82世代の考え方のまえとあと【前編】

浦田航介
編集者・映像ディレクター
水野勇太
ゲーム開発者

今回の記事は、ふたりとも編集人と同じ世代、そしてふたりには男の子が二人いる。それぞれの子育ての話題だったり、子どもへのコンテンツの与え方がまったく違った。今回の記事ではその話題からお届けします。

Profile

浦田航介
美大で建築を学んだのち出版社に就職し、雑誌、書籍、ウェブなどの編集者を経験。映像ディレクターに転身。現在は主にNHKの番組や企業VP、雑誌、企業広報誌などメディアを横断的にコンテンツ制作に従事している。
水野勇太
大学卒業後、大手ゲーム会社で、ステルスアクションゲームの敵AIプログラマとして、ゲーム業界のキャリアをスタート。
その後、企画職へ転身。スマートフォンタイトルのプランナー、ディレクターとして、ゲームデザインとディレクションの経験を積む。
現在は転職先のゲーム会社で、AIテクニカルゲームデザイナーとして、進歩したメタAIの実現のための研究、企画と実装などに取り組んでいる。

Index

同世代のふたりが考える子育てコンテンツ論

浦田

最初に、子どもとコンテンツの関係性なんて話をしたいと思いました。子育てとか教育って、すぐには答えの出ないジャンルだし、加えて、各家庭や親の個人的な考えが大きく影響する要素だと思うんです。親の職業や経験によって違いが見えてくると思って。

まず僕の例をいうと、いま10歳の長男には、3歳までキャラモノ(ディズニーやポケモンなど)を制限するってことをやってみてました。そのかわり、NHKの知的エンタメ的な番組ばかり観せていました。地球ドラマチックとか、ピタゴラスイッチとか、ミミクリーズとか、デザインあとか。なぜかと言うとエンタメにはバラエティー的なものばかり光があたりがちですが、ほんとうは、知的好奇心も同等に面白いと捉えられればいいのにっていう願望があります。だいぶ偏っていますが、やっぱりバラエティーのほうがわかりやすく面白いので、このくらい偏らせてもどうせすぐバランスとれちゃうだろうって思って意図的にやってます。

水野くんもEテレを子どもに見せているの?

水野

僕の方針は子どもには完全フリーな状態なので、なんでも子どもが自分で見たいものを見せます。

そうすると子どもはいま何をよく見るんですか?

水野

YouTubeですね。基本的に子どもはYouTube→ゲーム→YouTube→ゲームの繰り返しですね。

じゃあ、もう子どもが見るものでは現実的には地上波が選択肢にないやん(笑)。

浦田

僕はEテレを観せてると言ったけど、キャラモノ解禁してから、うちは2人ともほぼポケモンを見てるね。

いわゆる戦隊ものとか、仮面ライダーは見るんですか?

水野

うちは見なかったですね。チラッと見せることもしましたけど、全然彼らは惹かれなかった。

浦田

うちの場合、次男は見てますね。常に仮面ライダーの必殺技を繰り出してる。

平林

子どもたちって、以前はテレビもチャンネル数が限られていたから、だいたい同じ番組を見ていたじゃないですか。でも今はそうじゃないから、最近の子どもたちの学校の話題はどんな感じなの?

浦田

ポケモンとレベルファイブに専有されている率は高いと思います。

レベルファイブってまだ強いんや?

浦田

レベルファイブはコンテンツを量産するので、何か引っかかってるでしょ。まだ妖怪ウォッチもやっているわけで。

水野

地域と学校によって違うのかもしれないですが、うちの小学校は『フォートナイト』が話題みたいです。『フォートナイト』に『スプラトゥーン』とか、ゲームが話題のベースにあって、同じゲームをやっている人+自分が好きなYouTubeを見てるパターンかな。

みんながみんな同じYouTube見ていないから話が合わないですよね。

浦田

合わないですよ。

平林

じゃあ共通の話題はどうするの?

浦田

ポケモンは話題として共通していると思います。ポケモンもレベルファイブもマルチメディア戦略が当たっていて、 ゲームから入る子もいればテレビから入る子もいます。

平林

じゃあ、その2つが今の子どもたちを捉えている?

ゲームという意味ではそうだし、『スプラトゥーン』の分母も大きいのでは?

水野

うちの場合、息子の周りは僕がある程度誘導したところはあるんですが、『スプラトゥーン』をプレイするDiscordのグループ、『フォートナイト』のDiscordグループがあります。

親同士で連携してDiscordのアカウントを作り、子供が友達と遊びたいといったら、親同士が連絡をして通話を開始して、一緒に話しながら遊ぶという感じですね。

だから子ども自身は3年生なんだけど、僕がいる隣で6年生の同級生のお兄ちゃんに「今から遊べませんか」とDiscordで話しかけて「今行けるよ」と言われたら一緒にプレイしてましたね。

浦田

それはすごいなー。キャラ制限を解放してからは、結局うちはポケモン、ポケモンになってるんですが、長男はポケモンに頭のリソースを持っていかれ過ぎてます。ポケモンはほぼ全種類覚えているし、属性も全部覚えているから、親としてはその脳の容量を別のものに使ってほしい(笑)。

水野

ポケモンをやっている人は、専門の領域が発達してるって研究結果があるらしいです。

浦田

発達していますね。

水野

(笑)

浦田

長男はポケモンでうるさい。アニメを見ながらサトシの戦いにいちゃもんつけて(笑)。これは属性が違うと。(そんな根性論サトシがついに世界チャンピオン)

水野くんのところは子どもがDiscordを駆使してすごいですね。

水野

うちは全部できるだけのことをやらせてみようと思ってるので、子どもが3歳ぐらいの時にファイナルファンタジー15をやらせてみたんですよ。

一同

浦田

子どもに対するコンテンツの与えかたは難しくて、正解は特にないって話をしましたが、教育界にとって、テレビゲームは長らく敵だったんです(いまでもそういう風潮はのこっていますが)。外からの圧力があってうるさいので(苦笑)

誰かがテレビで言ってたけど、今ゲームがあるからだけで、昔はテレビが「悪」やったやんみたいな話があって。

浦田

そうですね。テレビも漫画も、娯楽的な要素があるものは、教育分野はまず敵視から入るところがありますね。テレビにしても、以前はもっと厳しくて「おかあさんといっしょ」って、何で「お母さん」と「一緒」かというと、子どもに単独で「テレビを見せるな」って意味だからね。

望月・水野

へえー!

浦田

親と一緒に見なさいと。「おかあさんといっしょ」は創立当時には、お堅いところからの圧力でそういう作りにしなさいと言われていたらしいです。Eテレはそもそも教育テレビなので、そういうところとの調整が重要なんです。そんな流れもあって、ゲームは長らくNHKにとっては触りたがらないテーマだったと思います。いまは緩和されてゲーム番組が認められ、僕らも来年2月の放送に向けて制作中です。

面白いね。家の方針が違うと、かたやポケモン、かたやDiscordって。

浦田

僕が子どもにキャラを縛っていた理由は、子どもの関心を鉄道と車に寄せようと思って頑張ってたんです。

一同

(笑)

水野

邪なことを(笑)

浦田

途中までは鉄道だったんですよ。シンカリオンもあったしね。シンカリオンは許可してた。

一同

キャラやん!(笑)。

浦田

(鉄道に寄せていたのに)なぜか抜けちゃうんだよね。1歳から3歳のころの子どもはかなりの割合で車とか電車が好きなんです。自動車雑誌編集者としては残念すぎる。

好きなことを仕事に問題と、業界あるある話

僕もそれぐらいのときにすごい車の車種を覚えてたらしいけど、今は全然覚えてない。

(水野くんは)ゲーム以外の趣味はあるんですか? もうゲームが趣味なのかもしれないけど。

水野 

僕は趣味がゲームで、そのままゲームを仕事にしたから、別に新しい趣味は全然出てこないかな。

平林

仕事が嫌になったりすることはないんですか?

水野

嫌になることは仕事なんで(苦笑)、あるんですけど(苦笑)

平林

根本から嫌になることはないんですか?

水野

どうなんでしょう。でもそれは無いんでしょうね。ずっとまだ限界にたどり着いてないから。

浦田

他社製品もプレイするんですか?

水野

そうですね、でも研究っぽくプレイすることが多くって。

じゃあ、いわゆる「仕事あるある」もあるんですか?

水野

そうですね。あると思います。純粋にゲームを一切楽しめなくて。人によっては、自分の楽しみとして遊ぶモードに入ってゲームとして楽しんで、一方で分析的にゲームをやるときは分析する頭に切り分ける人もいるらしいです。僕はもうどんなに頑張っても切り分けられなくて、常にゲームは分析的に遊んじゃいますね。

浦田

それはディレクターも一緒ですね。ドラマを見るとカット割りを気にしますね。

水野

そうですね。

水野くんは子どもと一緒にゲームをすると、お父さんとはゲームが楽しくないとか言われない?

水野

たしかに。でも表面上では分析の雰囲気を出さないかな。頭の中では「これはこうなってるのか」と思いながら遊んでるけど。子どもがそのうちもう少しガチプレイヤーになったら、「はやく来い!」とか「そこ見ている場合じゃないだろ!」みたいなことはあるかもしれないですね。

浦田

僕も子どもがゲームしているのを見てイライラすることはありますね。

平林

お父さんがゲーム業界で働いているのは、子どもにとって自慢のお父さんになるんですかね?

水野

どうなんでしょう。

平林

このゲームを作ったのはあいつの家のお父さんだぜ、みたいな。

浦田

僕の場合、子どもは僕が何をしている人かわかってないですからね。だからめっちゃわざと作った雑誌を見せてるもん。

なかなか難しい、ゲームタイトル作ったのは、あれ俺問題

水野

ゲームのところで複雑なのは、もはや1人の作品じゃなくて、 僕が例えば有名なゲームに関わってるとしても、もうほんの雫ぐらいの部分しか担当していない。だからたとえば「あるタイトルのゲームを作ってたんだぜ」と息子が誰かに言っていたとしても、僕が完全にディレクションして、全部の責任をとって作ったゲームだったら言ってくれって感じですね。でも僕はほんのひと雫の部分に関わっていただけだから、逆にモヤモヤするかもしれない。

平林

ちなみにゲームは何人ぐらいで作るものなんですか?

水野

外注も含めて数百人単位ですね。

平林

数百人だと仕切る人がいないといけなくて、そのためのディレクターさんでしょ?

水野

そうですね。そのセクションリーダーじゃないですけど、1つのゲームタイトルのなかでチームがいっぱい分かれていて、それぞれにチームのリーダーがいて、リーダーのまとめ役がいてみたいな感じですね。

平林

じゃあ、その一部だけやっていたら実感は湧かない?

水野

実感が湧かないというより、その部分は責任をもって作っているので、これはやったと言えるんです。

ただ、子供が「このゲームのココがいいよね」と言っていても、大勢でつくっているので、自分がやった部分とは関係ない部分の場合もあるわけです。すると僕が作ったのはそこじゃないとなりがちで。

平林

僕も撮影をやっていてありますね。自分が携わっているのは動画の中でいっぱいあるなかのワンカットなんです。それを見せたときに「うわ、ここすごいですね」と相手が言うと、たいていほかの人が携わっているところで。面倒くさいから全部自分がやったことにしているけどね(笑)。

浦田

僕らもフリーランスみたいなもんだから、それでいいんですよ。ちょっとでも関わってたら、もう作ったと言うしかない。

平林

そうそう。ほんの一瞬でもやればね。

浦田

クレジットされてすらないかもしれないけど。

水野

仕事の進め方とかプロモーションとしては、そんな感じだと思います。でも純粋に息子から言われるとちょっとね。

浦田

その話で言うと、僕は雑誌と単行本と番組をやっています。モチベーションは違いますね。雑誌だと一部のコーナーを担当しているので、それが売り上げを左右する割合は少ないと思う。雑誌のなかでもマニアックなことを書く場合も多いし、へそ曲がりなので売り上げに結びつかないところに行く癖がある自覚を持ってやっているところもあります。

単行本は損益分岐点が低いので、例えば150万円の予算があり、本を刷るのにはこれだけの予算がかかります。じゃあ6000部ぐらい売れないと黒字化しませんと突きつけられて仕事をするんで、 そのプレッシャーは強いですね。

ただし、それをやったら自分のものだって言える。本来は作家さんの作品だけど「自分が編集したものです」と言い切れるトレードオフが大きいと思う。

番組の場合は、面白いものを作ったら視聴率は結果的に見えてくるものですが、それだけではない尺度が入ってくる感じ。どちらかというと雑誌に近いですかね。

水野

ゲームを制作する場合は集団作業になります。ソーシャルゲームだと日々売り上げの数字が見えてくるので売り上げを意識した仕事になります。自分はソーシャルゲームのディレクションもやっていたんですが、ソーシャルゲームはイベントの出来の良し悪しで、そのイベント期間の総売り上げがどんどん変わるので、その最大化のために必死で一定期間ごとに頑張る仕事スタイルでした。

何年もかけて作るコンシューマー用ゲームの場合は関わっている人数も多いので、自分の担当している場所のクオリティーにこだわり1番いいものを作ります。ただ売上にどれぐらい関係するかどうかわからない。

浦田

ゲームデザイナーとプランナーは、きっと責任がある自覚は大きいよね。役職の違いではあるだろうけど。

水野

そこはなかなか難しくて「ゲームをこういう面白さにします」と仕様書に書いたとしても、それがそのままの形には仕上がらない。実際に作っていく中で、キャラクターの細かい動きの気持ちよさだったり、遊びの微調整の部分だったり、音楽やエフェクトなどいろんなことが絡まってやっと完成したものが、ゲームの面白さとして評価されるわけです。

いろんな軸で評価されるので、全部の責任がプランナーにもならなかったりしますね。

浦田

ゲームは過程が複雑だね。

水野

要素だけでいうと、文字が1番シンプル。そこからさらに静止画、そこに動く映像がある。さらにそれをインタラクティブに遊べるゲームへという感じで、どんどん複雑度が増加しています。それだけ評価対象になるポイントもいっぱい増えてきました。

浦田

僕が関わっているメディアをゲームと比べて大きく違う点があって、テレビや雑誌というメディアはジャンルによってはドメスティックが許されるんです。

雑誌もテレビも国外をあまり意識せずに作れる(映画やアニメは除外) ゲームの場合は最初からグローバルビジネスじゃないですか。

水野

そうですね。

浦田

外野から見ると、そこが大変だと思います。ローカライズもしなきゃいけないし、日本人に受けるものがアメリカ人には受けなかったことが死ぬほどあるんだろうなと。

水野

そうですね。昔は良かったんですけどね。日本のゲーム産業が元気で、日本国内でゲームソフトも何百万本も売れ、もう日本国内だけで開発資金がペイできる時代はよかったんですが、いま世の中にはいろんな趣味が溢れているので、みんながゲームに使うお金が減ってきた。

今は、世界ベースで収益を回収しないといけなくなっているので、常に世界での販売を想定しています。最初から翻訳ベースで話が進むことも多いですし、宗教的な禁忌も最初から意識していますね。

宗教的なモチーフはどういうものを使ってはいけないかという講習があったり、そういう講習が昔から行われています。

浦田

いろいろきっちりしていますね。

全部に合わせるのは無理だろうね。どこかで突っ込んでくる人はいるからね。

水野

一方で、ゲームの面白さの部分に関してカルチャーライズができているかと言えば、そこまでコストを割けない・分からないところが多いです。

基本は日本人が考える一番面白いもの、世界で売れるものを作り、現地スタッフの意見も参考にしながらある程度仕上げます。マーケティングと最後の調整として現地の人たちにテストプレーでフィードバックを貰うこともあります。

現地での評価がずれていたら修正すべきところは修正しますが、基本的に面白さのコア部分は修正する必要はないと思いますね。そこはプロとして一番自信を持っている部分なので。

浦田

そういうフローとか考え方とか、取り入れるべきところがたくさんありそうです!

Edit & Text:Daisaku Mochizuki
Photo:Katsumi Hirabayashi