生活の拠点を逗子に移したまえとあと / 小池潤(SAKETIMES 編集長)

  • 小池潤SAKETIMES 編集長

写真:平林克己
聞き手/編集/執筆:望月大作

目次

  • 山手線の駅に落ちていた水菜と、落とし物が見当たらない逗子
  • 逗子に引っ越したきっかけ
  • 逗子のコミュニティに入っていくのはこれから
  • メディアという存在に興味がある
  • 小池潤として、ゆったりと生きていられる環境
  • 新潟と逗子の同じもの・ちがうもの
  • 取材のあと
  • 山手線の駅に落ちていた水菜と、落とし物が見当たらない逗子

    望月

    落とし物を見つけるInstagramはまだやっているの?

    小池潤(SAKETIMES 編集長)

    逗子にはあんまり落とし物がないんですよね。

    一同

    望月

    それ、いい話しだね(笑)。

    小池

    落とし物って焦ったり急いだりしたときに生まれるじゃないですか。逗子にはそういう人が少ないのか、落とし物はあまり見かけないですね。

    望月

    都会だとヒールが道端に突然落ちているもんね。

    平林

    靴が落ちてるって意味がわかんないよね。どうしちゃってんだろ?

    望月

    靴が2個揃えて置いてあったり。

    小池

    靴は片方のときもありますからね。

    平林

    うちの近所(茨城県)の道路はキュウリが落ちてるよ。

    小池

    僕は山手線の駅のなかで水菜が落ちているのを見ました。

    一同

    小池

    しかも包丁で切った感じのある水菜で。

    一同

    平林

    ドラマだね(笑)。

    小池

    落とし物の話を続けると、「マツコの知らない世界」に宇多田ヒカルさんが出演していて、落とし物を見つけると撮っちゃうって話があって。共感しながら番組を見ていたんですけど、宇多田さんは落とし物に触るタイプらしいんですよね。それは僕の流派とは少し違う。

    一同

    小池

    宇多田さんが言っていたのは、円盤が裏返った状態で落ちていたとき、それを宇多田さんは拾って、AVか何かだったんですよね。だけど、僕は写真に撮るまでは落とし物には触らないことを信条としているので、その点が違う。触った瞬間に僕の人生が介入してしまい、落とし物ではなくなってしまう気がするんです。そのディスクが何だったのか、分からないまま生きていきたい。

    望月

    逗子はコンパクトで満ち足りた街なんですかね。海は落とし物落ちてそうですけどね。

    小池

    海岸に行けば、街中よりは落とし物があるかもしれないですね。でも逗子の海はきれいなんですよ。落ち着いた感じの海ですね。

    望月

    それがいいよね。

    逗子に引っ越したきっかけ

    望月

    何がきっかけで逗子に引っ越して来ようと思ったの?

    小池

    2年前の秋に今のパートナーと付き合い始めて、一緒に住もうかと話をしたときに、当時パートナーは京都を拠点にライターや編集者として仕事をしていたのですが、当時、僕はまだ多少出社をしていたんで、会社のある渋谷からあまり離れられない事情がありました。

    渋谷から遠くない場所に住もうとなったとき、パートナーが「都内は嫌だ」となって、渋谷から電車で1時間くらいの距離で、自然が豊かで、彼女は料理の仕事もしているので、キッチンが広くて……という条件で探したときに、逗子や鎌倉が候補にあがって、たまたま良い物件があったんで逗子に引っ越してきました。

    望月

    小池くん的に都内を離れるのは特に問題なかった?

    小池

    僕は東京での暮らしが好きだったんで後ろ髪を引かれる感じはありましたが、逗子に対してネガティブな気持ちはなかったのですんなり引っ越しましたね。

    望月

    どうですか逗子に引っ越してみて。環境は静かでいいよね。

    小池

    魚介類も野菜も、食べるものが美味しいですね。逗子はほど良く田舎じゃないですか。東京が好きだった自分が田舎での暮らしに馴染めるのかという気持ちもあったんですが、いまは引っ越して良かったと思っています。

    駅前に「魚佐次商店」って「The 街の魚屋さん」があったり、商店街には鎌倉野菜の農家さんが持ち寄って野菜を売っている直売所があったり、地元のものを消費する意識がより強くなりましたね。

    逗子のコミュニティに入っていくのはこれから

    望月

    小池くんの周りでも移住は増えていたりする?

    小池

    僕のまわりでも2〜3人、逗子近辺に移住した人がいますね。検討中の友人もいたり。増えている実感はなんとなくありますね。

    望月

    でも移住って西へ行く人が多いよね?

    平林

    あまり北に行く人っていないね。みんな移住と言ってるけど、仕事ってどうしてるんですか?

    小池

    職種によっては難しい場合もありますよね。

    平林

    地元の市役所で働いていたら移住なんか出来ないもんね。ある意味、どこへ行っても写真はできるんですよね。

    小池

    そうですよね。

    平林

    ただこっちで作りあげてきたものがあるから、それをたとえば縁のない地域に行ってゼロからは面倒じゃないですか。

    小池

    まさに僕のパートナーがそうで、京都を拠点に仕事をしてきたので、京都にも家を借りて2拠点で活動していますね。これまでも、関東圏の仕事をまったくしてこなかったわけではありませんが、新しいスタートを切った感じはあると思いますね。

    平林

    こっちで新たに仕事を開拓しているってこと?

    小池

    基本的には京都にいた頃の繋がりの延長線上で仕事をしていることが多いみたいですが、新しい仕事の開拓もがんばっていますね。

    パートナーはローカルに根付いていくのが得意なタイプなんです。地元のスナックで知り合ったところから新しい仕事が生まれたりとか。

    平林

    いまコロナ禍だったからやりづらいよね。

    小池

    そうなんですよね。逗子に来たのがコロナ禍の最中だったので、地元の方々が集まるような場所にになかなか行けず、コミュニティに入っていくことへのハードルは感じていますね。

    メディアという存在に興味がある

    望月

    いまはSAKETIMES 編集長になって何年目だっけ?

    小池

    5年目ですかね。

    望月

    どんどん変わってます?

    小池

    前回お会いしたときは、「編集長」という肩書に振り回されている感じでした。今はもう落ち着いて、この数年の変化でいうと、マネジメントの仕事が占める割合が大きくなってきました。いわゆる編集の業務からは少し離れてしまいましたね。

    数百字程度のプレスリリース的な記事も含めて、SAKETIMESはだいたい60〜70本/月くらいの記事を配信しているんですが、公開されて初めて見る記事がほとんど。むしろ、安定的なメディア運営をするためのチーム作りやマネジメントに僕の仕事はシフトしてますね。

    望月

    じゃあ仕事を振っていく作業が多いの?

    小池

    そうですね。

    望月

    じゃあ個人的には書きたい欲求はないの?

    小池

    僕、文章を書きたい欲求はもともとないんですよ。欲求がない上に得意じゃなくて、基本的に書く仕事は断っているくらいで。

    望月

    そうなんだ!(意外)

    小池

    たまに執筆の依頼をいただくこともありますが、ライターさんにインタビューしてもらう形式にするか、もしくは受けないかの2択ですね。

    望月

    そうなんだ!(2回目)

    平林

    意外だね。

    望月

    そう。メディア作りのはじまりって、書きたい欲求から始まることが多いから。

    小池

    全然ないですね。伝え手としてのメディアの役割に興味はありますが、文章を書くことよりも、もとの企画を考えたり、文章を編集したりするほうが好きですね。

    望月

    情報の流通みたいな?

    小池

    そうです。文章を書くのはあくまでも手段で、自分のやりたいこととしては「伝える」ことへの興味が強いですね。

    望月

    なるほどね。

    小池潤として、ゆったりと生きていられる環境

    望月

    今って趣味とかあるの?

    小池

    今ですか?新しく始めた趣味とかあったかな。あ、プレステ2を買ったんですよ。

    望月

    いまプレステ2?

    平林

    (プレステ2を見て)そういえば懐かしいなと思った。

    小池

    逗子に引っ越して早い段階で「人を呼べる家」というコンセプトをパートナーと決めて、来客用の座布団を用意するとか、飲食店にあるような酒燗器を買うとかする中で、「桃鉄をやりたいなぁ」と思って。

    平林

    人が集まったときの桃鉄は盛り上がるよね。

    小池

    高校時代にめちゃくちゃハマっていて、当時の桃鉄をやりたかったので、敢えてプレステ2を買いました。中古品店に行けば、1本数百円でソフトが買えて、めちゃくちゃコスパの良い遊びですね。

    平林

    プレステ2のころのシンプルなゲームの方が楽しめるんですよね。

    小池

    わかります。

    平林

    だって説明書なくても、だいたいできるじゃない。

    小池

    そうなんですよね。グラフィックも、最新のゲームと比べるとガビガビですが、ゲームを楽しむためには充分なんですよ。そもそもテレビゲームをやること自体、東京に住んでいたときの自分は無駄な時間として認識していたと思いますが、逗子へ来てから、こういう生産性のない時間が受け入れられるようになりました。

    望月

    それはプラスでしょ?

    小池

    プラスですね。

    望月

    生産性の問題やキャパシティの問題は、結局心の余裕の問題の部分が大きい。その人にとって新しいモノが多すぎると、たぶんキャパキャパオーバーになりすぎる。だから僕はどれだけルーティン化に落とし込めるかを鍵にしてる。個人的に”いろいろな経験”をしている結果、新しい経験でも共通項があるとルーティンに一気に落とし込めるから、意外と余裕だったりするんだよね。

    小池

    ルーティン化やルール化によって余裕を持つ発想、大事ですよね。スケジュールって空いてるとどんどん埋まっていくじゃないですか。だけど、その空いている時間は無意味に空いているわけじゃなくて、自分との予定がある時間だったりする。だから「何もしないよ」「自分のために使うよ」っていうスケジュールを確保できるように、僕も少し前からルールを決めました。

    リモートワークが前提になると、オンラインの打ち合わせは移動時間が減る分だけ増えるじゃないですか。だから僕も打ち合わせが1日に10件以上も入って、それだけで1日が終わってしまうことがありました。この時間帯は絶対に「自分の時間」にするから予定を入れないと決めることで、うまく自分の中でバランスが取れるようになって。会社の営業時間中は仕事をしているので忙しいことはありますけど、「小池潤」という個人全体で見たときにはゆったりと生きられていると、特に逗子に来てから思いますね。

    望月

    逗子は時間の流れがゆっくりだもんね。

    小池

    そうですね。東京からちょっと遠いところに住んでいるメリットだと思っているんですけど、お誘いを断りやすくなったんですよね。だから自分の時間を守りやすくなった。

    引っ越す前は三軒茶屋に住んでいたせいか、お誘いが多かったんですよね。見かけのスケジュールは空いてるし距離的にも動きやすいから行ってしまう。そうすると、どんどん予定が埋まっていって自分の時間がどんどん無くなって。

    東京は勝手に入ってくる情報が多い気がします。逗子に来てから特に強く思いますね。

    望月

    逗子は駅前から含めて、勝手に情報が入りにくそうな環境だよね。

    小池

    そうですね。東京と比べて情報が少なくシンプルな街だから、気持ちの面では楽ですね。立っているだけでHPが下がっていくようなシビれる東京も好きですが(笑)、逗子のほうが精神的には快い。

    新潟と逗子の同じもの・ちがうもの

    望月

    もともと出身はどこなんだっけ?

    小池

    僕は新潟です。

    望月

    地元の新潟と比べたら、逗子はどうなの?

    小池

    僕は柏崎の生まれなんですけど、柏崎と比べると逗子のほうが「少し都会」です。僕の地元も海沿いだったんですけど、新潟ってとにかく晴れないんですよ。

    平林

    わかる。冬大変だもん。

    小池

    夏でも晴れが少なくて、年間のほとんどが曇りなんですよ。

    平林

    晴れたときの日本海ってすごい気持ちいいじゃないですか。

    小池

    太平洋側の海は明るくて、対岸の近い日本海側と比べて海岸もきれいなイメージがありますし、そこに住んでいる人間も明るい性格が多いような気がします。同じ海沿いでも全然違いますね。

    望月

    なるほどね。それは面白いね。

    小池

    逗子は明るくてきれいな街です。

    望月

    逗子の夏も経験したわけだもんね。

    小池

    そうですね。

    望月

    今年は人が多かったよね。

    小池

    そうですね。鎌倉のほうは海開きをしなかったので、ふだんそっちに行っているお客さんが逗子の海に来ていたみたいですね。それでも1週間か2週間くらいで緊急事態宣言の影響で閉じてしまいましたが。

    夏以外の季節に海に行くと、夏と比べてがらんとしていて気持ち良い場所ですね。夏はどうしても商業的に人を受け入れる海になるので印象が変わりますが、それ以外の時期の海を感じられるのは、近くに住んでいるメリットですね。

    取材のあと

    声配信アプリ Stand.fmを使って、取材後のインタビューをしています。

    ここには出ていない話もあり、それらは「まえとあと」サポーター制度「まえとあとも」向けのメルマガで配信をしております。

    Profile

    小池潤

    日本酒専門 WEB メディア「SAKETIMES」編集長。日本酒テイスティングの専門資格「酒匠」を保持し、日本酒セミナー講師の専門資格「日本酒学講師」には当時(2017年)最年少の24歳3カ月で合格。テレビ・ラジオ・イベントへの出演や日本酒コンテストの審査員など、日本酒の魅力の伝え手として活動中。