名前が変わったまえとあと
名前が変わったって話があるじゃないですか。
芥川
自分の前と後は、それが人生で今のところ一番変わった。
途中で変わったの?
芥川
高3のときに父親が母のほうの養子に入って、名字が母方の名字になったんですよ。名前は祖父が付けてくれた名前だったんですけど、名字にそれをつけたときの自分の感触がすっごく嫌で、私は名前も変えたんです。
名前も変えて赤の他人になったから、もう晴れ晴れしちゃって。前の名字と名前が、自分の中では小さいころからすごくしっくりきてなかった。その部分が変わったから、もうそれは自分の中の前と後なんで、「わぁ」って思った。周りの反応の前と後は、後になったら突然みんなの態度が変わって。それがびっくりした。
平林
名字と名前が変わるなんて滅多にないよね。別人になっちゃうよね。
芥川
別人になったんです。名前も最初自分で付けたくて、めっちゃ候補を出してて、アリスになりたいとか言って、芥川アリスって言ってたんですね(笑)。字画を調べたらそれは良くなくて(笑)。
その名前にはしなくてよかったかもしれない(笑)。
芥川
本当にそうですよね。
そのときは良いと思っても、あとから絶対後悔するよね。
芥川
名前も変えるのは裁判をしなくてはいけないので、けっこう大変なんです。新しい名前を2年以上使ってから家庭裁判所に行って、変更する原因を伝えて変えてもらって。
名字が変わると学校では出席番号が一番後ろから、「あ」だから2番になって。2番になったから、みんな席順が1個ずつずれるじゃないですか。「えっ」とみんなに言われてしまって(笑)。
席が窓側と廊下側で環境も全然違うんですよ。私、いつも廊下側だったんですけど、憧れの窓側にやってきてすごく喜んでたら、窓側に近い子たちはどんどんズレていって、おかげで文句を言われて。あと、名字が変わったから、みんなに結婚したの? おめでとうって言われたりもして。
今の名字になってから、みんなの見方が一気にガラッと変わったところは心労になりました。大学に入ってからは前の名字を知らない人がほとんどだったので、「いいよね」「さすがだよね」と訳もなく言われて。
平林
たいだいみんな知らないで言うんだよね。
芥川
それはしんどかったですね。前に平林さんが何でみんなそんなに軽薄なんだろうねっておっしゃってて、何でなんだろうなってずっと考えて。名前って記号だから、あまり考えないで見ただけで言っちゃうのかなって。
みんな分かりやすさを求めるんだよね。
平林
考えるの嫌だからめんどくさいからじゃない。人間だって、どんな人かなんて付き合ってみないと分からないじゃない。だんだんわかってきたりしても、わからなくてさ。でも、それこそ希望としての名字だったらさ、勝手にある程度判断できるわけじゃない。それで終わらせたら楽だもん。
人がよくわかるようになった
この今の状況で何か考え方で変わったことってあった?
芥川
ナチュラルに考えると、人がよくわかるようになったかな。
人がよくわかるようになった?
芥川
例えば中高からの友だちとは政治の話はめったにしない。女子会をしてると、「これ美味しいよねー」とか「どこどこへ行きたいよね」、「可愛いよね」みたいな話が多い。しかもみんな仕事をしてるから、本当に毎日会う頻度も少なくなるじゃないですか。
今回のことがあって、突然自分の会社から陽性が出ましたとか、自宅待機でこうなりましたとか話す近況がガラッと変わって、最初はどうしようどうしようってことしかなくって。私はコロナ初期の日本の政治の対応にすごく疑問を感じたので、例えば検査の数が他国より全然少ないからじわじわ来てるけど、このままだと絶対大変なことになるよねとか言っていて。
海外よりも日本は病床の確保や医療が進んでるはずだけど、どうなるのかなとか、そういう話をすごくするようになりました。そこで返ってくるものがある人とない人の差がすごくあって。本当はいけないことなのかもしれないんですけど、相手によって自分が冷めちゃったりとか熱く話したりとかするわけです。
それでも私の場合はふわふわ生きているので、結局は思ってることを話すの苦手だし、話すと空回りするし。
そうなんですか?
芥川
そうなんですよ。誤解されやすい面も多くて、ちょっと話すのが怖いと思っていた時期があって。それも重なってどこまで話せばわかるのかな、ちゃんと伝わるのかなってこともありつつ、普段から気になってる社会や自然のこと、今こういう状況になったときに、みんなどう考えるんだろう? 私はこう考えてるけどいいのだろうか? とか。良いと思うけど、どうしてみんなはそう考えるんだろうとか。
普段は1人でぐちゃぐちゃどうでもいいことを考えたり、マイナスに考えたりするんですけど、そんなの吹っ飛ぶぐらいに変わった。もちろん現実世界で仕事がテレワークになったり、プライベートはzoom飲みになったとかもあるんですけど、その一つ一つについて、例えば、この人はテレワークを楽しめる人なんだとか、この人がzoom飲みするのは意外だとか、そういう人の見え方と自分の考え方が出てきて、自分は案外こんなこともここまで考えられるんだって気づきがけっこうあり。楽しんだりしつつ、怖かったりもしつつですね。
今は、優しさより恐ろしさとか、どこか浅はかなところとかが目立ってて。香港の国家安全法問題やアメリカの人種問題もちょうど重なったじゃないですか。そういうときにコロナの考え方に対して、こう考える人は、一つ一つの社会の動きについても、こういう考え方をするんだってことがなんとなく分かり出した。
普段から自分の日常でいっぱいいっぱいってことも、もちろんあるのかもしれないですけど、政治に興味が無い人はほとんど選挙に行かないし、選挙に行ってもどうせ変わらないと思っている人は、なんでそう思うのかという疑問も増えましたね。何で選挙に行かないんですかね?
ちょっと荒んだ感じがする
平林
以前選挙前、すごく盛り上がったように見えて、例えば憲法改正などの話になったとき、一瞬盛り上がったようで、すごく意見が交わされたけど、投票率がものすごく低かったときがあったんですよ。こんなに投票率って上がらないものなんだってすごく感じて。
芥川
先日、スマホが壊れたので一ヶ月間NHKだけを見る生活をしてみた方のツイートを見ました。老若男女みんながそこそこ幸せで、楽しいこともあり、政府の人たちもそれなりに働き、仕事も楽しみ、ああ日本って平和なんだって、すごく恐怖を感じたそうなんです。まさに今これだと思って。
平林
田舎のおじいちゃんやおばあちゃんはそういう情報しか入ってこないじゃない。地元の新聞と大手のテレビ局でしょ。人によってキャッチしている情報で、かなり現状認識に大きな差があるんだと思うの。逆にツイッターまでいくと嫌になるよね。
芥川
コロナになってから、みんながいろいろ言うことに対して過敏になってるのもあるんですけど、政治に関するツイートもすごく増え、ハッシュタグをつけて、検察庁法改正案に抗議しますとか、いろいろありました。その中で、誰々さんについてテレビに出ることに反対しますとか、誰々さんの意見に反対しますみたいなものも、わかるんですけど、そんなに拡散しなくてもいいものじゃないかな。
玉置さんが言ってたけど、ハッシュタグは民主主義じゃないんですよ。
芥川
そうですよね。そういう感じが嫌だなって。素直にいうと、荒んだ感じがする。
平林
雰囲気悪いよね。
芥川
そうなんですよ。
宇都宮餃子の件がもう最悪だったじゃないですか。枝野さんが都知事選の投票日に宇都宮餃子昔食べたんだよねみたいな話を突然し出して、同じ仲間内の議員が宇都宮餃子おいしいですよねとツイートするって事件があって。
宇都宮餃子の公式Twitterもこんなこと言われて悲しいわってツイートしてバズっていたので、出ていた宇都宮さんにもそんな感じで話題にされるのは失礼だし。
芥川
そうそう、そういうことですよ。
だから、それって民主主義じゃないよねって。
芥川
ある女性も、言い方は悪いけど、吊るし上げられていた時期があった。このオバサン普段何やってんのとか、偉そうに言うなとか、どんどん書かれていて。その方が言ってしまったことは失言だったのかもしれないですけど、普段どんな人なのか、どんな仕事をしているのか、そういうこと込みでちゃんと反論しているのかなとか、慎重さに欠ける意見も多い。Twitterは思ったことをサラサラ書くのが醍醐味なのかも知れないんですけど、今の時期は本当にもうちょっと優しくなってほしい。
平林
そのとおりだと思うけどね。寛容さが全然ないでしょう。人が何かやったら本当にどんなことでも吊るしあげるじゃない。その逆も自分が食らうわけじゃない。そういうことも関係なくなり、イメージも湧かないのか、本当にネット上で吊るし上げられた人の大元の話って、そもそもなんでもない事だったりするし。
結局これは本当にいろんな人とずっと言ってるけど、文章をちゃんと読む読めないとか、読まないって話になる。
平林
逆に読めない人も多いけど、伝えるほうだって下手じゃない? 両方だと思うよ。そのどっちもがある程度のレベルに達していれば、少しはマシなんだろうけど。
140文字の制限。そこで書けない人はスクショしたりするわけですけど。でも文章が長いからって伝わるものかというと、そうでもなくて。
平林
かえって伝わんないよね。
修飾語句だらけになる場合もあるじゃないですか。
芥川
でもコロナ禍でこれだけ政治に興味を持つ人は増えているのに、どうしてだろう?なんでだろう?とか、投票に行かない、とか。知ろうとしないのかな?
世の中は想像以上に広い
僕が気になるのは、有権者のうち、何人がSNSを見ていてやってるのか。結局facebookなりTwitterなりで発信している人が、ああでもないこうでもないというわけですけど、結果的には全然影響されないでしょう?
平林
その話で前から思うのは、結局意識が上がってきたとか、いろんなことが自分の周りで見えてきたことがあるじゃない。所詮自分の周りなんだと思う。今この三人で話していると、お互いそうだよねと言えるけど、要はここで社会全体の中のほんの一部どころか、選挙に行こうって雰囲気が盛り上がっているように見えたのも、その世界の中だけで、世の中が想像以上に広いんだと思う。
だから、その狭い世界だけの投票率を見れば上がったかもしれない。
平林
本当に秋田のおじいちゃんおばあちゃんの世界は全くわかんないわけで、びっくりすることを平気で言ってるわけ。逆に向こうから見たらこっちがびっくりすること言ってるんだけどね。それだけ世の中が広いと思った。
だから結局選挙が終わった後に、これは危機だよとかSNSに書いてるけど、本当の危機はそれが届いていない危機なんですよ。そこで書いても、みんなそこの人たちは危機だと思うんですけど、危機だと思ってない人のパイがもっと大きくて、でもそこには届かないわけですよ。
芥川
そうなんですよね。
NHKのアナウンサーが危機ですと言えば、届くかも知れないですけど。
平林
Twitter人口って日本だけだとどれくらいだと見なされているの?
4500万人ですね。
平林
でもその全員がヘビーユーザーではないよね。
複数アカウントの人もいるし、ロム専の人もいますよね。積極的に発信している割合の方が多分少ないですよ。
平林
コロナ一つをとっても、周りのTwitterとかfacebookを見ていると、意識の高い人が周りに多いような気がするの。やっぱり街に出てみると全然違うよね。
芥川
そうですね。それはブルーインパルスのときもすごく感じました。政治パフォーマンスだと言ってる人もすごく多いし、純粋に楽しんでいる人もたくさんいらっしゃった。私は賛否両論あっても全然いい内容で、どっちも間違ってないし、どっちも正しいと思った。確かに国が利用してるところは、よろしくない。
でもあれをやった結果、喜んでる人だっていたし、喜んだ医療従事者、それで勇気づけられた方は1人以上必ずいるんだから、いいか悪いかって言ったら難しいけど、それを論じるのは、いろんな意味で必要だとすごく感じましたね。
平林
不要不急でいえばブルーインパルスは要でも急でもなかった。でもここで不要不急なものは、逆に重要なものがいっぱいある気がする。だって不要不急なものを全部切り捨てたら、食べ物だって栄養だけ取れればいいし、人とのコミュニケーションは情報だけ伝わればいい。でもそんなこと言ったら世の中どんどんダメになる。
結局だからどっちかにした方が楽なんですよ。悪いとか良いとか、本当はどっちでもないことが多いですけど。
平林
そうしたがるんだよね。
その方が楽でしょ。
芥川
普段から思ってることがコロナで明確になって、「あ、この人はやっぱり良いか悪いかでしか考えられないのかな」とか、1つのものを1と2で割ることしか考えられないというのは、すごく狭いものだと、改めて分かりました。
取材のあと
音声配信アプリ Stand.fmを使って、取材後のインタビューをしています。
Edit & Text:Daisaku Mochizuki
Photo:Katsumi Hirabayashi