存続危機のまえとあと / 遠藤さちえ

  • 遠藤さちえ湘南ベルマーレ 広報

写真:平林克己
聞き手/編集/執筆:望月大作

ベルマーレの存続危機

ベルマーレ存続危機の前と後は大きく違いますね。本当にクラブの理念のもとでやっていくんだって覚悟ができたのも、存続危機の後でした。そこは一番私自身も変わったところです。1999年にベルマーレが存続危機になったとき、ベルマーレ平塚から湘南ベルマーレになったときはだいぶ違いました。

望月

そこを経験すると、心持ちはだいぶ変わるものですか?

遠藤

もう何もかも見える景色も含め、全部変わりました。ベルマーレがなくなってしまうかもしれない危機的状況で、すごく大切なターニングポイントでした。社会的にもすごく大きなこととして取り上げられましたし、当事者である私たちも、本当に寝ても覚めても、どうにかしなければいけないと、ずっと動き回り考える日々でした。

私は入社してまだ間もない20歳そこそこでしたが、その危機的状況がクラブが生まれ変わるチャンスかもしれないと思ったことをすごく覚えています。もちろんそれまでのベルマーレも大好きだったんですが、Jリーグやベルマーレが目指している地域密着や、地域のためにクラブは何が出来ているのかを考えると、本当にそれが出来てるのかって気がすごくして、当時は少し違和感がありました。

もっと地域のために出来ることがあるんじゃないかと、経験が浅いながら疑問視していたところもありました。存続危機のときは本当にいろんな人が苦しい思いで、いろんな大変なことがありました。でもそれ以上にいろんな方に支えていただき、私たちのクラブは地域に支えられ、地域の人たちの想いがあるから存在できてるんだと身をもって知りました。

そこに対しての恩返しというか、きちんと向き合い、地域のためにクラブがしっかり活動することが当然だし、地域に支えられてるんだから、地域の為になるクラブとして活動することが、一緒に地域の人たちとクラブが歩んでいくことを一番体感できた。そして、本当にそうであるべきだと思えたのが、そのときですね。

望月

僕もちょうど今このコロナ禍のタイミングで、一番いろいろ感じましたね。

遠藤

難しい状況のときは、本当に苦しいし辛いですが、その時にしか得られない感情があると思うので、そういうものに向き合うと、自分にとっての学びにもなり、成長できるチャンスだと思います。 

あのときは本当に1年間365日、私だけではなくて、本当にベルマーレを取り巻くすべての人がフル回転で、ベルマーレをなんとかしなきゃいけないって想いで、クラブの中の人も外の支えてくれる皆さんも、足を止めずに走り続けた1年だったので、もうその時苦しかったことが今では思い出せないくらい、充実していた1年でした。

望月

その経験はその後も大なり小なりいろいろなことが起きてると思いますが、活きてますか?

遠藤

活きてますね。1つは乗り越えられた自信。乗り越えるまでにはまたすごく時間もかかってますし、今も別に安定しているわけではないですが、綱渡りの日々を何とかみんなで乗り越えた自信は、大きなものになっています。何といっても地域の皆さんとの絆の部分では、それまではベルマーレは見るだけのチームだったものが、本当に自分のチームだと地域の人や支えてくれるサポーターの皆さんが思ってくれるクラブになったと思うので、絆もものすごく深まったと思いますね。

いまベルマーレがあるのは、クラブとしての歴史や経験として、存続危機があったことは、本当に大きな出来事だと思います。

オンリーワンのクラブでありたい

望月

他のJクラブさんとも交流があったりするんですか?

遠藤

もちろんあります。たとえば広報同士の横のつながりで情報交換をしますし、当然試合で対戦するので、そういう部分では一緒に同じ空間を作り上げていく部分で、横のつながりはすごく重要だと思います。もちろんライバルでもありますけど。

望月

意外と業界のなかで、みんなで横に繋がっているのがすごく面白いと思っていて。

遠藤

そうですよね。私たちも他のクラブから刺激を受けることもたくさんありますし、

ナンバーワンにもなりたいんですけど、でもベルマーレはオンリーワンでありたいと常に思っています。これだけたくさんのJリーグクラブがあって、ましてや神奈川県は本当にたくさんのJクラブがある中で、特徴を持つとか、ベルマーレらしさを前面に出すことによって、それぞれ色があった方が面白いと思います。だから常にチャレンジする姿勢を見せて、オンリーワンのクラブでありたいと思いますね。

ベルマーレ不足、自分たちの存在意義

望月

今っていろんなものが中止になったり、湘南地域だと海水浴場で泳ぐことが中止になったりしているじゃないですか。そういう中でJリーグが再開するのは、街の人にとっても良い知らせですよね。

遠藤

そうですね。そうであることを願っていますが、私たちはサポーターの皆さんと近くにいつも感じられる関係性なんですが、コロナウイルスのことがあってから、なかなか直にお会いすることもできないわけです。選手たちも言ってますが、いつも練習場で練習を見にきてくださって、練習が終わったらファンサービスをしながら話をすることも、ずっと何ヶ月も出来ていない状況です。

選手もすごく残念がっていますし、サポーターの皆さんもSNSを通してですが、「ベルマーレ不足です」って声をたくさん寄せてくださるので、そういう声を聞くと、本当にJリーグが再開されたことは嬉しいことです。最初は無観客になりますが、画面を通して選手たちの躍動する姿を見て頂けるのは、すごく嬉しいですし、選手たちもすごく張り切っています。

望月

傍から見ると無観客でお客さんがいないのは、臨場感に欠けると思うのですが、逆にもう再開しているドイツの試合を見ると、普段聞こえない声などが聞こえるじゃないですか。それはそれで逆に普段の試合の中での雰囲気が分かりますよね。

遠藤

そうですね。たぶんリモートマッチは短期間になると思いますが、そういう意味ではすごく貴重なふだん聞こえない声や、それこそ選手同士の体がぶつかる音、そういうものも聞こえると思うので、それは貴重かもしれないですね。

このコロナの時はいろいろなことを考えたり、自分たちの存在意義を考える意味では、さっきお話しした存続危機のときとすごく似ていて、いま出来ないことがすごく多かったじゃないですか。人と会えないとか仕事がなかなか出来なかったり、外に出れないとか、出来ないことがすごく多い中で、それでも自分たちの存在意義ってなんだろうと選手たちもすごく考えたと思うんですよ。

サッカーが出来ない自分たちは、どういう存在意義があるんだろうって、自分自身を見つめる機会になったと選手たちも話していました。私も同じでいろんなことが出来ない中で一体何が出来るんだろうと考える時間でした。存続危機の時も、お金が本当に足りない、人もいない、とにかく時間もない。その時もないないづくしだったんですけど。でも工夫したんですよね。

お金がないから、こうしてみようとか、人がいないから、外の人に一緒にやってもらえませんか?と仲間になってもったりとか、そういう工夫をしたんです。時代は違うんですが、今回のコロナ禍もいろんな出来ない状態のときだからこそ、人はいろいろ工夫をするし、自分の存在意義を考えて行動を起こそうとする。そういう部分では苦しい数ヶ月でしたけど、マイナスだけじゃなくて、私たちにいろんな気づきをくれたんじゃないかなって気もしています。

望月

本当に「まえとあと」でインタビューをしていると、みんなほぼ似たようなことを言ってくださるんで、それはすごく良い話だなと思って。もちろんこういう時期は怠惰になる瞬間もあるんですが、逆にこういうことがなければ、こうやってオンラインでの取材もしようとは思わなかったと思います。

遠藤

確かに。

リアルの大切さを忘れたくない

望月

やっぱりリアルで聴いた方がいいという気持ちはまだずっとあるんですけど。

遠藤

リアルの大切さもより感じますよね。私もそこは忘れたくないなと思っています。

オンラインで出来るから、オンラインでいいじゃないって世の中になるのは寂しいじゃないですか。やっぱり人と人が face to faceで会い、生み出すものからの面白さって絶対あります。だから、私も広報の立場として、リアルに会うからこその面白さや気づき、そういうものを絶対大事にしたいと思っています。

望月

僕のもしかしたら勝手なイメージかもしれないですが、遠藤さんのやっている仕事はリアルを1番感じる仕事というか、スタジアムの空気感も含めて、選手の雰囲気でも多少何か感じるところがあると思うんです。そういうことを感じる仕事だとすると、オンラインはその空気感がなかなかフィルター1枚で分からないじゃないですか。そこはずっともどかしくて、僕自身はずっとどうにかならないかなって思うところなんですよね。

過去にはいろんなイベントは、ネットで配信したらいい!と思っていたんですが、ただLIVEとかサッカーも含めて、テレビで見ているものやネットで見るものと、現場で感じるものは全然違うので、そこにある壁をどうにか出来たらもっといいんだろうと思っていて。

遠藤

そうですね。私たちもスポーツが持つ人間同士の本気と本気のぶつかり合い、それはもちろん画面を通して伝わるものもあるかも知れないんですけど、でもスポーツ特有のそのリアルな部分、ある意味密な部分、それはすごく価値だと思っています。だからなかなかそういうものが得られない世の中では、もしかしたらスポーツのそういうリアルや密なところは、より価値が上がるのかも知れません。

望月

価値は上がると思うんですよね。

遠藤

そうですね。それを求めていることはあるかな。

[写真]

望月

制約が出来ると、多少なりともその気づきの部分で、今まで普通だったことができないことに対する渇望が、反動として出ると思うんです。

遠藤

そうですね。そう思います。

望月

どうしてもこの期間に動けない中で、もちろん皆さん家の中でトレーニングもされるんでしょうけど、だから期間を置いて戻していくのも、もちろんアスリートの皆さんは大変だと思います。 それをサポートする遠藤さんたちの役割も大変だと思います。

遠藤

中断していた2ヶ月間、選手たちは自分自身が試されるような期間だったと思います。もちろんクラブからのトレーニングメニューはありましたが、でも+αで何をやるか、自分に全て責任があり、自分が決められる状況だったので、本当に自分が試された二ヶ月間だったんじゃないかと思います。

望月

ほかの取材でも、その期間中で何をやるかで違うって話はあったし、成功体験に頼ろうとするのは止めてもっと試していかないと、全部が全部同じ状況には戻らないし、それはそれで考えないといけないよねって話も出たりしました。

遠藤

そうですね。信念は曲げたくないですが、その状況に柔軟に対応する強さやしなやかさは持ってないと生き抜けない。大事な芯はきちんと持っていたいですが、でも頑なに自分の考えを曲げないわけではなく、対応力が試されていると思うので、しっかり柔軟に対応したいと思っています。

望月

最初の話でもありましたが、1999年のクラブ存続危機の経験がベースにあって、そこからどう展開させるか、ブラッシュアップさせるかなのかは分からないですが、その経験がもし今なければ、逆にもっとどうしようとなった可能性もあるじゃないですか?

遠藤

確かにそうですね。1999年の経験も大きかったですし、その後20年間誰もがそうかもしれないですが、本当にいろんなことがあった20年だったので、そこでいろんな状況を乗り越えてきたところは、クラブとして一つ強みとしてあると思います。

取材のあと

音声配信アプリ Stand.fmを使って、取材後のインタビューをしています。

※湘南ベルマーレが初めてのクラウドファンディングをはじめたので、お知らせします。

https://readyfor.jp/projects/OneBellmare2020

Profile

遠藤さちえ

1996年にベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)入社。入社当初は外国人選手の生活面や家族のケアを担当。
チームのマネージャーを経験したのち広報担当に。2016年より3年間スポンサー営業を担当し2019年より再び広報に。
メディア対応や発信全般を担当。
http://www.bellmare.co.jp/