コロナのまえとあと / 竹中功

  • 竹中功作家 / 謝罪マスター

写真:平林克己
聞き手/編集/執筆:望月大作

バイトはじめるんですか?

以前テレビCMで松本人志がしつこく宣伝してたので、いまバイトアプリを登録してると、いつも案件の案内メールが来るんよ。そろそろバイトに行かなあかんなと思っていて。60歳以上で経験なくてもすぐに働けるって感じのを登録してるねん。

体はもう歳やから無理は出来ないけど、ひょっとして出来る仕事があれば、アルバイトしようかなって思って。ここで少しでもアルバイトをしていたらそれもネタになるんやけどね。ネタでやったら怒られるかな。まぁ労働に対する対価のギャラやからもらっても当然やろうから、バイトでもしてみようかと。

望月

でも真面目にやってればネタでも良いと思いますけどね。

竹中

そうそう。ものを書いたりする仕事もあるから、まだバイトには行ってないけど、時間の整理やコロナが落ち着いて職場に迷惑かからへんような仕事があるんやったら、ちょっと行ってもいいかな。

望月

でもそういうバイタリティがあるのが、竹中さんはすごいなって思いますね。竹中さんと同じ世代になるとバイトに行くなんて思う人のほうが少ないですよ。

竹中

それなりの大企業などで働いていた人にとってはそうかも知れへんけど、単純に考えて60歳過ぎて仕事があるなら、それは幸せやと思う。吉本興業に僕の同期が二人、役員で残っていたけど、偶然今年の3月末で二人とも退社してしまった。関連子会社に残るなどもせずに、会社人を辞めてしまった。一人は自宅の庭を農園に。一人は健康麻雀なるものをやってるとか。僕から見たら呑気でええなぁと思うけど、本人はどんな感じなんかな?

バイタリティがあるのは、このウイルスに負けずに生きていく免疫力を保持するみたいなことやからね。だってこれで気持ちがマイナスだったら体もマイナスになってるやんか。それは芸人を見ても、エンタメの世界ではよくある話。でもそれに限らずやろうね。気持ちが後ろ向きなやつは体も弱っていくから。

そういう意味でいうと、誰かにバイトをしろと言われたわけではないけど、やってみようと。怒られるかな、でも怒られたら謝ったらええか、とか言いながら、5000円くれたら嬉しいなって。夜中働いたら8000円くれるかもしれないなとか。というのは半分シャレもあるから、真面目に働いている人には叱られるかもしれへんけど。会社に行くだけ行って、仕事もせんと仕事しているフリしている人に比べたらマシやと思うねん。

望月

それはそうですね。

竹中

「竹中さん、お金あるのに趣味でバイトですか」と言われるけれど、ほんまにお金もないし。退職金ももう無いし、今も働いて飯を食おうと思っているわけやから、そういう意味でいうと、もう一回労働に出直さなあかん。いま本気で働くのはやってもいいと思ってるねん。

仕事の相性

望月

そういう発想の原点は昔からですか?

竹中

それは昔からやね。吉本の仕事も仕事で、職人さんみたいに歴史を積んで上手くなっていく面もあるけれど、年齢で積み上げられない仕事との相性で決まるものもたくさんあった。だから経験を積めば積むほど良いマネージャーとして良いタレントを生み出せるのかと言えば、そうでもない。自分と相性の合うタレントやったら、めちゃくちゃ売ってあげて日本一になる人もいるし、日本一のタレントとは合わないけど、本当に年間に1〜2回しか仕事をしていないような芸人を鍛える方が向いてる人もいる。

お笑いの基準は見る人によってバラバラで違うし、作り方も一つではなかった。そんな世界におったから、マニュアルも存在しなければ逆に感覚が重要で、フィーリングが大事やった気もする。

望月

仕事の相性は間違いなく大きいですね。結局仕事の内容よりも誰とやるかですよね。

竹中

そう。仕事によっては自分で決められないものもあるし、決められる仕事もあるし。それに1回相性が良かったから、一生良いとは限らへんからね。今度は仕事と相性が合うか合わないもあるもんね。僕は合わしていくタイプ。

昔はわりと僕に合わせてほしいとか、みんなで決めたものに対してみんなで合わせていこうとやったけども、歳取ってからは独立独歩が楽になっていったね。だから経営者になり、組織の面倒を見るのはきっと向いてなかったから辞めて良かったと思った。

最後は関連子会社の社長もやったけど、そうなると人を育てることや組織とか仕事を見る仕事になっていくけど、だからと言って自分がオーナーではないから、自分が何でも決めれるわけでもなかった。そういう意味では、ええ歳してそんなところで頑なに会社の座を守ることよりも、辞めることを自分で決めて、自分のことは自分で決めるほうが楽やった。

望月

でも歳を取っていくと、会社の座を守る人のほうが多いですよね。

竹中

多いよね。でもきっとその多くの人は良い大学を出て、それなりの企業に勤めていると、そう思うようになると思うで。僕は吉本に35年ほどいたけど、芸人はもちろんやけど、クリエイティブな人は本当に一匹狼やんか。ディレクターや作家、イラストレーターに写真家でもそうやんね。そんな人らは仕事がなかったら次は収入0円みたいなところがある。

今回のコロナで言うと、収入を求めるような局面でも大きく差が出たわけで、今のところ会社が潰れるところも多いけど、潰れなかったら給料くれるやん。雀の涙でもボーナスもあるかも。でも飲食業の兄ちゃんとか僕みたいな仕事をしていて、仕事が全部キャンセルとなったら、その月の月末も翌月も売上はは0円になるからね。その上、店をやっている人は家賃や人件費もいるやん。この辺が会社員であるか否かがはっきりしたところなんよ、銀行に振り込みがあるかどうか。

しかし企業人も商売人も、生き残らなければならないけど、コロナ前と同じ姿にはもう二度と戻らないと思う。その覚悟とその次の世界をどう設計するかが重要。「昔を夢見る」っておかしいよね。過去を懐かしんでいるより、未来を「夢見る」ことのほうが大事やよね。ということはそこのところの「想像力」が重要なのだわ。

この自粛要請のあった1〜2ヶ月間、暇で試されたけど、なかなかうまく自分自身でも実験してないよね。「何かネットで学びましたか」とか、「見たい映画20本に見ましたか」とか、どれも叶えられなかったのよね。でもここで何を考えたか、力をどう蓄えたかによって、このコロナショックがあと2年続いたとしても、めげんと生きていけるのか、もう限界ですと鬱になったり、喧嘩して離婚したり、会社潰れて本当に就職先がなくなって泥棒なるやつが出たり、もちろん自殺する人が増えることも予測されるだけに「気の持ち方」が生死を分けると思う。

僕は世界を救う立場じゃないんで、ようやらんけど、せめて知り合いが死にそうになっていたら助けてやりたいし、死にたい言うたら、「やめろ!」って止めるし、お金はないけどおにぎりを1個あげることは出来るし、自分以外におにぎりをくれる人を探すことは出来るはずやねん。

だからコロナショックを前にして、どっかで知力体力やないけど、その辺りの能力を上げたやつはこの先も強いと思う。家族との会話もするし、友だちや会社の上司も後輩ともまともな会話もできる。ここは人間力やね。ただ残念なことに、この「まとも」さえも再確認せねばならないほど、「社会性」を失った人間も増えてる。特に老人があかんなぁ。僕はそっちに行かないように我慢してる。「昔話しない。自慢話しない。説教しない。」て決めて生きてたら高田純次も同じことを言ってたわ(笑)。

別の何かを学ぶ仕組みが必要

望月

5〜10年経ったとき、いま学生世代の子たちって、コロナ世代と呼ばれるじゃないですか。

竹中

なると思う。何でもコロナのせいにしよるねん。勉強できないのはコロナのせい、いい仕事に就けないのはコロナのせい、結婚できないのはコロナのせい、離婚したのはコロナのせい、太ったのはコロナのせい、売上が少ないのはコロナのせい・・。言い訳に何でもコロナのせいや言いよるねん。

望月

ある種災害だから仕方ない面はありますけど、ちょっと可哀想ですよね。国が決めてしまったことやから、もうどうしようもないですけど。

竹中

家の責任だと言われても、家にも限界あるよね。

望月

親が教えることにも限界があるじゃないですか。それこそ中学校以上になってくると。だから今は可視化されないですけど、5〜10年経った時にかなり影響出てくるんじゃないかと。

竹中

そうなんよ。だからそのときはそのときで、今まで通りの試験をして、そこでフルイに掛けていくわけやんか。

だからこそ別の何か学ぶ仕組みを準備しておかないと、例えば因数分解は苦手だけど、ボランティアの方法を知ってますとか、人工呼吸の仕方は全員知ってますとか、他に身につけるものもあるんちゃうかな。

望月

親御さんも課題だけ出されて家でお願いしますと言われても辛いだけですもんね。

竹中

でも教育者側も崩壊しているからね。学校へ行くなと言うわ、面倒は見とけ、その人自身も家がぐちゃぐちゃになるやんか。

望月

子どもがいる先生たちも多いでしょうしね。

竹中

だから結局個人主義をここまで貫いてきたせいで、何かでちょっと助け合いをしようとしても、誰もノウハウがないし経験がないからやり方が分からない。

望月

去年の今ごろはワンチームだって言っていたのが嘘みたいで。

竹中

そこまで時間経ってないけどこんな程度。でもコロナウイルスに関しては半年経ってこんなことあったなーとはなってへんと思う。

想像力の低下

望月

今なかなか先を見通して何かをする人がいないですよね。

竹中

そうでしょう。夢といえば夢なんですよ。でもそれをいかに具体的なものに則って言うかは出来るはずなんでね。駅前のでっかい銀行はもういらん。コンビニのATMで済むもん。キャッシュレスが普及したらお金をポケットから出すことが無くなるでしょ。次の時代をどう設計するかぐらい、何でもかんでも経済学者に予測を聞くんじゃなくて、自分がどうするかぐらいは自分が語らないとね。知り合いなんか、仕事のギャラの支払い、アマゾンポイントやで。もう昭和の頭の企業、死に体やねん。

だから教育もそこですよね。学校が頼りになってないときに、親がどこまで何を教えるか。因数分解は教えられへんけれども、たとえば今回のナイナイの岡村隆史の話ではないけどね、差別や人権の尊さを教えることを今やっておいてくれるとかね。ここはコツでいうと「相手の気持ちを察する力」を持つことやね。残念やけど岡村はここが少し欠落してた。ただ気がついて反省してんから、ここは叩き潰すのじゃなくって、やり直しに期待してやってほしいわ。

これからの教育でプログラムを教えるって言ってたけども、「プログラミングこそAIに変わってもらえるねんから、人間にプログラミングを教えてどうすんねん。そんなんいらんやん」ってホリエモンが言ってたけどね。こんな大阪弁やないけど(笑)。目の前のプログラムをやってみるのもええけど、「こんなものがあったら、こういう人が救われるなぁ」って考える想像力の方が大事やと思うねんけどね。

望月

プログラムなんかは興味があればやればいいものだと思いますね。強制的に教えるものではない気がしますよね。

竹中

本当にそう思う。その興味の発信とか発想かな。例えばこんなことがあったら婆ちゃんが助かるからプログラムを覚えてみようとか、こっちの動機づけに気づく人間を作らないと。目の前のことを教えるのが好きやろうけど、将来とか社会を広くどう見たらいいか語る人がいない。

望月

今の竹中さんの話はそうで、何かを解決したいからこれがしたいとなるのが、ある種の起業家発想じゃないですか。だから将来起業を考える子が必要なら、そういう動機付けでやった方が絶対いい。

竹中

そうでしょ。だから僕の未来の予測は、生活においての想像力です。プログラムが上手でとか人より早く良いものが作れるのは昔からそうだけど、この先に欲しいものはもっと上位の概念を設定する力ね。たとえば山好きの婆ちゃんが足を怪我して山を登れなくなれば、もう1回うちの婆ちゃんを山に連れて行ってやりたい。そんな「婆ちゃんを笑顔をにする」っていう上位の概念があるから、ロボットで足を作るのか、ドローンで婆ちゃんを飛ばしてやるとかのか方法を考えてあげたらええのよ。そこの気付きと具体化の脳みそを鍛えるのが、こういうコロナ禍のときなんやけどね。

絶対に今のこの国を作ったのは想像力の低下ですよ。上位概念を設定して、下位に下ろしてきた時の具体化の能力の低下ですわ。

望月

想像力は低下していると思いますね。

竹中

その想像力の低下の話で、この前、松本人志が、学校の授業に大喜利を取り入れたらいいと言ってた。周りの人は大喜利の定義が分かってないからつられて笑ってはったけど、僕はその意図がよく分かった。完全に同意した。

答えは1つとか、歴史の年号を覚えるやないけども、記憶したり決めることを決めて覚えることが大事なのが今の教育やけど、大喜利はここで何を言ったら面白いかとか、こんな捉え方もあるって答えがいっぱいあるわけでしょ。

答えがいっぱいあるのが大喜利で学べるんだから、大喜利を学校教育に入れたらというのが松本の言い方。でも大喜利ができる学校の先生は一人もいないからね(笑)。答えはだから1つなわけでしょ。犬はdog、猫はcatと教えるけど、吉本の先生やったら犬はワンワン、猫はニャーって言うわけですよ。また吉本興業の芸人の職域を広げてしまったかな?

もちろんdogもcatも合ってるけど、ワンワンもニャーも間違いではないですよ。そういう、色んな答えも正しいことを大喜利で学べるんだったら、今の時代に必要かなって。彼はよく分かってますよ。

望月

そうですね。だから答えがいっぱいあるって価値観は持っていた方がいいですよね。自粛警察とか正義の暴走に繋がるような発想になってくるんで。

竹中

そうそう。だから本当は失敗はしても笑われたりしても、きっとお笑いが良い先生になってくれるはずで。失敗しているやつ、世の中で生きていけないやつが芸人になっているんやから、そのつもりで見て聞いてあげたら良いと思うねん。

取材のあと

音声配信アプリ Stand.fmを使って、取材後のインタビューをしています。

Profile

竹中功

1959年大阪市生まれ。同志社大学法学部法律学科卒業、同志社大学大学院総合政策科学研究科修士課程修了。
吉本興業株式会社では宣伝広報室を設立、「マンスリーよしもと」初代編集長、芸人養成所「よしもとNSC」設立。その後、劇場やイベント、映画製作、町おこしなどに携わる。
現在は作家活動に加え、ビジネス人材の育成や広報、危機管理、コミュニケーションなどに関するコンサルタントや刑務所での改善指導を行う
株式会社モダンボーイズ