分からないながら、だいぶ分かってきたまえとあと / 吉里裕也

  • 吉里裕也株式会社スピーク代表取締役
    R不動産株式会社代表取締役

写真:平林克己
聞き手/編集/執筆:望月大作

目次

  • 東京近郊のニュータウン問題
  • 合理的に判断すること
  • すぐ戻るんじゃないか
  • わかんないって言いながら、だいぶ分かってきた感
  • 取材のあと
  • 東京近郊のニュータウン問題

    望月

    「まえとあと」では最近のことをよく聞いてます。最近のことだといろいろあると思うんですけど、この期間でマインドを変えてみた!ってことはありますか?

    吉里裕也(R不動産株式会社代表取締役)

    僕らがよく言われるのは、住まい論と働き方の部分ですよね。住まい論は郊外なり地方に移住することが増えているって話、オフィス論は在宅になってオフィスが余っているんで、その辺で動きないかって話が多い。何となくこういう会話では、都市部の山手線沿線に住み、別に会社に週1も行ってないから、郊外に住んでもいいよねって話は、”話”としては聞こえてくるけど、実際に動きが見えてるかというと、まだそこまでの動きはないですね。

    たとえばADDressには、いくつか物件を紹介してるんですが、彼らは彼らで追い風といえば追い風だよね。

    望月

    最近テレビも郊外に出ようみたいな特集をやったりもしてますもんね。

    吉里

    そんな特集で先日テレビに出ていた小田原の案件はまさにうちも密かにお手伝いした案件です。

    望月

    小田原だと都心にも出やすいですよね。

    吉里

    出やすいどころか、めちゃくちゃ近いですよ。打ち合わせでよく行ってたけど、品川から出て30分。行くときに弁当を買って食べようと思っているけど、開けてちょっと食べて食べ終わらないうちに着いてしまうぐらいだし。

    小田原はもともとポテンシャルもある。あとはもともと人気がある逗子・葉山や湘南周辺。通勤が毎日あると辛いけど、週1だったら全然苦じゃないじゃないですか。

    望月

    そうですよね。

    吉里

    だから、みんなの関心が高まっているのは事実なんですよ。不動産を購入するとか引越しって意外と大事なんで、よっぽどのことやタイミングを合わせないとなかなか動けないのが実態です。以前3.11のときは、やっぱり放射能を懸念する人が、金沢や福岡への動きがあって、うちのサイトのお客さんでも、40%増とか、そんな感じで動いたといえば、動いたんですよ。だからそういう意味でタイミングが合った人は、このタイミングで動き始める人はいるのかな。

    望月

    郊外に?

    吉里

    郊外や地方に。僕はそれでいうと、そこの動きを当てにするよりも、このタイミングを上手く追い風に変える感じがいいと思う。

    例えばうちの実家が横浜の上大岡から近いんですけど、いわゆる新興住宅地なんですよ。うちの親父が70半ばぐらいだから、あと10年したらほぼ親父がいない状況で考えると、うちや同世代でみんな同じタイミングで買っているから、僕らの同級生なり、前後の人たちは多分一気にいなくなっちゃうんですよ。じゃあ今度僕があの土地をもらってそこに住むかというと、あまり住むつもりはないんですよね。

    きっと同じような人は多い気がして、特に交通の便が悪いところは、そんなに人が循環してないんですよね。循環していないというのは、若い人とか新しい人が入れ替えがない。一方多摩センターや田園都市線沿線のたまプラーザとか、あの辺は利便性も高いから、循環して若い人が入ってきている。だから生き残る郊外住宅地なんだけど、うちの実家とか最初に沈む郊外住宅地だと思ってたんですよ。

    一方でうちの親父は都内に通っていたのも事実で、それが良いか悪いかって言ったときに、家から通っていたわけだから、よく考えたらあそこでも週1ぐらいの通勤だったら全然苦じゃない関係がある。そこを追い風に乗せるにはいいタイミングなのかもって気はしてますよね。いきなり鳥取に引っ越しますかと言ってもなかなかハードルが高いじゃないですか。

    望月

    ハードル高いです。

    吉里

    通勤・仕事や家賃だけじゃなくて、いわゆる地域のコミュニティや気候も違う。実家に戻るならまた違うけど、まだ郊外だとわりとシュッといけるじゃないですか。

    それは何か、これまでの空き家問題みたいな課題で、それこそ福岡の奥地なり、三浦半島に関わってきたけど、関わったところはそれなりに個性があるんですよね。だから、逆に言うと昔みたいにいっぱい人は来ないから、空き家も全部埋まるとは思えない。でも地域に特徴がある。

    その場所が好きな人は一定数いるし、ちゃんとそこに対しての向き合いは滅びることはないだろうと思うんですよ。でもニュータウンは個性がないじゃないですか。

    望月

    均質化してるというか。

    吉里

    均質化しているし、かつ一番最後に出来た住宅地なんですよ。日本の長い1000〜2000年の歴史のなかで、最後の最後の最後に出来たのが、うちの実家なんですよ。

    てことは最初になくなって然るべきな話で、そこの人口は減っていく。都心環境にも行かなくなると、実は地方都市の空き家よりも、東京都市圏近郊のニュータウンのほうがまずいじゃないかと思うんですよね。

    望月

    なるほど。

    吉里

    均質だから単純に利便性だけですよね。あとは単価と広さで値段が決まるので、それ以上でもそれ以下でもない。だから、そこを見直すきっかけにはなる気はしてます。

    望月

    そうですね、確かに。

    吉里

    そのときに土地の価値が減るんであれば、ずっと思ってたのは、今の土地の広さの4倍〜5倍ぐらいな土地にしちゃえばいいと思ったんです。土地をもらって売れるんだったら速攻売るけど、売れない可能性もあるから、そうであれば隣の家や隣の隣の家も買っちゃおうかなって。

    望月

    なるほど。逆に増やすんですね。

    吉里

    そこに木をいっぱい植える。要はもともと森だったんで、森に戻す計画をやろうと思ったんですね。そうすると多分、軽井沢ほど大自然ではないけど、都内では味わえないくらい森の中に家がある風景が出来て、かつ車で東京には1時間ぐらいでいける距離感だから、それなら全然あり得るんじゃないだろうかって。新しくするよりは再生して元に戻す感じ。

    平林

    逆開発って言葉を聞いたことがあります。

    吉里

    そうそう。50年ぐらいのスパンで考えないといけないんですけど、でも本当にそれしかないと思ってます。それがたぶん問題は変わらないんだけど、そこの回転や体が変わるのに10年かかるところが、このタイミングでうまくやると1年ぐらいでキュッと変わる可能性がかなりある雰囲気ですね。

    合理的に判断すること

    望月

    こんなにオンラインが全面に定着するとは思わなくて。

    吉里

    やっぱり大手の動きがデカイですよね。うちの会社はそもそもオンラインでやっていたし、スタッフとのやり取りって、リモートといえばリモートだから。そういう意味では全然変わっていない。だからわりと馴染んでいる感じがしますね。

    現場に出ることも多いので、企画や仲介は比較的にオフィスにずっとピッタリいる感じでもないから、デスクワーク部分を取り出すとわりとオンラインに向いている職種だと思いますね。

    そもそもオフィスに来る出社時間とか一応新卒のときはあったけど、基本的に僕も適当だし、スタッフにも特に強要していない。だって意味ないじゃないですか。9時に来てそれでどこかへ行って、夕方17時〜18時に終わって、そのままオフィスに仕事で戻って、「仕事です」とか。仕事があればいいけど、無いのに戻るんだったら家に帰ればいいって思うよね。

    望月

    それが本当にベストですよね。

    吉里

    だって意味がないじゃないですか。うちのチームは基本的にはそれだけど、そう言っても真面目な社員はオフィスに帰るんですよね。「もう17時ぐらいだから帰って良いよ」と言っても、「いや、ちょっとこれから戻るんで」って。横浜でミーティングしているのに、わざわざ目白のオフィスに戻ってオンラインミーティングするというから、それはないんじゃないかなって。

    望月

    これは吉里さん正しいですね。

    吉里

    だったら別に横浜駅前で場所を借りてミーティングしたほうが合理的じゃないかって思うよね。

    望月

    トップがそういう考え方だとすごくいいですね。

    吉里

    俺も戻りたくないもん。サラリーマン時代もそうだったし。

    一同

    爆笑

    吉里

    今回本当に大きいのは大企業が動きましたよね。大手メーカーに勤める知り合いの話だと、9割どころか10割も在宅ベースでって話もあって、それは極端すぎるけど、完全にそうなって動いたのがすごいなって思う。彼らは小回りが利かないでしょ。導入する時に設定してコストも掛けているし、だから戻すことは、意外と難しいのではという。

    一番中規模とか零細企業とかうちぐらいの規模が、社長判断で普通に通勤しているところは通勤しているし、そういう会社はあるのはありますよね。たとえばブレストミーティングだったり、直接話すことが早い話ってあるじゃないですか。

    電話でもいいし、Slackも面倒くさいときもあるのはもちろん使い分けているし、人によって電話会議で自分の主張が妨げられるのが嫌な人もいれば、電話で話したほうが速い人もいる。それって本来コミュニケーションの相手によって変えるべきで。だから100%メールがいい人もいるし、Slackすら嫌な人もいる。

    今後は新しく入社した人たちをどうやっていくかですよね。それが懸念ですね。今は小さな世界のオンラインベースでコミュニケーション取りあうことは週1であるけど、週1といっても2時間ミーティングする程度。別に飯も一緒に食いに行ってないし、だから雑談をする時間がほぼないんですよね。だからどう影響が出るかは、ちょっとわからないですね。意外といけちゃうもしれないし、さすがにそれはって話かもしれないし。僕らが意外と大丈夫で、若い子のほうがダメな可能性もある。

    望月

    そういう話もたまに聞きます。

    吉里

    だから、ハイブリッドが結局一番良いとは思いますけどね。

    すぐ戻るんじゃないか

    望月

    今後やっぱり完全には戻らないから、これから先どう新しくやっていこうかって話にならざるを得ない。

    吉里

    僕はあまり完全には戻らないってことなく、わりとすぐ戻るんじゃないかって。

    望月

    本当ですか?

    平林

    僕もまさにそう思ってて、みんなのそういう言葉にすごく違和感がある。

    望月

    戻っちゃうんですかね? 

    平林

    1年かけたとしたら、もともとコロナがなくても1年間って変化するじゃないですか。その意味では、流れが普通にあるだけで。

    吉里

    コロナに関係なくテレワークの流れは戻らないみたいな話はあると思いますよ。コロナがあるから、映画館がずっと1席飛ばしで続くかっていうと、たぶん続かない。インバウンドが入って来なくて、観光業やホテルつぶれまくるかというと、それも今以上になっていると思うって考えると、密な状態も生まれていくし、変わらないと思うんですよ。

    だからそこはただ、うちも宿もやってるから、観光客などその辺でいろいろ落ちてても、あと2年今までのやり方では本当に売上が0なんで。そうなると変えるか畳むかしないとちょっと宿感覚では難しいですね。そういう意味でいったら変わらざるを得ないし、この先どうなっていくのかは分からない。でも例えば体験型だったり、いわゆる観光地の観光の姿は、これまで変わる変わると言われていたのが、このタイミングでぐっと一気に加速する意味では変わるかもしれないです。

    望月

    なるほど。そういうことですね。

    平林

    みんながいう「戻れない」は、どっかでネガティブな悲観的なトーンを感じてしまう。

    望月

    ネガティブではないと思います。

    平林

    良かった時代がもう帰ってこない的な言葉のトーンを感じてしまうんだけど。

    望月

    良かった時代が戻ってこないよりは、何かみんな前向きなマインドセットな気もしますけどね。

    吉里

    居酒屋でわいわい出来ないって言うけど、5年経ってたらみな絶対やってるでしょう。

    平林

    そうですね。

    わかんないって言いながら、だいぶ分かってきた感

    戻し方は緩やかでいいんじゃないですか。だからもう本当にわかんないんですよ。でもわかんないって言いながら、だいぶ分かってきた感ないですか? 

    平林

    ありますあります(笑)。

    吉里

    分かんないと思って、その前は本当にわからなかったから、今はなんとなくそうは言っても、だいぶわかってきた感があるから、あとは緊急事態宣言をまた出されたら、きっとすごいことになる。

    平林

    緊急事態宣言で一旦止まったときって、またこうやってカメラ持って写真を撮りに行くのっていつになるんだろうと思ったら、意外とすぐでした。もちろん気をつけることはありますけどね。

    いろんなものが延期とか、様子見になるじゃないですか。あれって本当に危ないからどうってよりも、それをやることに対して怒られちゃったり何か責められちゃったりすることを回避してるような感じですよね。

    望月

    心象ですよね。

    平林

    空気って見えないけど強いですよね。

    望月

    人間社会なんでね。

    取材のあと

    音声配信アプリ Stand.fmを使って、取材後のインタビューをしています。

    Profile

    吉里裕也

    京都生まれ横浜と金沢育ち。ディベロッパー勤務を経て、2003年「東京R不動産」2004年にSPEACを立ち上げるとともに、CIA Inc.にて都市施設やリテールショップのブランディングを行う。建築・不動産の開発・再生のプロデュースやデザイン、「東京R不動産」「leallocal」「公共R不動産」、全国のR不動産等グループサイトのディレクション、地域再生のプランニング等を行っている。共編著書に「東京R不動産」「全国のR不動産」「だから、僕らはこの働き方を選んだ」「toolbox」「2025年建築『七つの予言』」等。
    株式会社スピーク:http://www.speac.co.jp/
    東京R不動産: https://www.realtokyoestate.co.jp/