマイ弁当が好きなわけじゃないですか。そのモヤモヤしたものを全部同人誌に吐き出したんですか?

市島

そうですね。でも吐き出すというよりも思い出した感じなのかな。もともとはコミケに出たくって、同人誌を作りたいと思ったとき、他にも食べ物の同人誌があった中で、普通にカレー屋さん紹介の同人誌とかを作ってもしょうがないと思って。そこで崎陽軒のシウマイ弁当の食べ方は同人誌にできると考えて、誰もこれまで崎陽軒のシウマイ弁当の食べ方を解説する本を作った人がいなかったので。

もっと言うと、シウマイ弁当のご飯の上に数字を振りたかったんですよ。シウマイ弁当だけが唯一ご飯の上に数字をふることができるので、そのビジュアルが受けたんじゃないかと思ってるんですけどね。

それを実現したいと思ってからは、まさに全てをそこにつぎ込みました。ただの同人誌なのに、社長にも聞くぞみたいな意気込みで。(実現されてますが)

枝太郎

心の中でモヤモヤと思っていたものが、ようやく具現化されたわけですね。

市島

かもしれないです。

枝太郎

シウマイ弁当をどっから食べるんだとか、この食材に行った後に、この食材に行くんだってことについて、みんなモヤモヤと思ってるけど話題にできない。そこまで細かく見られるのもみたいなモヤモヤを、市島さんはちゃんと同人誌を作って吐き出してくださった。

市島

そうなんですかね。

枝太郎

みんな思ってるんですよ「お前最初にこれ行くの?」みたいなことを。

市島

普通はそれをしゃべっていいはずなんですよね。

枝太郎

シウマイ弁当のなかで何を一つ目に食べるかって話で言うと、うちのかみさんと初めてシウマイ弁当を一緒に食べたときに、かみさんはあんずから食べた。

市島

「え?」

枝太郎

かみさん曰く、とりあえず口の中をマイルドにしたいそうで。でも「最初にあんずはないな…」って思った記憶はありますね。「こんな価値観の人とは付き合えない」って(笑)。

市島

自分の中で絶対と思ってることが揺らぐことがあるんですよ。シウマイ弁当の中であんずが最初の人っていうのは、意外とあんずが苦手で、最初に食べてなかったことにするってタイプもいるんですよ。

それを責めるのはちょっと分かります。でも逆にリフレッシャーとしてあんずを食べるのは、それはちょっと新しいと思いました。

枝太郎

たとえば乃木坂46とか、好きな推しのアイドルがあんずを最初に食べたら引きませんか?

市島

引きはしませんけど、見えないものが食べる順番って見えちゃうんですよ。

枝太郎

そうですね、ファンはやめますね(笑)。

市島

でも、逆にアイドルに対する「推し食べ」も最近あると思うんですよ。例えば、その「推し」のアイドルが食事をこういう順番で食べますってあるとするじゃないですか。その順番と全く同じ食べ方で食べる「推し食べ」があると思うんです。

たとえば好きな推しの人間があんずから食べたとするじゃないですか、それは推す側からするとやってみたくなると思うんですよ。

枝太郎

いやあんずを最初に食べに行くような人は、ちょっと僕は親の顔が見てみたい(笑)。

市島

なるほど、あ、でも親の顔、あ、そっか

望月

見てますねw

シウマイ弁当で夢のビュッフェ企画を実現したい

市島

同人誌で国民アンケートをやったときに1番多かったのが、筍煮からで、2番目がシウマイの中で端っこにある1つだけ飛び出したシウマイを食べる人でした。

僕は崎陽軒の皆さんにも「まず何から食べるのか」食べ方を聞いたんですけど、一番多かったのはご飯からでした。

枝太郎

やっぱりご飯ですか。

市島

ご飯から食べる理由は、崎陽軒の皆さんは、おかずの部分はもうどんなコンディションか分かっていると。ただご飯のコンディションが日によってどうなっているのかがあるので、確かめるためにご飯から食べるっていう人が多かったです。それぐらいシウマイ弁当のご飯は繊細らしいです。

枝太郎

あと食べ方はどの年代で食べるのかによっても違ってきますね。僕、若い頃はいきなりシウマイでした。いまはシウマイをがっついてもな、みたいな感じにもなるんで、年齢によって食べ方は違ってくるんですね。

市島

ちなみに、(同席している)崎陽軒広報の柴田さんは、最初にご飯を二俵食べるそうです。さらに柴田さんは崎陽軒のシウマイも好きだけど、鶏の唐揚げが好きなんですよね?

柴田(崎陽軒 広報)

はい

市島

一時期シウマイ弁当で、シウマイの代わりに鶏の唐揚げがいっぱい入った弁当がありましたよね。あの弁当は広報さんたちが発案者なんです。

枝太郎

自分が好きなやつを弁当に詰め込んだわけですね。シウマイ弁当の中身が個別にあったら面白いかもしれないですね。酒のつまみの感じで、おかずだけ買えるとか。そうなったらめちゃくちゃ嬉しい。

市島

崎陽軒の弁当バイキングやビュッフェはないんですかね? 要は何かって言うと、崎陽軒のおかずがビュッフェ形式になっていて、お客さんは空箱だけ持ってるんですよ。ビュッフェ会場に行って、自分の好きなように、会場に並んでいるおかずを詰め、自分だけのお弁当を作って食べられるような形。値段も1箱1000円ぐらいの設定で、おかずはシウマイでも他のおかずでも何でも何個でも入れてもいいんですよ。そんなビュッフェ企画があったら楽しいんじゃないかと思いました。

崎陽軒 広報

アイデアありがとうございます…。

市島

ビュッフェ企画はどう考えても流行りますよ。だって、自分が作ったMyシウマイ弁当だから、絶対インスタ映えしますよ。

枝太郎

子どもが作った夢のお弁当みたいですね!

市島

この企画だと半分が全部ご飯で、もう半分が全部筍煮ってお弁当もやろうと思ったらできますもんね。

枝太郎

僕としては毎年出していただいている歌丸弁当が来年再来年と続き、桂歌丸を美空ひばりさんのような存在にしなきゃいけないと、自分の中の使命にしています。

崎陽軒の歌丸弁当は記念の一つとしてありがたいんですよ。桂歌丸の命日である7月2日は悲しい日なんですけどね。毎年命日を歌丸デーみたいに、お祭りにしていきたいです。今年はコロナ禍で落語会ができなかったんです。でもその代わりに崎陽軒で歌丸弁当があったので、それは嬉しいですね。

市島

それはよかったですね! 僕も崎陽軒さんに向けてアイデアを言うことができたし、いろいろ実現したら良いなと思います。

これからも不変的なシウマイ弁当なのか?

枝太郎

これから崎陽軒はどうなっていくんですかね。シウマイ弁当は進化していくのか?

市島

基本はローカルに根ざして変わらないっていうことなんで、僕が崎陽軒の広報さんを代弁しているような感じですが(笑)

あとは時代に応じて、たとえば昔は玉子焼きが入ってなくて、レンコンの炒め煮になっていたり、この先はどうなんですかね。

枝太郎

これからも100年、200年はもちろん続くんでしょうが、このままのスタイルで続くんですかね? ちょっとバージョンアップしたり、リニューアルがいろいろあるのかな。

柴田(崎陽軒 広報)

「昔ながらのシウマイ」は変わりません。昭和3年からレシピを変えてないので、変わらぬおいしさを守っていきたいです。ただ時代の流れもあるので、「えびシウマイ」とか「かにシウマイ」とか派生品などを出して、皆さんに飽きられないように、時代の変化には対応していきたいと思います。「シウマイ弁当」も今までと同様に世の中の変化に対応しつつ、皆様の思い出の味を守っていきたいです。

枝太郎

流行り廃りはありますが、意外と味覚は時代に左右されないんですよね。

市島

大事ですね、変わらない。

枝太郎

鰻や蕎麦の味は江戸時代から変わってないですからね。時代によって濃い蕎麦が出たり、太い蕎麦が出たりありますけど、蕎麦は蕎麦だし、鰻は江戸時代から変わっていない。

だから、この先も崎陽軒も変わらないんじゃないですか。シウマイがでっかくなったり小さくなったりはあるでしょうけど、僕は変わらないと思いますね。変わってほしくない。

市島

崎陽軒さんのシウマイ弁当のスタイルはそれこそ何十年も前に確立しています。伝統を作ってるってことはすごいですよね。これだけ味が多様化してるのに、ずっとシウマイ弁当の味は変わらない。

枝太郎

そうですよね!すごいですね。

市島

もし変わることがあるなら、もともとシウマイ弁当ってシウマイが4つだったのが、 5つに増えたりしてるじゃないですか。もしシウマイが6個に増えるとしたらどこに入るんだろうって問題かなと。でもどれかをトレードするとなるとシウマイ6個の実現は難しいですね。ご飯8個から1個取ってしまうのもダメじゃないですか。

枝太郎

だから、そこは微妙な割合なんですよね。ご飯はあのもちもちのご飯が必要ですし、何を取るかですよね。

市島

たとえば「シウマイ弁当の中だと蒲鉾があまり働いていないから、蒲鉾を交換しよう」としたら、どこかにそれを怒る人がいるじゃないですか。

枝太郎

難しいですね、だから結局全てが必要なものなんでしょうね。

市島

そうなんですよね、

枝太郎

シウマイ弁当の完成度としてあれ以上はないですね。

市島

そうなんですよね。だからバランスを変えると、また元の形に戻されるんだろうなって。

枝太郎

最後にすごい濃い会話でしたね。

Edit & Text:Daisaku Mochizuki
Photo:Katsumi Hirabayashi