新卒で入った会社のまえとあと / 亀石倫子(弁護士)× 野村和生(フジテレビ)【前編】

  • 亀石倫子弁護士
  • 野村和生フジテレビ FOD事業責任者

写真:平林克己
聞き手/編集/執筆:望月大作

目次

  • 結婚を決めたところから、弁護士へ転身へ
  • 弁護士は天職
  • 会社員時代の経験が役に立ったこと
  • 後編
  • 結婚を決めたところから、弁護士へ転身へ

    いつにも増して唐突な出だしになりそうな予感なので補足すると、新卒で入社して3年目に亀石さんはドコモを辞めることになって、その経緯からはじまります。

    亀石倫子(弁護士)

    私は夫と出会って3日で、結婚してくれと言ったの。

    野村和生(フジテレビ)

    えっ、まじ?

    亀石

    そう。まず「付き合う」ではなく、ドコモ時代の2泊3日の3年目研修で「この人と結婚しよう」と勝手に自分で結論を出して、研修3日目に結婚してほしいと言ったの。

    野村

    自分から告ったの?

    亀石

    うん。

    野村

    みっちゃんがドコモを辞めたときは東京に出てきていたから、風の噂で会社を辞めると聞いて「ええ専業主婦?」って僕はびっくりしたよね。あの闘いまくっていたみっちゃんが主婦には収まらないだろうって内心思ってた。

    亀石

    ドコモを辞めたときは、次にどこへ行くかは決めないで辞めてるからね。だから当時は結婚して辞めるってことになってたよね。

    野村

    そう思ってた。

    亀石

    形式上は寿退社みたいになったんだけど、別に私は寿退社ではないわけ。裸一貫で一からやり直すつもりだった。

    野村

    そこから何でロースクールに行くことになったの?

    亀石

    私はまず会社組織が自分に合わなくてダメだと思った。だから組織に転職するのはありえなかった。だから私という人間は、何か資格を取ってフリーでやっていけないと絶対ダメだってことをドコモで学んだ。

    じゃあ何の資格を取るのか。ドコモ時代に情報サービス系の部署にいたから、たとえば最初はホームページのデザインやページ制作系の資格を見ていた。だけどWeb業界はめちゃくちゃサイクルが早いから、取れる資格を取ったとしても、すぐに役に立たなくなる可能性がある。だから一過性の資格ではダメだった。

    多少苦労してでも、一生その資格で食っていけないとダメだと思いながら、何にしようか考えていたときに、まだロースクールは出来る前だったけど、司法試験にたどり着いた。弁護士だったら一生この資格で食っていけるんじゃないかって思ったの。

    野村

    一生食っていけるけど、すごくハードルの高いとこ行くよね(笑)。

    亀石

    そこが私のおかしなところで。

    野村

    僕は法学部だったけど大学4年間で弁護士は「無理だな」と思った(笑)。

    亀石

    弁護士を目指そうと思ったことはないの?

    野村

    1ミリぐらい。高校生のときは政治家になりたかったから、別に地盤も看板も何もないから、法律の世界から進めたらと思ったかな。

    亀石

    なるほど。高校生のころからそんなことを考えていたんだ。やっぱり野心家だ。

    野村

    漠然と思っていたけど、大学生で尺八の世界にのめり込んで邦楽のほうへ行っちゃった。

    亀石

    なるほどね。もう弁護士の勉強なんて遠くなっちゃったんだ。

    野村

    授業にはほとんど通わなかったもん。

    一同

    弁護士は天職

    野村

    弁護士をやるって決めてからはどう行動したの?

    亀石

    私は私ですごく自分にあった道(弁護士への)を結果的に選んだ。いきなり司法試験に受かろうとか突拍子もない発想なんだけど、でも弁護士という仕事が私にはめちゃくちゃ合ったね。もともと私は理屈っぽかったし、法律の勉強はしたことなかったけど、結果的に向いているのは弁護士の仕事だった。弁護士は理屈が勝負だから天職だね。

    野村

    ロースクールの制度がまだ始まる前だと、そのときはどうしたの?

    亀石

    普通に択一試験を受けて論文を受けてたよ。

    野村

    受けてたんだ。

    亀石

    択一試験は受かったけど、論文がダメだった。そうしているとロースクールができて、このまま旧司法試験の択一試験と論文を受け続けるよりも、2年はかかるけどロースクールは合格率も高く確実性があると考えて、ロースクールへ行った。結果的にその選択で司法制度改革の波にうまく乗って弁護士になれたけど、今ロースクールはオワコンなんだよね。

    野村

    そうなの?

    亀石

    そうだよ。どんどん潰れていってるし。

    野村

    仕事がない? なり手がいないってこと?

    亀石

    そもそもロースクールの制度を作ったのに、一方で予備試験という旧司法試験的な制度も残した。そうしたらロースクール行くのが面倒かつ時間もかかるという理由で、頭のいい子たちは予備試験でショートカットするから、予備試験に通ったほうが超絶頭がいいとなる。

    野村

    予備試験パス組は引く手あまたなんだ?

    亀石

    それでみんなが予備試験を受けるようになり、ロースクールはどんどん廃れ、優秀な子は予備試験に行くから、結果的にロースクール出身者の合格率も下がる。これは制度的な欠陥なんだよね。いまロースクールは無くなるかどうかの瀬戸際に立たされてる。

    野村

    そんなレベルの話なの? 法曹界は合格者がいっぱい出てるから食ってくの大変だよね。

    亀石

    私たちみたいに司法制度改革の波に乗って運良く弁護士になれた人間が一気に増えたから、競争が激しくなって淘汰されてきてるんだよね。弁護士ってすごく賢くて、弁護士としての能力は高いけど、営業ができない人が多い。弁護士の能力と営業する能力は違うから、優秀でいい弁護士なのに食っていけない状況も生まれる。逆に営業が得意で中に入るのが得意な弁護士なんだけど、弁護士としては誠実じゃないこともある。

    野村

    裁判までいかずに和解することもあるわけだもんね。

    亀石

    それが依頼者の利益になっているならそれでも良いんだけどね。だから弁護士業界は大変で私は弁護士の資格を取れば一生食っていけると思ったんだけど、そうとも言えないような状態で弁護士を辞める人もいるからね。

    野村

    まじ? もったいないね。

    亀石

    弁護士を辞めて会社の法務部に入る人もいる。

    野村

    最近いるね。社員弁護士がいる。

    亀石

    会社に入れば弁護士として激しい競争にさらされなくて済むから、たとえば公務員だから裁判官・検察官を目指す人も増えてる。

    野村

    みっちゃんが弁護士になったときぐらいに、用があって1回連絡を取ったとき、それこそ性犯罪でもし「のむちゃん」がやらかしたときは、私が弁護してあげると言ってくれたことがあった。

    亀石

    そうかもしれない。

    野村

    じゃあその時はぜひお願いしますって(笑)。と思ってたら「GPS捜査に関する訴訟」で突然みっちゃんの名前がパーンと出てきた。最高裁の大法廷なんてめっちゃ緊張するんじゃないの?

    亀石

    そうだね。私は緊張してご飯を食べられなくなることが今まで1回もなかったんだけど、あの時だけは緊張し過ぎて、ご飯を食べられなかった。

    野村

    大法廷に入っていく姿が、まるでドラマ「HERO」みたいな写真で。「すげえな」って。

    亀石

    たしかに「GPS捜査に関する訴訟」事件で自分が全面に出てしまった。でも私は顔と名前が出ることが嫌だから、できるだけ自分の顔と名前が表に出ないようにしてた。でも「GPS捜査に関する訴訟」事件は、どうしても自分が主任弁護人だから前に出ざるを得なかった。私が「GPS捜査に関する訴訟」事件でテレビに出たりしたことで、自分の計画やスタイルが狂っていったよね。

    野村

    テレビにも出てたね。

    亀石

    私はテレビに出ることが本当に嫌いなの。

    野村

    そうなんだ。

    亀石

    もうテレビには出たくない。それがきっかけで選挙にも出てくれとなった。

    野村

    選挙にも出てたね。

    亀石

    あのときも最初で最後の選挙だと思って出た。私は子どもおらず、サラリーマンでもないから、たとえば選挙に出て落選しても仕事にまた戻れる。その意味ではサラリーマンが仕事を辞めて選挙に出るのとは身軽さ的に違う。あのときの選挙は半分ぐらい女性候補者を増やそうみたいな動きがあった。それで私みたいに身軽な人間が選挙に出なかったら、誰も選挙に出られないなって気持ちもあって。

    野村

    なるほどね。

    亀石

    女性の政治家が増えないと、この国の女性を取り巻くいろんな法律や制度は変わらない。でも女性は立候補しない。選挙に出ないと女性が増えない。じゃあ立候補するという壁をどうやって越えるのか。なかなか立候補の壁を越えられないと思って。

    だけど政治のことも何も分かってなかった。何もわかってなかったからこそ選挙には出られたと思う。もし分かっていたら選挙には出てない。

    野村

    政治ってそれこそみっちゃんの嫌いな組織のそれもめっちゃネチネチした部分がありそうじゃん。

    亀石

    そう。負の部分は薄々わかっていたし、一番自分が嫌いな世界だと思っていたけど、選挙に出てみてすごく実感したし、マジで無理だと思った。でもいろいろ勉強になったから、自分の経験としては良かったし面白かった。

    野村

    人生一度きりだからね。

    亀石

    うん。国政選挙に出ることがないじゃん。だからネタとして選挙のことが話せるからよかったと思う。それから予定通り弁護士に戻り、弁護士の仕事を続けられているからよかった。でも「GPS捜査に関する訴訟」事件がきっかけで、自分の方向性が思わぬ方向にいっちゃった感はあるかな。

    野村

    それがきっかけで、みっちゃんが担当した「タトゥー彫り師医師法違反事件」と、「ダンスクラブの風営法違反事件」を、逆にみんなが知るきっかけになった気がするんだよね。みっちゃんがやっていなければね。

    亀石

    そっか。もしそうだったら良かった。たとえば今も性風俗事業者が持続化給付金をもらえていない裁判の件をTwitterで発信しているから、関心を持ってもらえるきっかけになるんだったらよかった。

    野村

    なるほどね。性風俗事業者が持続化給付金をもらえていない裁判だと男性が担当すると微妙だから、女性が担当したほうがいいね。

    亀石

    セックスワークの件は女性が発信することに意味があると思ってる。職業差別だろうと言って争ってるんだけどね。私は弁護士って仕事だからこそ、自分の知らなかったようないろんな人に会うし、社会のいろんな側面を見ることができるから、仕事はすごく楽しい。

    野村

    天職だね。

    亀石

    私はね。

    会社員時代の経験が役に立ったこと

    野村

    僕はフジテレビに転職して、もちろん必要に応じて資料は作らなくちゃいけないんだけど、資料づくりより、ひとつひとつをもっとどんどん決めていかなくちゃいけない。提案してはダメだと言われ、もう一回チャレンジしての繰り返し。

    亀石

    どっちかというと資料づくりより企画する側なんだ?

    野村

    今は企画して決断するところまできているけど、ドコモだと社内調整が重要だった。フジテレビでも編成部門は相当社内調整が重要なんだけど、担当しているFODは事業部門だから、金を稼ぐためにどうするか、お客さんに満足してもらうにはどうするかで編成部門とは考え方が違うんだよね。

    亀石

    のむちゃんはそっちが向いてるよね。私も根回しって言葉が一番イヤだったね。マジでクソだなって思ってた。

    野村

    根回しをしていないと、あとから「俺は聞いていない」ってなるんだよね。

    亀石

    だから何か物事を進めたかったら、まずこいつに根回し、こいつに根回し、でもその順番もあってウザかった。私は判断する人に直で行きたい。だから私はドコモに入社して3日ぐらいで無理って思った。

    野村

    そうだったんだ。

    亀石

    でも3日で辞めるわけにはいかないし、親からも反対されるから、もしかしたら3年我慢すれば楽しくなっているかもしれないと思って我慢したんだけど、まったく楽しくなかった。

    望月

    3年我慢できればいいですよね。

    野村

    彼はね、1年我慢できない。何社転職してるの? 今は独立しちゃったけどね。

    亀石

    でも私、いま3年我慢した意味はなかったなとは思ってます。

    野村

    もっと早く辞めたらよかった?

    亀石

    それも思ってはいるけど、ドコモで社会人時代を送ったことが、弁護士になってから後に活きたかなってこともなくはない。

    たとえば私はクラウドファンディングで裁判費用を集めることを、弁護士業界で初めてやったわけ。プロジェクトベースでクラウドファンディングを活用することは、いま日本では全然普通のことじゃん。だけど弁護士の世界はすごく保守的で、何か新しいことをやろうって空気がないんだよ。だから裁判費用をクラウドファンディングで集めるなんてとんでもないってなる。

    野村

    止められるの?

    亀石

    反対される。そのときは「タトゥー彫師」の事件を弁護団でやっていたんだけど、私以外の弁護士は消極的だった。「クラウドファンディングをやって何かあったらどうする?」って発想をするのが弁護士。

    リスクを回避するのが弁護士の仕事だから、職業病なのかもしれない。たとえば弁護士は、もし「タトゥーの彫師」の裁判費用をクラウドファンディングで集めたら、こういう問題とこういう恐れがあり得るって項目が即座にいっぱい出てくる。でもその項目が即座に出てくるんだったら、私はその項目をどう潰せるかを即座に考えろよって思うわけ。

    だから私はいい意味で弁護士の考え方に全く染まっていないし、法学部でも法務部でもなかったから、そもそも「知らん」わけ。弁護士業界の常識は知らないし、あったとしても無視。

    それは会社員の時期が少しある分、弁護士以外の仕事を経験しているから、発想できたかもしれないと後付けで会社員時代のことを正当化したりするけどね。でも会社を辞めるのは3年我慢しなくても良かったんじゃないか、1年でも良かったんじゃないかとは思う。

    <取材協力:株式会社LivePark>

    後編へつづく

    Profile

    亀石倫子

    1974年北海道小樽市生まれ。東京女子大学卒。会社勤めを経て34歳で司法試験に合格。刑事事件を中心に経験を積み、2016年に法律事務所を開設。2017年、大阪府警による令状なしでのGPS端末を使った捜査は違法とする最高裁判決を主任弁護人として導いた。
    Twitter:@MichikoKameishi

    野村和生

    1974年北海道札幌市生まれ。中央大学卒。
    NTTドコモでワンセグなどの新規事業企画・開発を担当したのち、2005年フジテレビ入社。2012年からFODの事業執行責任者として現在に至る。オリジナルドラマ「スイートリベンジ」「ラブホの上野さん」、オリジナルバラエティ「めちゃ×2ユルんでるッ!」「360°まる見え!VRアイドル水泳大会」「世界をマンガでハッピーに!」のプロデューサーも務めている。
    Twitter:@kazuonomura
    FOD:https://fod.fujitv.co.jp/