82世代の考え方のまえとあと / 浦田航介(編集者・映像ディレクター)× 水野勇太(ゲーム開発者)【後編】

  • 浦田航介編集者・映像ディレクター
  • 水野勇太ゲーム開発者

写真:平林克己
聞き手/編集/執筆:望月大作

目次

  • ゲーム制作分野の話とキャリア
  • ゲーム制作現場で取り入れられるAIの話
  • VR表現のリアルかバーチャルか論争
  • ゲーム制作分野の話とキャリア

    浦田

    僕はゲーム関係の学校で教えていたり、いまゲームの番組づくりをNHKでやっています。(放送予定:2023年2月23日23:45~(NHK総合))そこでよく聞かれても答えられない問いがある。それが「ゲームはどうやって作っているんですか?」なんですね。つまり、どういうスタッフィングでどんなプロジェクトマネージャーがいて、どんな分業体制なのかがアニメよりわからないんです。

    アニメだと『SHIROBAKO』というアニメで内情が取り上げられていたり、ビジュアルとしてわかりやすいじゃないですか。コンテ→原画→動画→セリフ付け……。フローとしてはわかりやすいので、それぞれを取材するって出来るんですけど。ゲームは階層がすごすぎてわからなくて。

    水野

    そうですよね。アニメだったら時系列でスライスしていけば、こうなりそうだとだんだん仕上がりまでの映像とセットでイメージしやすい。でもゲーム制作はいろいろと派生したり、ぐるぐる回ったりみたいなことがあります。ただ制作サイドからすると、一般的にゲームの種類ごとに多少は違いがありますが、大枠は決まっています。

    浦田

    ガントチャートでいう大見出しがちゃんとあるんですか?

    水野

    そうですね。途中で細かく分類されますが、最初に企画書と仕様書があり、次はプログラマーなんですが、ここでプログラムごとに分かれます。 UIを作るプログラマー、ゲームの中身を作るプログラマーがいて、キャラクターを作るのは、また別プログラマーで。制作物ベースでUI班、キャラクター班と分かれ、その中でまたキャラクターをプログラムするチーム、キャラクターのモデルを作るチーム、キャラクターの装飾物を作るチーム…というようにチームベースで分かれています。

    浦田

    僕も取材で聞くんですが、ゲーム制作現場の想像が難しいですよね。

    水野

    そうですね。

    浦田

    映像業界はそこまで綺麗に分けなくても制作できるからアニメも出版社とは大して変わらないんですよ。

    望月

    ゲームの制作サイドはオールマイティーな人が多いんですか? それとももう道具のプログラムをして数十年みたいな職人的な専門性が求められるんですか?

    水野

    最近だと1つの仕事が特に長くなります。ゲームを1本作るのに5年ぐらいかかるんで、基本的には専門職化してますね。だから得意分野として、例えば敵を作るのが得意な人もいれば、プレイヤーキャラクターを作るのが得意な人…とここでも細分化していますね。

    浦田

    ゲーム制作の監督になる人は、どういうキャリアを歩むんですか?

    水野

    基本的にはゲームデザイナー、またはプランナーや企画と呼ばれるような、ゲームのアイデアを作ったり、誰かが作ったアイデアを具体化していく仕事を経験した人が多いですね。ベースとなるアイデアや仕様をまとめる部分をしている人が、次のステップとしてディレクターになり、プロデューサーやディレクター兼プロデューサーのように監督的なポジションになる人が多いです。

    浦田

    自分の個性が特に強いプログラマーで、そのままキャリアパスで監督になるような道筋はないんですか?

    水野

    無くはないですが多くはないと思います。僕をその例とするのはおこがましいですが、僕も最初はプログラマーだったんですが、自分のゲームを作りたかったので、プログラマーから企画職へ転部させてほしい、職種を変えたいと話をして、あるタイミングからゲームデザイナーになりました。

    小島プロダクションから別の部署に移るタイミングで、自分で何本かオリジナルゲームの企画書を書き、部署に企画をプレゼンして、面接をやってもらったら最後の日に「水野君、君は合格なんだけど、明日からうちの部署なくなるんだよ」とまさかのオチがついて。

    実はちょうど家庭用ゲームから一気にソーシャルゲームに会社としてシフトするタイミングでした。そこで家庭用ゲームを作っている部署がソーシャルゲームの部署に変わるタイミングで。だからもう1回ソーシャルゲームの部署を受け直しました。ソーシャルゲームの部署では、企画職で自分のタイトルのディレクションもやりました。

    プログラムからゲームデザインやディレクションをやり、今はAIの部署にいます。AIの部署では、まるでゲームデザイナーがゲームの中にいるような体験を実現するためのAI、ゲームをコントロールする「メタAI」と呼んでいるAIの開発を今はやっています。

    つまりプログラムが分かり、企画ディレクションをやったので、じゃあ今度はAIでどうやってリアルタイムにゲームをデザインさせるか、を考えるようなところにシフトしています。

    ゲーム制作現場で取り入れられるAIの話

    浦田

    いま研究されているAIは、いろんなゲームタイトルに使えるような汎用的なものなんですか?

    水野

    それができるのが1番理想です。ですが、ご存じの通りゲームは、ジャンルによっても全然考えることも違うので、いま研究しているメタAIでは共通化をするより、ゲームタイトルそれぞれに特化するような感じになります。

    望月

    そのAIができたら開発スピードが上がるんですか?

    水野

    開発スピードが上がるというよりは、どんな人でもその人にとって最高のゲーム体験ができるようになることを目指すAIです。

    たとえばシューティングゲームが1番わかりやすいと思います。シューティングゲームは基本的に決まったタイミングで敵が順番で出てくるので、あとは自分がどれだけそれを覚え、どれだけ自分が上手くなるかで先に進めるか決まるゲームだと思うんですが、そうすると下手な人はいつまで経っても先に進めなくなる場合があります。

    でもそれはゲームの仕様が固まっているから起こる問題なので、そこにゲームデザイナーみたいなAIが入ると、最初はこれぐらいの強さから遊んでみたらとAIがユーザーに提案したり、めちゃくちゃうまい人なら最初から一気に激しく難しいゲーム展開にしたり。

    この人はすぐにアイテムを回収しにいくから、アイテムの近くに敵を出してやろうとか。ゲーム展開がどんどんリアルタイムでその人の個性に合わせて変わっていくと、いろんな人が誰でも楽しめるゲームになるだろうと考えています。

    望月

    弾力のあるゲームだね。

    浦田

    コミュニケーションの弾力性ね。必要だからそのAIを開発をしようとなるんでしょうが、きっとそれを思いつく過程があるんでしょうね。

    水野

    そうですね。実は必要性があるかは現場では1番難しいところです。ずっと秘伝のタレ的なプログラムでゲームを作ってきた人がいっぱいいるので、よくわからんAIに任せるよりも、俺たちが作ったゲーム体験の方が面白いという人が多いこともあります。

    だから「この部分だけでもやってみませんか?」とか、「このゲームはいろんな腕前の人がプレイして、上手い人も下手な人も最後まで遊んでほしいゲームですよね。最後のボスのところにはメタAIを入れて、下手な人でも刺激的なバトルになるような調整をやりませんか?」と制作サイドと交渉するなかで少しずつ導入されることもあるという感じです。

    浦田

    面白いですね。僕らが取材するときは常にバズワードを突きつけられるので、番組の要素として「AI」が入れられるのかとざっくりしたブリーフィングをされます。それからきっと大きい会社だと上層部が経営者と話になると「AI」が入ってないとダメだろうってなる想像ができるんですが、そういうことはないんですか?

    水野

    ゲームと他の業界の違いは、ゲームはもうAIが既に入っているのが基本になっています。ゲームはキャラクター1体からそのキャラクターがAIで動いているので。

    ゲームではどんな小さなキャラクターでもAIは入っているので、そもそも「AIを入れろ」みたいな状況はゲームの中にはありません。あるとしたら、もっとゲームの外側でAIを活用することで、ゲーム開発の効率化やコストをもっと下げられないのかというような話はあります。

    浦田

    業界として変革を迫られていることはないですか? 業界の新陳代謝のタイミングってあるじゃないですか、ゲーム業界にそういう変革はないですか?

    水野

    そうですね。ゲーム業界の変革、AIの話に重ねられるかどうかはありますが、今「ゲーム実況」や「VTuber」が世の中の流れになっている中で、そことゲームとを絡めるのかどうかはトピックとしてあります。

    今までゲーム実況は誰かやっているゲームプレイを、周りの人が見て、プレイヤーがキャーって怖がっているのをみんなで面白がったり、変なプレーをみんなで視聴して楽しんでいました。つまり実況者と視聴者は分断されていたのですが、ゲームの中身に視聴者が入っていけるような仕組みを取り込んだゲームができつつあります。

    それこそ極端な話だと、例えば実況するプレイヤーがホラーゲームをやっていると、どこのタイミングで「うわっ」と驚かせるようなおばけが出るか、周りの視聴者がタイミングをコントロールできたり、ピンチのプレイヤーに視聴者が回復アイテムを出現させたりと、実況者が遊んでいるゲームに、視聴者がリアルタイムで干渉できることなどが新しい取り組みとして行われていますね。

    浦田

    取材をしていると例えば「ストーリー」が「ナラティブ」という言葉に置き換わった。これは言葉が先でしかないだろうし、ゲーム会社の人から見たら、そもそもゲームは「ナラティブ」だったじゃんと思うはずなんですよ。

    枝分かれのあるストーリーのことを「ナラティブ」と言うならば、世の中的に「ナラティブ」が流行りました。だから「ナラティブ」で何かやれと言われるんじゃないかと思って聞きました。

    要はゲーム業界が技術的にも1番進歩が速いと思うんですよ。CGの発展なんかが象徴的ですね。新しい研究R&Dに関してゲーム業界は常に突きつけられていますよね。

    水野

    そうですね。そういう意味だと常々あります。今流行りの機械学習も、基礎研究としては固まった問題の中で、AIにどう学習させてより良い結果を出すかを基本的には求められています。でも実際にそのゲームの中で自動的にプレイするAIを作るとすると、基礎研究の範囲として対象にしている部分では全然追いつきません。

    もっと難しい問題として、どんどん問題の条件がリアルタイムで変わっていく世界でも使えるような機械学習を作らないと使えない。いま実際そういう取り組みがゲーム業界の機械学習研究にはあったりします。

    また、ゲームのいいところや面白いところとして、立体的な空間がもう既にあるということがあります。

    ゲームのAIはこれまでずっと3D空間ではどういうことを考慮してAIを作らないといけないのかを常々考えてきました。それが今、世の中がAIに対してポジティブになってきたので、じゃあ建物の中にAIを入れるとしたら、どういうAIを建物に入れようか考え始めました。そこではゲームではこんなことをやってきたという事例が役立つと考えています。

    浦田

    なるほど。昔のゲームはそれぞれ独立していたけど、今はゲームと実社会を繋げられることが周知のことになりつつあるので、それはプラスなんですね。

    水野

    そうですね。ゲームAIが実社会にもっと染み出していく感じですね。

    望月

    ゲームの研究が現実世界に落とし込みやすいってことやね。

    浦田

    基本的にシミュレーションするもんね。

    水野

    そうですね。あまり楽しくない現実世界が、ゲームAIが入ることで楽しくなるのが理想的ですね。

    VR表現のリアルかバーチャルか論争

    浦田

    僕もメディアアートを取材しているので、例えばいまVR元年と言われているけど、それもずっと30年前からやっていると思っている派です。でもメディア業界はVRは新しいと言うわけじゃないですか。ずっとそういう事象と僕らは戦っています。とはいえブームには乗っかってポジティブに行く姿勢です。

    望月

    Web3は新しいの?

    浦田

    Web3は新しいんだけど、僕はまだ社会実装のフェーズにないと思っています。まだユーザーにはあんまり関係ない話なんですよね。今のWeb3は権利の問題だから別にGoogleが便利ならGoogle使っていたいので気にしていないみたいな。僕の基本姿勢としては、自分が監視されていようが、何しようが、自分の貯金が減らなければ大丈夫ってスタンスで、その時になったら抵抗すればいいと思ってます。でもその時になるまであと20年はかかる気がする。NFTを含めて先んじている人は全力で応援しますが!

    だけどメタバースに関しては、ゲーム業界がやれることがたくさんあると思うし、僕らとしては期待しています。例えば論争がリアル派とバーチャル派で分かれていますけど、特に僕は実社会系のVRに期待をしてる。

    望月

    実社会系VRはARではないの?

    浦田

    リアル派VRかな。VR Chatもファンタジー世界じゃなくて、実際の渋谷をVRにした感じがいい。

    望月

    そういうことか。メタバースでガチ渋谷を作る派と空想派かみたいな論争なんや。

    浦田

    その先に実社会派については、Meta社がアバターは自分に寄せなさいという実名ネット空間が広がっているんだけど、ファンタジー派はこれを否定してるし、匿名のネット空間がメタバースにも欲しいという世界に二分されていく。特に実社会をメタバース空間にリアルに再現しようとするのは、美大で言うとデッサンなんだよね。

    だからそこはゲーム会社が持ってるノウハウがフルに活かせるはず。その意味でも僕は特に実社会派に期待を寄せているし、VR空間に渋谷が立ち上がり、そこにいろんなものが乗っかっていて、これがMRを通して実社会に落とし込まれるのが理想系なんですね。要は電脳コイルの世界です。水野さんがそういう研究開発をやっているのか話も聞きたいし、きっとゲームデザイナーそれぞれがこんなことできたら面白いなって絶対思ってるはずで。

    水野

    そうですね。その専門会社も今立ち上がり、資金調達をするような会社もあります。いま僕が思っているところでは、僕は逆にファンタジー派ではないんですが、非現実派なんですよ。なぜかと言うと、現実路線だと面倒くささが解消されないんです。

    つまり実際のリアルなものをVR空間に作りますと言った瞬間に、現実と同じようにVR空間でもある場所からある場所にアクセスするまでのコストがかかるんですよ。

    僕はこのコストに人間はきっと耐えられないだろうと思っていて。現実空間で人がわざわざこの駅からこの建物まで歩いてくるのはポジティブに歩いておらず、仕方ないから歩いてるんですよ。それが同じものがバーチャル空間にもできたときに、現実と同じ空間をまだ引き続き「歩けますか?」と言えば、僕は歩けないと思っています。

    そうなってくると、今度はVR空間をリアルに作る意味を別途与えないといけません。バーチャル空間なんだけど、歩きたい理由付けをしないといけません。でもそれが今のところリアルに寄せたバーチャル世界には基本的にはない。

    もし可能性があるとしたら、そこに例えばゲームという皮を被せることで、見た目は現実空間に存在する建物や形なんだけど、そこで例えば壁や天井も含めて歩いたところがその人のチームの陣地になるとか、本当の世界ではできない遊びがリアルな地形を使って遊べるモチベーションを立ち上げると、そこの空間に対して移動する理由ができます。

    そういうことは成立するだろうけど、現実の渋谷とバーチャルな渋谷の同じ場所で同じショッピングができるサービスだと移動するモチベーションがないので辛いと思います。

    浦田

    その辺の話がきっと議論されて然るべきで、今はメタバースやNFTがひとり歩きし過ぎて触りづらいんですよね。

    望月

    関心はそこに関係するお金儲けのほうだもんね。

    浦田

    金儲けなら、もっと他にもあると思うんだけどね。

    水野

    現実通りに作らないと、広告や看板スペースがないだろうからリアルなものを作り、そこにある企業とコラボしてお金をどう生み出すのか、引っ張ってくるのかって話になってますよね。

    浦田

    僕も解決策は全然ないんですが、リアル派を推奨したいのは、単純に現実世界が面白くなってほしいからなんです。

    水野

    逆にバーチャル空間で現実と同じ街を作り、そこで何かをするのではなく、それこそARみたいな現実世界に被せてポケモンGoのように移動するところで何かモチベーションを与えるやり方は発想としてあるかな。

    浦田

    望月くんもご存知の通り、地形好きでもあるので残念ながら現実空間を移動するモチベーションは高いんですよ。

    水野

    逆にそれを聞いてみたい。

    浦田

    僕が一番欲している勝手なMR空間は、ビルなどが全部取り払われた状態で地形だけを重ねてほしいんです。渋谷のビルが全部取り払われ、メッシュだけの地形がみたい。

    平林

    渋谷に人が住む前の地形みたいな?

    浦田

    そうです。本当にここが一番低い土地なのかとか。

    水野

    それは全然ありですよね。しかも、土地に歴史の時間的なレイヤーも重ねることができますよね。

    浦田

    それが一番楽しいですね。みんな地形好きは、土地土地の地形を読み込みに行ってます。地形好きの人はわざわざその場所に行かないとわからない立看板を読みに行くだけにそこまで歩くんですよ。

    街歩きは俯瞰して見てるとわからず、ディティールの中に歴史がある。例えば暗渠探しもその場所に行ってみないと暗渠があるかわかんない。地形図だと暗渠っぽい場所までは分かるけど、記録にも何も残っていない。

    僕は歩かないと発見できないことが楽しいクラスターなんで。だから僕は現実世界を歩くモチベーションが高い。ただ歩いてるだけで楽しいんですけど、それはそれで辛いよね。

    一同

    (笑)

    水野

    方向性は同じですね。現実にモチベーションを見つけている人は、現実空間で遊べるし、逆に現実空間の移動にあまりモチベーションを持ってない人もいっぱいいるので、その人たちにどういうモチベーションを与えるかは、サービスとして、エンターテインメントとしていろいろできるだろうと思います。

    Profile

    浦田航介

    美大で建築を学んだのち出版社に就職し、雑誌、書籍、ウェブなどの編集者を経験。映像ディレクターに転身。現在は主にNHKの番組や企業VP、雑誌、企業広報誌などメディアを横断的にコンテンツ制作に従事している。

    水野勇太

    大学卒業後、大手ゲーム会社で、ステルスアクションゲームの敵AIプログラマとして、ゲーム業界のキャリアをスタート。
    その後、企画職へ転身。スマートフォンタイトルのプランナー、ディレクターとして、ゲームデザインとディレクションの経験を積む。
    現在は転職先のゲーム会社で、AIテクニカルゲームデザイナーとして、進歩したメタAIの実現のための研究、企画と実装などに取り組んでいる。