新たな視点を得るまえとあと

かつしかけいた
マンガ家

取材で話を聴いていったり、たまに脱線したりすると、意外な偶然や意外なつながりを発見することが多々ある。今回もそんな経験をした取材の話です。

Profile

かつしかけいた
葛飾区出身、在住。2010年頃より地元葛飾周辺の風景を描いたマンガ作品を発表、自主制作マンガ誌『ユースカ』『蓬莱』に参加。イラストレーターとして雑誌や書籍の挿画なども手がける。現在「トーチweb」にて『東東京区区』連載中。

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『散歩の達人』で連載をはじめて知った新たな視点

かつしか

去年から雑誌『散歩の達人』で「水と歩く」という漫画を、Web『さんたつ』でその取材記『「水と歩く」を歩く』というエッセイを並行して連載しています。

ー『散歩の達人』の編集長もされていた武田さんはまえとあとでも取材しています。

https://maetoato.com/525

かつしか

それまでデビュー作の漫画『東東京区区(ひがしとうきょうまちまち)』(トゥーヴァージンズ社のWEBコミックメディア「路草」で連載開始、昨年リイド社の「トーチWeb」に移籍、現在はリイド社より同1巻の電子版が発売中)で、東京23区の東部の街を描いていました。だから、それ以外の街を書く機会がなく、プライベートで歩くことはあるんですが、ちゃんと調べるようなこともありませんでした。

『散歩の達人』の連載テーマを決める際、東京の東側はわりと歩いているので、それ以外の地域も描いてみたいって話をしました。いろんなところに行けるようなテーマで話し合った結果、水にまつわる場所、例えば川沿いや池の周り、あるいは暗渠であれば、連載として、共通のテーマを追う形で、いろんなところに行けると考えました。最終的には、東京近郊の水にまつわる場所を歩く連載が始まりました。

それまでは、ずっと23区東側の低地、自分が知っていたり、雰囲気が似ている街を歩きがちでした。実際に連載を始めてみると、そうではない街をゆっくり見るようになりました。いま改めて街を歩くのは面白いなってことを感じています。

連載の取材がなかったら、おそらく行かなかっただろう街も回っています。例えば羽田近くの埋立地である城南島ですね。

皆川さんの「スリバチ」ではないんですが、低地以外の土地の面白さとか、横浜の高低差のアップダウンにすごく興奮しました。野毛山辺りに水道道があって、すごいジェットコースターみたいなアップダウンの道がありました。

ー僕も最初に住んだところが丘の上だったんで、行きは楽なんですけど、帰りがもう階段に階段、そして階段みたいなところで大変でした(笑)。

かつしか

やっぱり地元とは違う部分、地形的にだったり、成り立ち的にもだったり、街を歩いて、改めて東京の東側を見たとき、外側の目線を得ることができていると感じます。

都心と郊外のノイズの違い

ー連載のなかで、いちばん興味・関心があったところはありましたか?

かつしか

この間、井の頭公園に行ったんです。

ー湧き水の?

かつしか

そうです。

ーそれこそ東京スリバチ学会の皆川さんがすごく推してますよね。

かつしか

それまでの連載は、街の中をぐるぐる歩くって感じでした。1年経って、少し別のことをやってみようとなりました。もう井の頭公園以外のところは回らずに、井の頭公園周りを歩く。そこだけでやりました。※『散歩の達人』2026年3月号 「水と歩く第15回 井の頭恩賜公園(東京都武蔵野市・三鷹市)」

久しぶりに井の頭公園に行ったんですが、駅を降りて、吉祥寺駅から井の頭公園まで歩いているときに感じたことがあって。その取材のときは、新小岩から電車で吉祥寺まで行きました。そうすると、さっきまでいた新小岩との吉祥寺の街の雰囲気のギャップを感じました。

これはあくまで私個人の感覚的な話でしかないのですが、23区西部や多磨地域の住宅街、三鷹や吉祥寺を歩いたときに、街中の「ノイズ」が少ないと感じるんですよ。

東側にある雑味というか、いろんな聴覚的な、町工場のガチャガチャって音とか、あるいは視覚的なゴミゴミしている細い路地などの風景が「ノイズ」と感じさせるのかわからないんですが。23区西部や多摩地域は、住むために作られた街って感じがしたんです。

ーたしかにノイズが違うと面白いですよね。関西でもありそうですよね。阪急沿線と京阪沿線でもノイズが違うんでしょうね。阪急沿線は作られた街だからみたいな。

かつしか

そんな感じだと思います。同じ東京に住んでいるはずなのに、こんなにも違う環境に住んでるんだって。

ー郊外に行けば行くほどそういう感じになりますよね。どちらか言うと都心の方が昔からある街だから、そういう意味では東京の東側は下町として、江戸の頃からあるわけだから、やっぱりガチャっとしてるんでしょうね。吉祥寺は新しくできたダウンタウンという意味で、ノイズが違う感覚って意味は理解できます。

かつしか

ノイズが違うというか、ノイズが少ない感じです。普段は東側のノイズだらけの街で暮らしていて、吉祥寺のようなところに行くと初めて「あれ、ノイズだったんだ!」と気づく。

静かな場所に行ってはじめて、さっきまでうるさかったんだと。日常的にうるさいところにいると、そのうるささにあまり気づかずに、それが当たり前になってるので。

ーそんな感覚ありますよね。テレビも、昔はブラウン管で見ていたのに、今見たら全然あかんみたいな。慣れって怖いみたいな(笑)。

かつしか

そうですね。あと、郊外だから落ち着いていて静かな住宅地かというと、もちろんそういった街ばかりではなくて。

例えば埼玉県の三郷市へ行ったときには、倉庫だったり、あるいは工場とか都心部から次第に郊外へと移された産業があるって意味で、23区東部の延長線上のような雰囲気を感じました。

だから単純に距離の問題ではなくて、土地の使われ方、用途も雰囲気の違いに関係してくるんでしょうね。町工場の多い地域で育ったので、私自身はどうしても工場や倉庫がある風景にシンパシーを感じてしまうのですが。

東京と大阪のノイズ感

かつしか

コロナ禍前に、学生時代から関西方面が好きで、休みのたびによく行ってました。僕が行っていたころの大阪はまだ全然インバウンドの影響もそこまでなかったので、西成の2000円ぐらいのところに泊まって、自転車で市内を回っていました。南海沿線とか、岸里とか玉出とか、あの辺りはすごく落ち着くんですよ。

ーノイズという意味では、宝塚や芦屋みたいな阪急沿線は落ち着かないですよね。

かつしか

阪急は阪急で全然違いますね。あと京阪沿線も守口や門真とか。昔、うちの父親が高校を卒業して最初に就職した会社の本社が大阪にあったんです。その会社の寮があったのが京阪沿線の大和田だったか古川橋の辺りにあったんですよ。

その寮に半年ぐらい在寮していた話を聞いて、周辺を興味を持って歩いたことがありました。でも守口や門真ぐらいの感じもなんか、岸里や木津川沿いとは、またちょっと違うんですが、でもやっぱり住と工が近い感じは、23区東部との近しさを多少感じました。当時はそこまで細かくは見ていなかったのですが、あらためて似ているところや違うところを意識しながら、また大阪を歩いてみたいですね。

ーたしかにその違いは面白いですね。

かつしか

『東東京』だけを書いていた時には、そこまで他の地域への関心が強くありませんでした。でも『散歩の達人』の取材で歩いていて、いろいろと調べてみると、この街はこういう歴史があってとか、こういう成り立ちがあって、こういう経緯があってこういう風景ができているんだと。自分の地元との共通点もあれば、違うところもあるので、どの地域へ行っても面白いです。

ー経験値というか、ある意味ストックされていくものはありますよね。

かつしか

それを見た後で、もう一度自分の街を見直してみると、また別の視点で見れたりします。

『メトロミニッツ』での連載で見つけた新たな視点

かつしか

『メトロミニッツ』でも連載をはじめたんです。30代くらいの働く女性が仕事終わりに一人でふらっと入れるようなお店を紹介するというコンセプトの漫画を描いています。

連載で編集者さんがピックアップしてくれたお店から、私が「今回はここへ行ってみたいです」と希望を伝えてアポを取ってもらっていきます。

お店の料理をいただき、プラスそのお店の人の話を聞かせてもらうんですが、なぜこの街に店を出したか、平日・休日・週末で客層が違うみたいな話を聞いていると、その土地で商売をやっている人ならではの視点を感じます。これも今まで見てなかった視点から街を見ていることに気づき、面白さを感じています。

このメトロミニッツの連載で、最初に訪れたところは小伝馬町にあるフレンチレストランでした。女性シェフが1人でやっているお店です。小伝馬町周辺を歩いたら、日本橋もマンションが多くなっているので、子ども連れの人たちが公園で遊んでいる姿を見るんですよ。

日本橋周辺って思っているより住まれてる街なんだなと思って、話を聴いたら、平日はお店の近所に勤めるサラリーマンが来るけど、休日は地元の人も来るそうです。あるいは近辺で新しくお店を開く人もあったりで、お店同士のネットワークもあると。

あるいはパンだと近所のパン屋さんからいつも仕入れているとか、飲食をやっている人ならではの地域のネットワークについて、その取材の中でどのお店に伺っても聞くので、ただ街を外側から歩いてるだけでは見えてこない街の見え方だなと感じます。だからメトロミニッツの連載が始まってから、また新たな視点を得ました。

それまでやってきた仕事と重なりつつも、いま違うことをやらせてもらっているので、それによって得られる視点は、たくさんあります。

Pic & Edit & Text:Daisaku Mochizuki