「アニメだいすき!」のまえとあと / 諏訪道彦

  • 諏訪道彦アニメプロデューサー

写真:平林克己
聞き手/編集/執筆:望月大作

いくつかの分岐点があって今ここにいる

最初にバラエティ番組「11PM」のADやディレクターを経験して、その後アニメに携わり、「ロボタン」「ボスコアドベンチャー」を経て「シティーハンター」や「アニメだいすき!」などの制作ができました。その流れでアニメ制作に携われたことは大きかったと思います。今ここにいるのは、いくつか分岐点やきっかけのおかげなんです。

望月

長くアニメのプロデューサーとしてやっている人って多いんですか?

諏訪

これは自覚してるんですが、テレビ局の人間で35年間アニメをずっとやっていたのは僕だけだと思います。

望月

かなり珍しいですよね。

諏訪

組織の人間である以上、基本的に人事異動はありますからね。

望月

そうですよね。

諏訪

僕も制作→編成→制作→編成と異動しましたが、結果的に26歳ごろからずっとアニメ制作をやりました。組織のなかにいる以上、異動は仕方ないけど、巡り合わせが良かったか、単なる運なのか、作品との出会いも運だし縁ですからね。でも僕も自分の希望でアニメの制作に来たわけではないんですよね。

アニメやマンガは自分の趣味で良かった。大阪にいるころはディレクターとして番組を作ることが天職だと思ってました。2年の厳しいAD修行を経て「11PM」という番組のディレクターを半年やり、その後アニメ制作に異動したので、その時は自分のディレクターのセンスや「11PM」での仕事ぶりが認められなかったって感じましたよね。

望月

アニメ制作の現場で最初に感じていたことは?

諏訪

まず「ロボタン」で9ヵ月、次に「ボスコアドベンチャー」で6ヵ月、最初からプロデューサークレジットで作品に張り付きいろいろ勉強しました。その中で月曜夜7時のゴールデンの枠で何を放送するか。当時は代理店などによる“枠買い切り”システムがありましたから、「代理店がお金を払ってくれたら、それで作品はいいの?」と思ってました。テレビ局としては何も損はないんですが、でも視聴者にお送りするわけですよね。送り手としてアニメも視聴者の気持ちや心に残る作品を吟味すべきではって。どうしてもビジネス面が先行しがちですが、過去には良いコンテンツもあるわけですから。

「ロボタン」「ボスコアドベンチャー」もアニメとして色が違えど良い作品でした。ただ視聴者のニーズや月曜7時枠に特化したものではない。でもそこで東京ムービーと日本アニメーションの2社と仕事をしたことが大きい。そこで制作会社のプロデューサーを師匠として勉強出来たから、その次の「シティーハンター」につながりました。「ロボタン」を手掛けた時のようなアニメ制作を何も知らず状態では、「シティーハンター」は作れなかったですね。

望月

確かにいきなり「シティーハンター」を作るのは難しいですよね。

諏訪

やっぱり人間関係ですよね。師匠みたいな手本になる人を見ていると、「これはいいんだ」「これは悪いんだって」自分なりに分かるじゃないですか。制作の現場にいたころは、「先輩の背中を見て盗め」と言われた世代ですからね。今の現場は教えられないとダメなようですが。

盗むってことは、こっちで好きなところ気に入ったポイントを盗めるからね。教えられる場合だと好きなことだけを教えてくれるわけじゃないから。

望月

教えるだと、これをやってくれと指定されますし、盗むだったら、「あれはいいな」、「これはいいな」と、こっちで判断できますよね。

諏訪

そうなんですよね。だから良い面ばっかりじゃなくて、ここはダメなんだってことも盗めってことなんですよね。でも教える場合のこれはいい、ダメは、その教える人にとっての良い悪いで、教えられる方にとって良い悪いじゃないかもしれない。

望月

それはたしかにそうですね。

「アニメだいすき!」のまえとあと

僕が企画プロデュースをしました「アニメだいすき!」のポイントは、読売テレビの放送エリアの人しかわからないんですけど、当時は買うか借りるかしないと見られないOAV(オリジナルビデオアニメ)をテレビでお見せしてしまうのです。

そうするとその作品の権利者は「放送すると買ってくれないじゃないですか」って思うという、今となっては信じられない壁がありました。そしてそーゆー方々との会話の末、その壁を乗り越えて放送した結果、普通は見れないものを見てくれた人がその人の感性に刺激を受けて、今この業界に何人もいてくれるのはすごくうれしいことです。

さらに「アニメだいすき!」では、東北新社さんやバンダイビジュアルさんと会話をするチャンスを生み出す機会を得ました。ふつうはある作品だけだとその作品の周りの人しか出会えない。「アニメだいすき!」のおかげで放送したい好きな作品を求め、手塚治虫作品だったら手塚プロに直接行けるわけじゃないですか。結局「ブラックジャック」をその後やるきっかけを生み出したのは、そこで話をはじめたことなんです。

誰でも手塚治虫さんが大好きなんですとは言えるわけですが、言えたから手塚プロへ出入り出来るわけではないわけで。89年に手塚さんの追悼特集が出来たのも「アニメだいすき!」があったおかげなんですよね。

だから何が大きいかというのは、アニメ制作もそうですがそこをめぐる人たちと出会えて来たことが大きかったですね。そしてその人たちを信用できたらあとは基本的には他力本願なんですよ(笑)その人たちと流れるがままに流れるんです。

望月

僕も人のことは言えませんが(笑)。

諏訪

他力本願って、いいと思うんですよね。所詮自分ひとりでやれることは、絵を描けるとか、音楽を作れるとか、著作物を制作する方々は自分でやるべきですが、プロデューサーは著作権も何もないようなものなんで。仕事の役割や功績が形に表れにくいこともあり、アメリカなどのプロデューサーの話を聞くたびに、「違うなー」と思わざるを得ないことがありますね。

アニメづくりは粛々と

アニメ作品に関してはとにかく粛々とやっています。秋の土曜日17時30分に「半妖の夜叉姫」を始めるんですよ。僕は4年位前から「犬夜叉2」のイメージで企画を推進してきました。昨年末くらいから高橋留美子先生の監修のもと、メインキャラクターデザインを受けていただき、「犬夜叉」時代からずっと支えてくれてる隅沢克之さんのシリーズ構成で実現したものです。世間的には高橋留美子先生初めてのアニメオリジナル作品となります。このタイミングで成立できて本当に良かったと思います。そして自分としては、来年のアニメもやっているし、来年の劇場版オリジナル作品「神在月のこども」もあるので、粛々と今そういう制作現場ステージにいれるのはありがたいですね。

望月

結局ドラマもそうですけど、モノづくりって、与えられて出来る環境のなかで粛々とやるしかないじゃないですか。

諏訪

そうなんですよね。何かしらの理由でコナンの映画もそうですけど、長時間かけてひいていたスケジュールが飛んじゃうこともあるわけですからね。その時やれなくても次のものをどん欲に探していくべきと思ってますね。

望月

新しい作家さんが出てきたり、あとはこういう状況を反映したテーマ性でやろうとする人も増えてくるのかもしれないですよね。

諏訪

ものづくりのテーマとしてはいろいろあるでしょうね。自分は長いことアニメ制作をやってきたことは事実なんで、手にする職はそれしかないわけです。そのおかげで昨年も劇場版「シティーハンター」も実現できたし、その時代の新作も必要ですが、その時代に合ったリメイク作品もちゃんと使命を帯びていると思います。令和を迎えた今の時代を知っている人々も結集して「シティーハンター」は成功を収めた。そこの開発だと思ってます。

望月

どう今の時代にアジャストしていくものを作られるか。

諏訪

時代を見るか、時代を一切みないかです。たとえば格闘技でも何でもそうですけど、バトルもののロボットでも怪獣ものでもいいじゃないですか。そこは全く時代を気にせずにやっていけることも1つでしょう。この時代だからこそ出来る作品をもう1回引きずりだしていくのもありだと思っています。

望月

シティーハンターも最初に登場してからだと、僕とほぼ同じ年齢ぐらいですよね。

諏訪

昭和〜平成〜令和までやれたことは、1つの自信になってます。じゃあ他にどんな手法があるかを探すよりは、自分に何が熱いものとして残っているか、その残っている熱いもので次に行けるかってところなんでしょう。

望月

結局良い作品は、時代が変わっても設定が変にならなければ良い作品ですよね。

諏訪

そうなんですよね。面白いですよね、作家や原作者がすごいのは、その人が生み出すコアの部分がブレずにずっとあるからですよね。その人はその人で変わらない、だから作品が生き残っていく。それを僕らとしてはどう大事にしていくのか。言葉は悪いかも知れないけど、この時代にどう利用していくのか。さらに利用する時に好きであることも必要かな。単なる利用じゃなくて好きだという利用の仕方が、次につながる大きな価値を生み出すと思います。

あの時は上手くいったね。じゃあ今回も上手くいくか、じゃなくて、それを好きだったかということが大事ですね。僕はその”好き”はファンとしてハマるとはまた違う気がするんですね。プロデューサーとしては、「けっこう好きです」ぐらいの距離が良いと思います。

望月

そうですよね。あまりにも好きすぎると辛いというか。好きだったものも流行ってるものとか、もう一回出しても意外と見れる。

諏訪

「シティーハンター」でのお手本のひとつがラブコメ要素です。これはコナンではもう一つ深い要素で成り立っているものですけど、くっつきそうでくっつかないみたいなものです。それはすごく大事な要素だと思ってます。

いまの若い人も人間である以上、男とか女とかジェンダーとかいろんなことを言いますけどね。その要素は置いておいて、やっぱり客観的に見て楽しい、ちょっとライトなラブコメ的なものが良いんですけどね。

名探偵コナンの世界観とルール

望月

名探偵コナン(以下、コナン)も長く続いてますもんね。

諏訪

最初から携わってますけど、コナンがこんなにラブコメ要素いっぱい全開になるなんて思ってなかったですよ。はじめはコナンと蘭がいて、新一が小さくなったのを彼女は知らない、もちろんコナンは知っている。だから彼女に対する想いがどうだって、ここは男女のベクトルは正しく逆はありえないわけです。あれは青山先生の見事な発明です。そして今はとんでもないカップル数がいますからね。

望月

そうですね(笑)。

諏訪

この前、テレビ番組「今夜くらべてみました」でコナンファンの回があったけど、あれは無茶苦茶面白かったですね。

望月

あの番組で取り上げられるぐらい拡がっているんですよね。

諏訪

ハマり過ぎた人、好き過ぎた人、歌手の水森さんの話にはグッときましたね。あの番組の作り手もそこが良いと思ったので彼女の話を長尺で流してました。彼女が阿笠博士のくだりを感動を持って自分のタカラにする。そのパワーだよね。

望月

諏訪さんはその拡がりを体感されていると思うんですけど、作った側の意図を超えたファンの解釈がありますよね。

諏訪

そうだね。それは作った人の青山剛昌先生の世界観の中のルールを、みんなはちゃんと共有してくれているってことだよね。長く続くのはルールだと思うんですよね。ルールをみんなが理解してくれていること。よく言うんですけど、どうしてプロ野球の人気があるかといえば、野球というスポーツのルールをみんなが知っているからですよね。それによってプレーする選手にスター性があることも大事になる。見ていてルールが分かっていることが大きいんですよね。

コナンの場合も、コナンが小さいことなど、見る側がルールを分かっているんですよね。だからあれはルールの中で自分でどうこうしながら見てくれてる。そこに安心感も生まれる。例えばコナンは絶対泣かないなど、我々のなかでもルールはあるんですけど、そのことは当然として、そのルールの中に、ある種スレスレのものもちょっと入れる作り方になってますね。

青山先生の描くキャラクターの絵つくりは本当に見事です。安室、赤井などのキャラもすごい。そういう先生が生み出す世界の安心感がお客さんの関心を拡大させる。コナン映画はほとんどアクション映画みたいになってますが、それは大きなスクリーンで観て楽しんで満足してもらうためのアクションですからね。コナンの場合はその方程式は静野監督で確立されましたね。

でも始めからそうじゃなかったですからね。1作目は1作目の映画で青山先生もスタッフのみんなも2作目があると思ってない頑張りをしたわけですからね。それが2作目を呼んだわけですけどね。

望月

それが今の状況を作ってますよね。

諏訪

2作目が出来るだけで感謝だったし、映画つくりは青山先生も含めてスタッフみんなのロマンでしたからね。

望月

そうですよね。

諏訪

それが今や、24作目になるわけですから。

望月

長く続くってことは、それだけいろんなバリエーションが出てきますよね。安心感があります。

諏訪

そうですね、年に1回のお祭りですもんね。年に1回お祭りがある、それを待って楽しめる安心感がある。確実に毎週あるテレビ作品としてのコナンは、そういう意味では機能的に動いている感じがしますね。

ワンピースも同じですが、ワンピースは毎年の映画はないですからね。ドラえもんに至っては毎年の連載がないですもんね。ドラえもん、クレヨンしんちゃんの毎週の番組+映画の形はあっちが先です。お互いそれをずっと維持出来てきたことが、長寿アニメの1つの勝利なんでしょうね。

望月

ルールもいろいろありましたけど、結局何でもそうですが、続けるのが一番難しいじゃないですか。

諏訪

そうですね。続けるのが大変ですね。

望月

もちろんマンネリ化も、そういう話も出てくるとは思うんですけど。

諏訪

3年目、5年目、7年目に10年目とたしかに悩んでいた記憶はありますね。でも最近そういう悩みは無くなっちゃいましたね。もうそこはコナンは乗り越えちゃったんですかね。僕はもう次の世代に渡したので、僕自身が無いだけかもしれません。いまもシナリオ会議には出ているんで、各回各回を面白くする努力は欠かせませんが。

今回映画を一年延期する判断もすごいと思いましたね。僕だったらどうしたのかな。ただ経営者じゃなく、作品をどうするかってことなので、そういう意味では英断だと思っています。

経営者が判断することであれば、今年度の収入を0にはしないと思うんだけどね。

じゃあ延期して9月だ10月だとしても、上映できるかどうか、結局同じヤキモキでいろんなスタッフが悩み続ける。そっちがよっぽどビジネス活動としても大変だったかもしれないから英断だったと思う。

望月

映画館にいっぱい人が入れないって状況もありますし。

諏訪

90億を狙っていたことは事実で、映画館の状況によって50億だ30億の売上がいいのかどうか。もっと言うと来年に延期したらその成績がどうかって話もあるんですけどね。それは誰にもわからないからね。

望月

コンテンツも新しいやり方をまだまだ模索中の過程だと思うんですよね。

諏訪

イベント参加、コンサートも働き方改革のなかでも、そこだけはずっと盛り上がってきていたんですよね。CDが売れなくてもライブやコンサートに来るミュージシャンもいっぱいいるじゃないですか。あとはそこで売るグッズでビジネスをしていたのが、それがなくなった。じゃあ代わりのものといっても、すぐには見つからない。

望月

そうなんですよね。みんなそこが一番ネックですよね。でもエンタメ業界が元気になってもらわないといけませんよね。

諏訪

そうです。

望月

やっぱりエンタメが活力になって日々働いている人も多いですからね。

諏訪

そうです。好きだから出来ている部分もあって、仕事だから出来ているわけじゃないんですよね。もちろんそれだけじゃないとは思うんだけど。エンタメが活力、それは嬉しい話ですよね。恒久的なエネルギー注入をしていきたいですね。

こちらもそういうファンの話を聞いてエネルギーが注入されているんですけどね。そういう良い関係がこれからも続くために、コロナをどう乗り越えるかは共通の課題ですね。

望月

お互いに作り手と受け手の関係性として、そういう共生関係にあるわけですもんね。

取材のあと

音声配信アプリ Stand.fmを使って、取材後のインタビューをしています。

Profile

諏訪道彦

1959年愛知県生まれ。読売テレビ入社後、バラエティ番組「11PM」を担当、東京支社編成部へ異動後、1986 年「ロボタン」で初アニメプロデュサーとなり、その後月曜 19 時枠のアニメを数多く企画プロデュース。1996 年「名探偵コナン」TVシリーズを立上げ、翌年には劇場版を製作。ゴールデンウィークの定番映画に育て上げ、劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』は 91.3億円の興行成績はもちろん、イケメンキャラクター安室透人気が社会現象となるなど、国民的アニメに成長させた。
また、アニメと音楽とのコラボレーションを積極的に展開し『YAWARA!』では永井真理子の「ミラクルガール」、『シティーハンター』では TM NETWORK の「GetWild」など、主題歌をアニメともに大ヒットに導き、従来のアニソンのイメージを刷新した。現在は「名探偵コナン」など現場のプロデューサー業務は卒業して、関連会社ytv nextryにて引き続きアニメ企画プロデュース業務に従事している。ラジオパーソナリティとして「諏訪道彦のスワラジ」が文化放送・FM トヨタにて放送中。デジタルハリウッド大学で客員教授を務めている。
note:すわっちわ〜