新卒で入った会社のまえとあと【後編】

亀石倫子
弁護士
野村和生
フジテレビ FOD事業責任者

まえとあとでは初めて前編と後編で配信している対談の後編は、コンテンツの話題についても語っていただいております。今回の対談収録は【株式会社LivePark】のスタジオにておこないました。

Profile

亀石倫子
1974年北海道小樽市生まれ。東京女子大学卒。会社勤めを経て34歳で司法試験に合格。刑事事件を中心に経験を積み、2016年に法律事務所を開設。2017年、大阪府警による令状なしでのGPS端末を使った捜査は違法とする最高裁判決を主任弁護人として導いた。
Twitter:@MichikoKameishi
野村和生
1974年北海道札幌市生まれ。中央大学卒。
NTTドコモでワンセグなどの新規事業企画・開発を担当したのち、2005年フジテレビ入社。2012年からFODの事業執行責任者として現在に至る。オリジナルドラマ「スイートリベンジ」「ラブホの上野さん」、オリジナルバラエティ「めちゃ×2ユルんでるッ!」「360°まる見え!VRアイドル水泳大会」「世界をマンガでハッピーに!」のプロデューサーも務めている。
Twitter:@kazuonomura
FOD:https://fod.fujitv.co.jp/

Index

めっちゃ大事な協調性

亀石

のむちゃんはドコモで働いていたことが役に立っていることはある?

野村

僕は法学部だけどドコモの1年目途中から救急車のアナログからデジタル変換へのプロジェクトで、北海道の病院と救急車に2億円の物品を工事して寄付をした。当時はデジタルになるとよく電話が切れたので、小樽の消防にはよく呼び出された。特に小樽は地形が悪く、裏は山、表は海だから、一番電波屋さん的には苦労する環境で電波がよく切れた。

でもそのときの救急救命士法は、まだ勝手にAEDができないころだから、医者の指示を貰わないと救急救命士はAEDが使えなかったので心電図を病院に送るんだけど、その電話が切れるのは何事だってクレームになるわけ。

現場の救命士にしてみたら、AEDは高確率で救命できるから使用するのに、電話がつながらないからAEDが使えなかったと何回も消防に呼ばれ、そのたびに切れた理由を説明しなくちゃいけなかった。オペレーションセンターで何時何分の通話が何で切れたか理由を聞くと「スケルチ終話ですね」と言われ、そんな言葉を消防側に説明しても理解してもらえない。具体的にどういう状況で切れたのか教えてくださいとまた社内に聞くことになる。

そうすると「電波が弱くなったから切れたんだよ」って。これだけじゃ消防も納得しないってやり取りをやっていくうちに、携帯電話のつながり方を覚えた。だから半分理系的な仕事をやり→ドコモの東京→ドコモで放送関連事業をやると。当時はワンセグ方式の検討が主流だったんだけど、ドコモの電波の範囲の中で、放送的なサービスができないかのプロジェクトも検討していたわけ。その仕組みの中で生まれた、僕がドコモ時代に出している特許のなかで今も使われているのが1個ある。それが携帯の緊急地震速報なんだよね。

亀石

特許なの? すごいやん。

野村

この特許は電波が途切れる消防とのやり取りの過程から必要になって、携帯電話のつながる仕組みをたまたま知っていたからシステム構成が浮かんだんだよね。だからあながち仕事でやっていたことが身になっていないわけではない。

亀石

私もドコモ時代はあれだけ協調性がなくて、チームプレーができなかったんだけど、結局弁護士になってもチームプレーなんだよね。大きな事件をやるのは弁護団ってチームだから。たまたま裁判で自分がリーダーになることがあったり、いちメンバーとして参加してる事件もある。チームで動いて最高の結果を出さなければいけないとき、自分がこのチームの中でどう動くかをすごく考えるの。だから今になってマジでチームワークって大事だなって思う。

一同

野村

一匹狼が(笑)。

亀石

めっちゃ協調性って大事。弁護士になる人は協調性がない人が多い。もともと協調するのが苦手だから弁護士になってるのもあるし、強烈なキャラクターの人も多い。会社員になったら難しそうな人が多い。そんなキャラクターの人とチームを作り最高の結果を出そうと思うと、自分が今度は協調性を取ろうとする側に知らず知らずのうちに回る。

野村

特にリーダーになったらね。

亀石

そうなんだよね。自分にとって勉強になった。これだけ協調性がない人間がチームをまとめてリーダーになることによって、チームとはどうあるべきかを考えたし、私はダメなメンバーだったし、チームに不満を持つ人の気持ちが分かるから、逆にいいリーダーになれるって思った。

野村

なるほどね。

亀石

一周回っていまごろ協調性って大事やなって(笑)。

野村

すごい成長したじゃん

一同

「それでもボクはやっていない」は絶望的になるぐらいにリアル

亀石

今でも実家に帰省してる?

野村

この前、久々に出張ついでに帰った。

亀石

しょっちゅう実家には帰らないんだ?

野村

いま子どももいるからね。

亀石

子どもは何歳なの?

野村

12歳と9歳だね。

亀石

え、でか?! そんなでかいの?

野村

そう。

亀石

中学受験? 男の子? 女の子?

野村

2人とも男。

亀石

子どもは何者になろうとしてるの?

野村

何者になろうとしてるんだろうね?

亀石

何て言ってるの?

野村

次男坊はYouTuberとか言ってるけど(笑)。意外に長男は身持ちが堅いから、何を目指してるんだろ。

亀石

自分には子どもがいないから、全然子どもの受験事情は分からない。でもきっと熾烈なんだろうな。

野村

ママ友同士の情報交換とか。

亀石

私はママ友になれないと思った。まずママになれないと思ったし、ママ友の世界の中では絶対「はみご」になると思ったから。

野村

PTAとか大変だよ。

「たぶんPTAには入らなくていいですか?」と聴くタイプですよね。

亀石

「PTAって絶対はいらなきゃダメなんですか?」って質問をして、空気を凍らせる。私がママになりたくなかった理由が、自分がそうやってママの世界を乱したときに、子どもに迷惑がかかるから。だから自分は「はみご」になってもいいんだけど、子どもに迷惑がかかったら困るなと思ってママにならなかった。

そこから野村さんの奥さんが韓国ドラマを見ている話から、ドラマの話題へ

亀石

私も「韓国ドラマ」は見る。韓国ドラマは面白いからね。のむちゃんに言うのは悪いけど、日本のドラマはあんまり面白くない。

一同

野村

日本のドラマもいいドラマはあるよ。

亀石

最近見てないから、見たら面白いと思うのかもね。

野村

弁護士から見て、これは面白いって弁護士ドラマはあるの?

亀石

一番リアルなのは「それでもボクはやっていない」だね。

野村

なるほどね。

亀石

それでもボクはやっていない」では周防監督が徹底的に現場を取材して、めちゃくちゃリアルに作ってるから、「それでもボクはやっていない」は絶望的になるぐらいにリアル。でも例えば「リーガル・ハイ」は現実と違うけど、そのスピリット、言わんとしているところにめちゃめちゃ多くの弁護士が共感して面白いって。だから中途半端に嘘くさいドラマが多すぎるのかな。私も韓国ドラマはよく見るんだけど、韓国ドラマを見ると日本のドラマがマジでつまんないと思っちゃうんだけど、何でなんだろうね。リアリティーもないし。でもそれは日本のドラマを見てないからなのかな。

野村

ちゃんと見れば面白いと思うけど、韓国ドラマって細かい部分をあまり気にせずに大筋のストーリーでぐいぐい押していくのはあるのかもね。

亀石

たとえば私は韓国ドラマの暴力シーンのリアリティがすごいと思うんだけど。

野村

そのリアリティは国の問題だね。韓国の隣には北朝鮮という国があって、映画の設定では最高の舞台じゃない。日本はシーレーンで守られているからか、日常の脅威が少ないんだよね。

亀石

それはあるよね。

野村

韓国は徴兵制があって、みんな銃を扱えるわけじゃない。日本の映画やドラマだとよくあるのがヤクザドラマのシーンで、主人公が銃の安全装置解除を忘れ、ヤクザに銃を取られるシーンがあるけど、そのシーンは銃が当たり前の世界では理解不能だと思う。世界では常に安全装置を解除するのが当たり前だし、銃を使ったことないお国柄がシーンに出る気がする。

亀石

それもある。日本のドラマと映画は表現の仕方が萎縮しちゃって、やり過ぎないように自ら規制してるところもあるよね。

野村

映像表現の自主規制は、視聴者の反応を恐れすぎてる気もするよね。

亀石

気がする。煙草を吸ってるシーンとか。何か言われそうなことをあらかじめやらない感じがあるよね。私は今のところ日本のドラマは面白くないと思ってるんだけど、もし面白いドラマがあれば教えて、見るから。

野村

うん。送る。

亀石

フジテレビではドラマを作るところにもいたんだっけ?

野村

ドラマを作る部署にはいないけど、FODの立場で制作しているオリジナルドラマには携わってる。僕がプロデュースしたのは2本「ラブホの上野さん」というドラマと、「スイートリベンジ」というドラマで、「スイートリベンジ」はオリジナルコミックからのドラマ化だった。

亀石

すごいね。そんなこともやってるんだ。

野村

ドコモにいたころはテレビ局に入るなんて当時思ってもいなかったから。それがドラマの制作にも携われるなんてね。

亀石

すごく楽しいよね。

野村

すごくいい機会をもらったなって。

弁護士になって6年間はまったくプライベートがなかった

お仕事は基本依頼された案件を受けるんですか?

亀石

依頼のある仕事は選んでいて断るケースもあります。「GPS捜査に関する訴訟」事件の裁判で有名になると「自分は30年間国家から監視されてます」という相談とか、電波系の人からの相談が多かったり、私を過大評価をして「無実だから自分も無罪にしてくれ」って手紙があちこちの刑務所や拘置所から届くんですが、基本的には断ってます。だから「GPS捜査に関する訴訟」事件で有名になったことの負の側面もあるので断ることが多いですね。

野村

なるほどね。「GPS捜査に関する訴訟」事件までは国選弁護人が主だったんでしょ?

亀石

私は弁護士になったら刑事事件ばかりやる事務所に入り、事務所は刑事弁護に特化した専門的なスキルを持った弁護士ばかりだから、国選も私選もいろいろな事件の弁護が来る。あと裁判員裁判が私が弁護士になった年に始まったから、裁判員裁判の事件とかね。一度に刑事事件を23件も抱えていた時があったぐらい、たくさんの案件をこなしていた。

弁護士になってからたくさんの案件をこなす生活を6年間やっていて、そのときはまったくプライベートがなく、旅行に行ったこともなければ、いつ実家に帰省できるかも分からなかった。自分のお客さんが警察に捕まっているから、そこへ接見に行かなきゃいけないので、最初の6年間は全然プライベートがなかった。

でも自分は弁護士になったのが遅かったから、早く一人前になりたいと自分に焦りがあり、最初の6年間はもうプライベートは無視してた。

野村

何でも案件はやりますみたいな?

亀石

そうそう。寝ても覚めても刑事事件のことばかり。そういう時に「GPS捜査に関する訴訟」事件や「タトゥーの彫師」事件などに巡り会えた。

でも今は事務所を辞めて独立して、離婚や普通の民事事件をやりながら、プライベートと仕事のバランスをとってる。あとはできた時間の余裕でボランティア的な仕事をしたりと環境も変わって、今は一番安定してる。

75歳ぐらいまで働いていたい

亀石

これからどうするの?

野村

もう47歳だよ。だからサラリーマン人生はあとちょっとしかないから、これから本当にどうしようかって思うよね。

亀石

思う思う。

野村

ひとつは今やっているFODをまだ100パーセントやりきったかというと、まだまだやりたいことはあるから、会社からお役御免にならない限り、そこは追求したいから、その先だよね。

亀石

そうだよね。たとえば定年が60歳だとして、でも60歳は超絶まだ元気だし、まだ何かできる。だからその後をどうするのかなと思って。

私は別に定年があるわけじゃないから、とりあえず70歳ぐらいまでは弁護士をやろうと思っている。だから定年より先を考えるってことはないんだけど、ただ働き方は10年ごとぐらいに見直したい気持ちがある。だから50代はどういう働き方をしようとか、60代はどういう働きをしようかと考えてるよね。サラリーマンの人たちはどうするんだろうなって思って。

野村

まだ具体的には全然定年の先はイメージしてないけどね。ただどこかで会社を手伝ってほしいって話があれば、全然依頼先にジョインさせてもらうことも場合によってはあるけどね。これまでやってきたことが活かせる場であればね。

亀石

活かしたいよね。

野村

せっかくだから活かしたいよ。

亀石

たぶん75歳ぐらいまで元気なんじゃないかな。75歳ぐらいまで働けると思うんだけどね。そのためにすごく筋トレをやっているし。

野村

マジ? えらい。

亀石

どんどん体がでかくなっていってるからね。

野村

僕も筋トレしないとな。

<取材協力:株式会社LivePark>

Edit & Text:Daisaku Mochizuki
Photo:Katsumi Hirabayashi