ライフスタイルの変化に気づくまえとあと

伏谷博之
ORIGINAL Inc. 代表取締役
タイムアウト東京代表/発行人

まえとあとでは、未曾有のコロナ禍の「いま」の話について聞くことが多い。今回もそんな話からこの記事は始まる。でも他の取材のときとは違う感覚の話を聞いて、また自分の視野が拡がった気がした。そして今こそ日本のポテンシャルを考えるべきなんじゃないか、とも感じるインタビューとなった。

Profile

伏谷博之
島根県生まれ。関西外国語大学卒。大学在学中にタワーレコード株式会社に入社し、2005年 代表取締役社長に就任。 同年ナップスタージャパン株式会社を設立し、代表取締役を兼務。タワーレコード最高顧問を経て、2007年 ORIGINAL Inc.を設立し、代表取締役に就任。2009年にタイムアウト東京を開設し、代表/発行人に就任。観光庁、農水省、東京都などの専門委員を務める。2021年 一般社団法人日本地域国際化推進機構代表理事に就任。
ORIGINAL Inc.
タイムアウト東京
Twitter:@originalblog

Index

僕らはコロナ禍で未来に行ったのかも

いろいろとコロナ後の話を聞いていると、完全には元に戻らないという人と、元に戻るんじゃないかという人がいました。そのあたりを伏谷さんは、どう考えられているのかなみたいなところから聞いていければなと。

伏谷

コロナは本来だったらちょっと先に起こるようなことを、先に見せ始めていると感じています。だから元に戻るではなくて、ちょっと前に出ているのかな。

前に出る?

伏谷

スキップしている感じ。未来へ少し行ったように感じていますね。周りには、もう少し前倒しで未来に来たように言っている人と、もちろんまた戻るんじゃないかって人、それから現状がある程度続くんじゃないかって人たちはもちろんいるんだけど、僕は少し前に進んだと感じてますね。

それってどういうところからですか?

伏谷

今まで人が集まるってすごいことだったわけですよね。バンドやメディアでも、人が集まるってすごいことなんだけど、今は人が集まるとちょっとリスキーで怖いとなってしまったので、密から疎へ分散のほうに動いた。分散の仕方もいろいろ具体的に見えて来ています。

ひとつはオフィスでの働き方自体がずいぶん変わった。リモートワークが進んだり、ワーケーションが推奨されたりで、オフィスに来なくてもいい形になった。そういう意味では、今まで毎日オフィスに行かなきゃいけなかったのが行かなくてよくなり、自分の裁量時間のマネジメントの中で、仕事をやったりすればいいことになりましたよね。

これって空間が解放されたようなイメージで捉えてるんですが、それと同時に時間も解放された。どういうことかというと、今までは、たとえばフレックスタイムで働く場合もコアタイムがあり、会社の仕事をするメイン時間帯を設定されていたわけですよね。でも、本当は自分のパフォーマンスが夜中の2時〜4時で頭が冴えるし、クリエイティブな発想が浮かぶって人もいるわけです。

そういう夜型でパフォーマンスの高い人が、無理矢理、昼間に働いてたってこともあると思う。昼とか朝とかそういうことでなくてもいいんですが、要するに自分が一番パフォーマンスが発揮できる時間帯で仕事や活動をすることが許されるようになってきている。

4年ほど前から僕らも関わってやってきたナイトタイムエコノミーを活性化しようって取組みがあるんですが、これはふたつの試みがあって、ひとつは夜の賑わいを作り、夜の消費をあげていこうってもの。もうひとつは、海外のグローバルシティ、国際都市で取り組まれている、24時間都市。ダイバーシティの文脈のなか、夜に活動する人もいるんだから、24時間昼夜問わず同じように人生を楽しめるようにしたいという考え方です。

後者の可能性が日本でもあるかなと思って、ここ数年見てきたんだけど、コロナ禍で少しそうなりそうかなと感じてます。今まで頑なに9時〜17時で出勤するような会社が主流みたいな日本社会を考えると、かなり未来へ進んだように見ているわけです。

そうですね。その視点は今までなかったかも。確かに進んだ面もありますよね。それこそ僕はツブヤ大学を10年以上前にはじめた頃、Ustreamが流行ったおかげで、あれがあったからオンラインでいろいろ出来るなって思った。

そのころUstreamは多少流行ったけど、まだYouTuberもそんなにいない時期でやっていたときから考えると、今はもうZoomだなんだオンラインだ、オンラインをやれみたいな感じですよね。

伏谷

そうですよね。

当たり前になってきているのがすごいですよね。

伏谷

すごいと思いますね。タイムアウトはロンドンが本社ですが、数年前にロンドンに行ったとき、人気のラーメン屋に行くと、カウンターでお一人様で食べている人たちが、みんなiPhoneを立てて、テレビ電話で喋りながらラーメンをすすってるんですよ。

その光景を見て、そういえば、スマホが普及したらテレビ電話が広がるとか言われてたけど、日本では当時、自分も使わないし周りもそんなに使ってる人がいなかったなと。実家の親に赤ちゃんを見せることはあるかなぐらいでしたよね。だけど、今回コロナ禍で一気にSFの世界で見るテレビ電話的な世界が一般にも普及したじゃないですか。そういうのを見ると、やはり未来に進んだ感じがしますね。

コロナのまえとあと / 竹中功

地元の良さを再発見するチャンス

海外から日本マニアな人たちが来るような番組を見ていると、日本人が意外と日本のことを知らないケースも多いですよね。

伏谷

そうですね。僕らはタイムアウト東京を始めて10年になります。あらためて日本を外国人目線で見てみようということで始めたんですけど、僕ら自身、日本について知らないことがすごく多いと気づかされ続けてきた。

コロナ禍に星野リゾートの星野社長の発信で、マイクロツーリズムがばっと広がった。マイクロツーリズムは地元を再発見しようという旅ですが、地元の人たちに、どうして外国人観光客が自分たちの地元を訪れていたのか。そこにどんな価値があって来てくれていたのか、ちゃんと知ってもらう良い機会にもなるんですよ。

だから、すごくいいことだなと思っています。地元の良さってその土地の歴史や文化、あるいは生活習慣を掘っていかないと、なかなか見えてこないし、その土地の個性が浮き上がってこないんですよ。

最近はだいぶ変わってきたと思いますが、90年代はどこも金太郎飴のような感じで地方の駅前開発が進み、イオンなどのショッピングモールができるような時代が続いていて、どこへ行っても同じ、という状況が言われていました。しかし今回はそれが変わるきっかけになるかなと。政府は東京に集中過密しているので分散しましょう、地方に移住しましょうとか、ワーケーションで地方に行って仕事してくださいってことをさらに進めてくると思います。

そうなったときに地方側からすると、「あっ、これで東京の人たちがうちの街に来る」と思うかもしれない。でも選択肢の俎上に乗るためには、その地域に個性があったり、魅力がないといけないじゃないですか。そう考えると、地方は自分たちの暮らしている地域の良さが何かを真剣に考えないといけない時代になったと思います。

各地域が個性的になることは、日本にとってすごく良いことで。コロナ禍が明けた後、もう一回インバウンドやろうぜって国境のゲートが上がったとき、日本にはいろんな個性的な地域があるんだね、面白そうだよねって感じで、また海外から来てくれる可能性がありますよね。

そういう意味では、これをチャンスと捉えるところはいい機会ですね。

変わりつつある観光の意味

僕がタイムアウト東京を始めて、それまでいた音楽業界から観光業界にちょっと片足を突っ込んでみて思ったのが、観光業界はすごく古いところだなということ。仕組みが出来上がっているんですよね。たぶん若い世代はそう考えていると思うんだけど、いま世界のトレンドのなかでは、観光って、いわゆる観光業とか旅行業のことだけだとは考えられてないじゃないですか?

はい。

伏谷

名のある観光スポットに行き、拝観料を払い、お土産を買って、その地域の有名な蕎麦を食って帰るという旅の形は、もう古い気がしています。そうではなくて、そのエリアで若い人がちょっとイイ感じのバーをやってますとか、カフェをやってますとか、たとえばすごくいいクラブがあったというときに、そういうところに寄って、地元の人たちとコミュニケーションする。地元の生活を少し垣間見る。そしてそれを自分の日常に持ち帰り、じゃあ来年も遊びに来るからね!みたいな感じのつながりを作っていくことが主流になってきてると思っています。

そんなカフェやバーをやっていたりする人たちは、自分たちのことを全然、観光業だと思ってないですよね。もちろん旅行業でもない。だけど本当は、観光の大きな傘の中で見ると、従来の観光業とか旅行業の先に、毛細血管のごとく津々浦々までそういう多様な事業者の生態系があって、そこでも観光をキーワードにして、ビジネスや交流のできる営みがあると思うんです。

そういう構造について業界の人たちがうまく捉えきれてないし、説明しきれてないと思っています。たとえばいま是非が言われている「Go to トラベルキャンペーン」もそうだけど、あれを観光業や旅行業だけでみると、確かになぜ観光業と旅行業だけ支援するんだって話になる。だけどあのキャンペーンで人が移動して、地域の毛細血管の先っぽの方まで行き、少しかもしれないけどお金を落としてくれましたとか、小さなカフェやショップでこういうものを買ってくれましたということが起こり得るのが、「Go to トラベルキャンペーン」のすごいところなんだと。

観光業界に属してはいないけど、その街で営まれているいろんな小さなビジネスをやっている人たちのところにも、お客さんが来る可能性を作れるのは、あのキャンペーンの妙だと思います。でもそこを言っている人はあまりいない。そもそもそういう生態系があると思って見ていない。だから本当は、毛細血管の隅々まで血液を流すために、あのキャンペーンはやったほうがいいって声がもっとあってもいいのかなって気がします。

平林

日本で観光というと、どこかに行って表面だけ見て、自分にとっては普段の生活を完全に切り離した別のもので、表面だけ見て帰ってくるから楽しかったで終わってしまう。今お話を伺って思ったのは、自分の普段の生活枠の中で行って、そこでつながって、しかもそれが持続的につながってとなったら、後々まで影響が出るでしょう。

伏谷

初めて行ったときは一泊二日だったけど、すごく良かったから何度も通って、次は二泊行こうとか、1週間休みがとれたら、あそこで暮らしてみようとか。1カ月暮らしてみてしっくりきたんで、5年後に移住することにしましたみたいに、地方としてはこういうことが起きてほしいわけですよね。僕らもそういう体験を求めているところがあるじゃないですか。

平林

みんな理由付けが欲しくて、「なんとか神宮が見たい」という簡単に言葉にできる理由付で旅行に行くことが多い。だけど「そこで何するの?」と聞くと、「別に何にもないけど、とりあえずいるだけ」とか、そういうことが多いような気がしますね。

伏谷

有名な観光スポットについて調べると日帰りが多いんですよ。政府は観光消費で成長の柱を作ることをやっているわけだけど、観光でお金を落としてもらうためには、滞在してもらわないと、お金は落ちないじゃないですか。だって一泊するのと日帰りでは、落ちる金額も全然違うわけだし、さらに言うと1週間いてくれたらと考えるべきですよ。でもなかなか滞在型になってない。せっかくコロナ禍でワーケーション推奨とかリモート推奨で時間の自由が利くようになっているわけだから。

ライフスタイルの変化途上

平林

伏谷さんのところは、旅行・観光にはどう関わっているんですか?

伏谷

タイムアウトはもともと1968年にロンドンで創刊されたシティガイドで、日本で言うと「東京ウォーカー」や「ぴあ」の元祖みたいなものです。いまは世界中に広がっていて、世界315都市で同じブランド・同じフォーマットのシティガイドをやっています。だから地域密着のガイドだけど、グローバルなブランドっていう少し変わった立ち位置なんですよ。

海外の人はすごくよく知ってるブランドなんで、海外の人が信頼しているブランドで日本の良さを伝えることで、より日本にも東京にも来てもらえるだろうってことで始めました。

だからメインはインバウンドをターゲットにやってきています。ただ、だんだんここ数年で変わってきたのは、外国人観光客にとってより過ごしやすい街づくりは、どうしたらいいんだろうかというような少し広い枠の相談が増えてますね。

平林

概念が変わってきていて、僕はそれが今いい方に行っていると思っています。ただもうちょっとスピードが速まってくれたら嬉しいな。

伏谷

だいぶ速くなっているんじゃないですか。

平林

そうですか?

伏谷

5年ぐらい前かな。ある知り合いに言われました。その人は本当に世界中を飛び回っているノマドの代表みたいな人なんだけど、その人が言っていたのは、「今までライフスタイルマガジンとトラベルマガジンで分かれていたけど、これはたぶん一緒になりますよ。ライフスタイルの中にトラベルを取り込んだライフスタイルが、普通になっていくと思う」と世界を旅していて感じたこととして話してくれたんですね。

僕らはもともとシティガイドだから、トラベルガイドではない。だけどシティガイドの方が、もしかすると観光スポット目当てに行くだけじゃなくて、その地域の生活を体験してみたいとか、その地域の誰かと喋ってみたいという旅のスタイルには、向いているんじゃないかと思いますね。だからシティガイドの方が、トラベルガイドよりも役に立つ時代が来るんじゃないかとやってきているとこがあります。

平林

この間の区別がなくなりそうですね。

伏谷

まさにその方向に行っている気がします。

取材のあと

音声配信アプリ Stand.fmを使って、取材後のインタビューをしています。

Edit & Text:Daisaku Mochizuki
Photo:Katsumi Hirabayashi