【レポート】Basic Insight Vol.4「いま改めて正しさの意味を考えてみる」

望月大作
まえとあと 編集人

Basic Insight Vol.4「いま改めて正しさの意味を考えてみる」は、指出一正さんと玉置泰紀さん、そして西田二郎さんによる鼎談で開催しました。

Profile

望月大作
同志社大学大学院修了。修士論文のテーマは「ガンダム」。さまざまな企業に勤める傍ら、十数年前にソーシャル系大学、「ツブヤ大学」を立ち上げる。直近ではWebメディア「十中八九」の編集長を退任後、Webマガジン「まえとあと」を立ち上げ、編集人となる。所持する資格は車の免許以外に、漢字能力検定2級/歴史能力検定世界史2級/知識検定1級。

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4回目のオンラインイベントは、まえとあと1年経過の記念回

グラフィックレポート:田中 圭子 @sappa_kt

まえとあとのオンラインイベント「Basic Insight」。4回目は7月29日に開催しました。今回は鼎談での実施となりました。

今回の鼎談は、ダウンタウンDXなどの番組づくりに携わり、現在はさまざま活動を精力的におこなっている西田二郎さん。「関係人口」や「かかわりシロ」などの言葉を通してローカルの魅力を伝える雑誌「ソトコト」編集長の指出一正さん。そして情報誌○○ウォーカーと名の付くものにこの人ありのKADOKAWA玉置泰紀さんの3名で行いました。実はこの3人で話をするイベントは初めてです。今回のオンラインイベントは、30分延長の2時間の鼎談となり、内容も濃さもあるものとなりました。

最初はまえとあと編集人の僕自身が褒め殺しに遭っているんじゃないか?と思わせる展開からスタートしました。それなりに「まえとあと」を評価していただけていることは、本当にオンラインイベントも含めて、ちょっとずつちょっとずつ積み上げるうえで励みになるな、と率直に感じたのでした。

おのおの自己紹介的な話を終えたあとは、3人がそれぞれ出会ったきっかけみたいな話からスタートしました。そしてちょいちょい差し込まれていくのが「釣り」のはなし。指出さんは趣味が「釣り」だし、西田二郎さんも「釣り」については興味ある分野で特に「リール」の話をし始めるとディープな話が拡がっていくわけです。しかも今回は指出さんの背後にはいろんなリールが並んでいて、その話題に関して拍車が掛かっていきます。メインテーマの裏に潜むサブテーマとしての「リールにまつわる話」がある種トークの箸休めのような体で今回のトークセッションの中に散りばめられているのも、今回のトークセッションを振り返るうえで大きなウェートを占めている要素です。と書いているところで、文章だけ読んでいると「?」が頭に浮かぶ人も多いかもしれませんが、でも事実を書き記していきます。

「脱コードの話を改めて」と「ストーリーが嫌い」

西田二郎さんは「話って意味ないんですよ」と言います。指出さんも「ないです」と同意します。さらに「(話が意味のない前提に立つと)それだったら訳がわからんなってニコニコして話を聞いているほうが幸せだと思う」と二郎さんが言うことに玉置さんも「そりゃ、そうですよ」と同意します。

玉置さんはストーリーが嫌いだと言います。新聞記者時代の記事の作り方を例に、なぜストーリーが嫌いなのかを語ります。新聞には見えないように編み込まれているストーリーがあると。それは編集人自身もすごく感じるところで、ある記者が書こうとしているストーリーありきで記事を作ろうとしていることが多いように感じます。でもその作法については編集人は「?」が頭の中に点灯するんです。だから「まえとあと」ではそのストーリーありきな手法はまったく取りません。取材に行けば、そこで聞いたものを元に考えます。それ以上でもそれ以下でもありません。そこにあるものがすべての情報だと思っています。だから勝手に作られたストーリーにはめ込むような取材は、それは取材じゃないと思うし、取材のために時間を空けてくれる人たちに失礼であると考えます。そんなことを編集人自身、三人の話を聴いていて思いました。

そして「脱コード」の話に入っていきます。今回ここで詳しい話は割愛します。

「脱コード」の詳しい話はここで読んでください→ https://maetoato.com/456/#6

ある縛りから脱却することが「脱コード」の話の骨子です。その話については指出さんも玉置さんも面白いと同意します。指出さん、玉置さんのふたりはすでに「脱コード」で生きていると二郎さんは言います。指出さん自身、いま「ソトコト」も「ソトコトらしさ」のコードを求められると言います。それは過去に「ソトコト」が作っていたものに則るものを作ることの繰り返しになると。それが本当に「(ソトコト)らしさ」かどうか分からずに語られることが多いそうです。だからなるべくそこから遠い感覚を持ったほうがいいと、指出さんは常に編集部ではそう話しています。

玉置さんは指出さんは明らかに「ソトコト」を壊したと評します。指出さんもはっきりと「壊しました」と言いました。「ソトコト」の”コード”が絶頂になっていたとき、指出さんは当時の「ソトコト」を粉々に壊しました。「ソトコト」は壊さないとヤバかったと。そしてその行為について指出さんは弾劾裁判の毎日だったそうだ。ただ指出さんにはそのとき根拠のない自信があったそうです。その自信の源泉は、当時西日本のローカルでめっちゃかっこよく活動していた人たちに出会っていたことが大きかったのです。

指出さんもストーリーよりも、もともとそこにあるもの(リアル)が好きなんだと言います。そこにあるものに心を寄せられていたことが、指出さんによると根拠のない自信を持たせていました。

その話の流れで出てきた西の面白いひとのひとり、奈良県の公務員である福野博昭さんはまさに「脱コード」の手本じゃないかと指出さんは言います。福野さんはあるとき奈良公園からゴミ箱をすべて撤去して大問題になったけど、最終的にゴミの量は格段に減ったんだそうです。

ソトコトを「脱コード」化させた意味でで、玉置さんによると指出さんはソトコトにとってはウイルスだったのかもしれない。という話も出て、指出さんもうまく言語化されたと喜んでいました。

尼崎ウォーカーにまつわるいい話

尼崎ウォーカーを作ったときの話が出ました。尼崎ウォーカーは玉置さんと二郎さんが協力して出来た雑誌だったんだそうです。玉置さんいわくダウンタウンのふたりはピンで表紙を飾るような雑誌はあったけれど、ダウンタウン二人で表紙を飾る雑誌はほとんどなかったそうです。当時ダウンタウンDXのプロデューサーだった西田さんからの流れだったから、二人が表紙の尼崎ウォーカーは誕生しました。

しかも玉置さんによるとあらゆるメディアのなかで若い頃の尼崎時代の話を語っているのも「尼崎ウォーカー」だけなんだそうです。しかし最初は実際に尼崎ウォーカーにダウンタウンのふたりが出られる確率はなかったそうです。そんな中からの巻き返しがやっぱりすごいな、と編集人は個人的には感じたところでした。

玉置さんも二郎さんがどうやってダウンタウンの二人を納得させたのか分からないと笑っていました。実現したダウンタウンへの取材のなかで、実際の尼崎の写真を見せながらインタビューすると、ダウンタウンの二人がけっこう喋ってくれたんだそうです。その後の話が個人的にはすごく良くて、後日誰かが浜ちゃんの家に行ったとき、「尼崎ウォーカー」が置いてあったんだそうです。玉置さんはダウンタウンのふたりにとって「尼崎ウォーカー」はよくある仕事ではないおかしな仕事だったんじゃない?と語ってくれました。

表紙は回覧板

玉置さんは指出さんが編集長になった後の「ソトコト」はどんどんそれまでの「ソトコト」をものの見事に崩していったと言い、「脱コード」派の指出さんは、「ソトコト」と「チャンプロード」は同じ方向だと評されたことがある話をしました。それは「チャンプロード」の表紙の作り方と「ソトコト」の表紙の作り方はたしかに通底しているそうです。

どちらの雑誌もベクトルは異なれどローカルで活躍している人が表紙になっています。リアルでかっこいい人を表紙に出すことで、それが自分のことのように思う人に届けばいいと指出さんは語ります。「ソトコト」の表紙は回覧板という考え方のもと、いつも最初から表紙は決めず、毎回表紙用に8組ぐらいの集合写真を取材ごとに撮っているそうです。

そこから最終的な雑誌全体にあるそのときの気分と、社会の気分で表紙になる絵は選び抜くそうです。だから基本的に取材に行くメンバーで表紙の形になる写真はみんながみんな撮ってきます。そこから15パターンぐらいの表紙候補を作り、その号その号で一番雰囲気を表しているもので表紙を選び抜く。指出さんの信念として雑誌はきれいに作りすぎても仕方ないと。それこそ雑誌を作り込みすぎることは「コード」になってしまうと言います。たとえば落語みたく敢えて外すようなものを意識しているんだそうです。雑誌は雑誌というだけあって、ノイズはないといけないと玉置さんも同意します。

指出さんはさらにローカルを美しく美化し過ぎない、素のローカルを伝えるため、Youtubeチャンネル【かかわり「シロ」チャンネル】を2020年に立ち上げました。それは指出さんが提唱している「関係人口」の先に行く概念です。【かかわり「シロ」】が街にあるかないか、これは今後大きな差異になってきそうな予感がしました。

玉置さんは東京オリンピックを楽しく見ていて、めちゃくちゃ世代交代したと感じています。今回の話の流れで言えば、若く活躍している選手たちはコードの罠にまったく引っかかっていないんじゃないかと。それを育てることが大事で、潰すような社会が最悪だとみんな納得していました。

今回の鼎談で一貫していることは「正しさに乗っからないこと」だと玉置さんは言う。玉置さんは報道の現場に携わっていたとき新聞記者が何が正しくて正しくないかを決めるべきではないと考えていました。玉置さんは「正しさ」って言葉ではすくいきれないものが大事なんじゃないかと語ります。

玉置さんは「正しさ」はまだ許容できるけど生まれてから今まで「正義」は許容できないと言い切ります。正義じたいに胡散臭さがあると。指出さんは「ソトコト」という雑誌の性質上、「正義」の矢面に立たされることが多いそうです。環境をテーマにする雑誌の編集長はラーメンや焼肉を食べることすら許容されない風潮やケースがあるそうです。

シリーズ化となりそうな鼎談はあっという間の2時間だった

自分の周辺だけじゃなくて、常に俯瞰でものごとは考えるべきだと玉置さんは言います。どんなに自分に不幸があったとしても、俯瞰することで気づくことはあるんじゃないかと。

最後は2025年の万博の話に絡めて「おけいはん」こと京阪電車の話なども出つつ、指出さんが関西で仕事をするにあたっての提案がおこなわれた。

たぶん今回の鼎談は、きっと何度かシリーズで行ないそうなイベントであると確信した。オンラインイベントはもちろん諸々が落ち着けばリアルでも行えるような機会があればと考えている。

本当に濃密な2時間はあっという間に終わった。

そして、まだどの程度需要があるのか手探りではありますが、今回の本編アーカイブ動画と特典PDFをそれぞれ個別で販売いたします。もしご興味ある方がいれば購入を検討ください。(ライブ配信で参加され、アーカイブも見たいという方は、別途ご連絡ください)

Basic Insight Vol.4『いま改めて正しさの意味を考えてみる』【本編動画】

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Basic Insight Vol.4『いま改めて正しさの意味を考えてみる』【特典PDF】

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Grafic report:Keiko Tanaka @sappa_kt
Edit & Text:Daisaku Mochizuki