とあるクリエイターにとってのニューノーマルのまえとあと / 田中直基

  • 田中直基Dentsu Lab Tokyo クリエーティブディレクター / コピーライター / 雑文家

写真:平林克己
聞き手/編集/執筆:望月大作

目次

  • 「まえとあと」というテーマについて
  • ニューノーマルとクリエーティブ
  • 「間」と空気感
  • 取材のあと
  • 「まえとあと」というテーマについて

    お久しぶりです。

    望月

    今ってリモートワークが多いんですか?

    田中直基(Dentsu Lab Tokyo クリエーティブディレクター)

    ずっとリモートワークですね。ぼくは2月末からずっと。よっぽど、どうしても来てほしいみたいな打ち合わせ以外は、基本的には家にいました。

    望月

    2月末からですか

    田中

    あの、突然ですけど、「まえとあと」っていい名前ですね。

    平林

    名前?

    田中

    はい。すべての人の仕事にあるものなので「まえとあと」って。わかりやすくていい名前だなって思ってました。

    望月

    ありがとうございます。

    田中

    僕らの仕事だけではなく、全ての仕事がそうですが、基本的には、「前と後の差」を作る仕事じゃないですか。これ、自分的にですけど、「アイデア」という言葉の定義をあえてするなら、「前と後の間に、良い差分をつくること」だと思ってて。

    望月

    おお

    田中

    僕らが作ったものを見る前と後で、どう気持ちが変わった、行動がどう変わったか、社会や世の中がどう変わったかを作ってるなあと最近思ってたんです。

    望月

    確かにそうですね。

    平林

    世の中のことは、みんなそうだろうね。

    望月

    基本前と後って、後が良いに決まってるって言うと、少し語弊があるかもしれないですけど。

    田中

    良くしたくて、みんな仕事やモノを作ってますよね。だけど逆もある。

    望月

    リモートワークはどうですか?リモートワークの前と後の違いは?

    田中

    仕事のその瞬間、瞬間でいうと、あんまり前と後は意識してないかもしれないですね。基本的に今置かれてる条件や制約を受けて、おりゃー、どうするかなー!って考えるのが身に染み付いているところもあって。今回もオリエンに「オンライン」とか「集まれない」が追加されただけという感覚ですかね。変化に対応するのが好きなところもあるから、僕はストレスなくやってます。逆に言うと、前どうだったっけ?ぐらいの感じになってるところがあります。自分が意識してないところで、いろんなものが変わってるんだと思うんですが。

    ニューノーマルとクリエーティブ

    望月

    コロナになって、クリエイティブの立場で思うところがあると思うんですが、その辺いかがでしょうか。

    田中

    コロナになってすぐに、サントリーの「話そう。」というプロジェクトをやりました。タレントや俳優、アスリートなど37人の方々と一緒に作りました。

    望月

    なにかきっかけとか、あったんですか?

    田中

    その時は緊急事態宣言の直後で。とにかく世の中があたふたしていた。家からでちゃいけない!学校もいかせちゃいけない!どうしよう!ってなってた。人って、突然パニックになると、普段やってる基本的な所作を忘れちゃう時があるでしょう。息をするとか、話すとか。緊張すると手と足が揃っちゃうのもそうかも。みんな、グッと息が詰まっちゃう。あのときも、それに似たものを感じていて。みんな、息苦しくなっていた。その延長線にはDVや児童虐待があるとも思っていたんづです。なので、まずはシンプルに「誰かと話しましょう」というメッセージを言いたいと思いました。クライアントであるサントリーさんは、ずっと飲料やお酒をつくってきた企業ですが、それは言い換えると、飲料やお酒を通じて「話すこと」「人と人のつながり」をつくってきた企業なんです。これはサントリーがいうべきだと。サントリーさんとは最初の打ち合わせでそこが合致して、そこからは本当に早かったです。

    望月

    スピード感に驚きました。

    田中

    最初の打ち合わせからローンチまで1ヶ月かかってないんです。サントリーさんの決断と行動が早かった。あと、当然ですがすべての工程はリモートで行いました。打ち合わせ、編集、撮影。ぜんぶ。

    望月

    それすごいですね。進め方に困難はなかったんですか?

    田中

    まったくなかったですね。むしろ、コロナ前と比べても、質、スピードともに上がった実感がありました。たとえば、リモートだと、クライアントとも1日3回ぐらい打ち合わせが出来るんですね笑 「あ、さっきのよくわかんなかったんで、もう一度電話してもいいですか?」って感じで。会う打ち合わせならありえないけど、オンラインならできるんです。あと、今までだったら、クライアントと打ち合わせをお願いするにも、アポ取らなきゃいけなくて、アポを取るからには、何かちゃんと話す内容を1時間分ぐらい用意しとけと絶対言われるじゃないですか。先方も忙しいからと。でも、リモートになってからは、本当に1つ、どうしても話したいことがあるので、10分だけテレカンしていいですか?ってことが出来るようになっていました。サントリーさんの人柄なのかもしれませんが。

    だから当然そうなってくると、仕事の質も上がってくる。ちょっとしたことを曖昧にしなくなった気がします。会話量がすさまじかったですね。「さきほどの修正指示、ちょっと真意を知りたいので電話していいですか」って。結果、無駄なく忖度なく正しく修正することができるんで。

    望月

    すごいですね。たしかにリモートによって、コロナの前より会話量が上がっている人はいそうですね。ほかにもニューノーマルでプラスになったことがありそうな気がします。

    田中

    そうですね。大前提として、コロナは人の健康、命、社会、経済に悪い影響も与えていますし、メディアなどで報道されるのは悪いニュースばかりなので忘れがちですが、実はコロナで生まれた良い習慣、コロナでリセットできた悪習慣はたくさんある気がします。

    望月

    例えば?

    田中

    儀式っぽいものがごっそりなくなったんじゃないかなぁと。中身のない打ち合わせや、時間やステップの多い確認フローとか。

    望月

    儀式!笑 DXも進みましたもんね。その辺はどう思いますか?

    田中

    良い面はいっぱいありますよね。コロナ前から、スポーツのライブコンテンツのクリエーティブをいろいろと担当していたんですが、ベーシックなところでは、選手の撮影ってありますよね。あれって、いまでに対面ですごい人数の選手を撮影しないといけなかったのですが、スマートフォンで各選手に撮ってもらったらいいじゃん、と言えるようになった。誰も言わなかったんですよ。そんな当たり前のことも。

    望月

    だから、コロナを言い訳に笑

    田中

    そう。コロナを言い訳に、いろんな習慣やルールについて、正しいことを言えるようになった気がします。みんな。

    望月

    コロナが起きるまえはそういうもんだと思ってたんですよね。

    ですです。あと、企画の幅が広がった気がします。オフラインベースがオンラインベースになっただけで、できることが全然広がります。世界中と競技会場、世界中と選手、ファンと選手をつなげた企画ができる。呼べなかったすごいアーティストに演奏してもらったり、ロンドンとブラジルのアーティストをコラボレーションさせたり。

    望月

    移動できない、ってことを言い訳に、なんでもできる。DXについてはどうですか?

    田中

    DXはある意味デジタルによる効率化・最適化をベースにしたイノベーションだと思うんですが、気づかないうちに、その効率化の犠牲になっている部分に注目したいなと思ってます。

    望月

    面白いですね。

    田中

    これまたスポーツコンテンツで言えば、集まれないから映像にしよう。それで競技も結果も伝わりますね。効率的じゃん!って思うじゃないですか。

    望月

    コスト的にも下がりますもんね

    田中

    でもね、スポーツの国際大会って、その競技場では、知らない国籍、宗教、言語の人たち、しかも敵同士のファンが試合観戦をしながらハイタッチしたり、ハグしたりすることにも本質があったりするじゃないですか。

    望月

    スポーツはもともと戦争の代わりみたいなこともきいたことがあります。

    田中

    そうそう。だから、こういうことは、DXの流れの中で考えなくていいのか、ということです。身近な例で言えば、学校教育とかでいえば授業自体は、オンラインに置き換えられるかもしれないけど、そこに友達がいて、授業中に手紙を回したり、消しゴム飛ばしたり、居眠りしたり、オンラインには置き換えられない体験をどうしてあげるか。すべてが便利と効率だけではダメだと思います。

    望月

    なるほどです。

    「間」と空気感

    望月

    まだ僕は実感としてわからないんだけど、雑談とかブレストが減ったことで、決め込まない打ち合わせの時間がなくなったって不満もよく聞くじゃないですか。

    田中

    聞きますね。でも意外と僕はそんな感じなかったんですよね。

    望月

    そうなんですか。クリエイティブだから弊害になっているのかもと。

    田中

    ブレストの本質は、思考の時間をともにする、ということなんで、一人の時と同じように思考できるか、つまりは、お互いに「間」とかを気にせずに黙って考えられるか、だと思います。世の中で言われるのは、テレカン=間を開けずに情報を伝達し合う、だと思うので、結構真逆なんですよね。

    望月

    ですよね。

    田中

    ぼくは、テレカンのときの間も平気なんですよ。オフラインと同じようにやってます。たぶん、ベースにお互いの信頼関係とかがあるからかもですが。割と5分ぐらい黙って考えてられる。もしかしたら、画面の向こうにいる後輩たちは、すっごくドキドキしているかもしれないけど。

    望月

    間が待てる人はすごいですね。僕はダメなんですよね。関西人だからかなぁ。。

    田中

    僕ももちろん普通の会話では間を埋める派なんですけど、打ち合わせで企画をしている時は、相手がちょっと待ってくれてもそんなに気にならないですね。

    望月

    なんか「考え中」みたいなBGMが流れていたらまだいいんですけどね(笑)。

    平林

    そういう機能付けたらいいのにね。

    田中

    そうですね。今、ちょっと考え中ってわかればいいもんね。

    望月

    考え中だと画面切り替わればいいですね。

    田中

    サントリーの仕事のときは、スナップカメラのフィルターも作ったんですが、「話そう」というタグラインに基づき、会話を促進するフィルターを作りました。みんな「間」が嫌だってことは気づいてたので、「間」があると画像認識で、いま口が開いてないのを機械が認知して、キャラクターが「あれ、会話止まってる?」とか、「なんか話そうよ」と言ってくれるフィルターを作りましたよ笑

    望月

    それはいいですね

    取材のあと

    音声配信アプリ Stand.fmを使って、取材後のインタビューをしています。

    Profile

    田中直基

    1979年生まれ。神奈川県出身。主な仕事にEテレ「デザインあ」、サントリー「話そう。」、「マツコロイド」、YouTube「好きなことで、生きていく。」など。受賞歴にACC賞、東京コピーライターズクラブ新人賞、グッドデザイン賞、Cannes Lionsなど。京都芸術大学情報デザイン学科、特別講師。劇団「満員劇場御礼座」所属。コラム「カプセルタワーからこんにちは」東京スポーツ新聞にて連載中。