クラフトコーラと出会ったまえとあと

鯉淵正行
クラフトコーラ行商 / マイスター

今回の取材は、以前取材した和田早矢さんからの紹介で実現した。それまでクラフトコーラについて漠然としたイメージしかなかったものが実際に実物に触れたり話を聴くことで、その輪郭はくっきりはっきりと目の前に現れた。

Profile

鯉淵正行
1993年生まれ。クラフトコーラ行商/マイスター。クラフトコーラが発祥した2018年当時から愛し続ける、ジャンルの生き証人。日常の嗜好品として根付く未来をめざし、クラフトコーラとのいい出逢いを生む“クラフトコーラアワー / CRAFT COLA hour” を主宰する。クラフトコーラバー等の月イチ営業、ゲストハウスや銭湯とのコラボイベント、音楽フェス出店等、多岐に渡り活動している。
Twitter:@craftcola_hour

Index

クラフトコーラとの出会い

クラフトコーラに傾倒することになったのは、もともと何がきっかけなんですか?

鯉淵正行(クラフトコーラ行商・マイスター)

もともとの経緯で言うと、クラフトコーラと出会う前の話になるんですが、僕は体質的にお酒が飲めないんですよ。

大学生や社会人当初、お酒が飲めないことで挫折して、ちゃんと場を選んでサークルやコミュニティに入っていたので「飲めよ!」と強要されることはありませんでした。

ただ、どこかでお酒が飲める人はうらやましいと思ってたんですよね。それは「お酒という世界」を楽しめる自分にはできない行為をしている羨ましさもあるし、お酒好きな人たちの「焼酎のこの銘柄がね」だったり、「日本酒のこの銘柄がね」とか。お酒はいろんな割り方の飲み方があるじゃないですか。いろんな種類の飲み方でたしなんでいることがすごく羨ましかったんですよ。

当時はノンアルコール飲料の深い世界を知らなかったこともあって、お酒の世界が「いいな」と軽く挫折してたんですよ。で何を飲んでいたかと言うとコカコーラだったんですよ。小さい頃から大学生・社会人1〜2年目、いわゆる飲み会の場でも、家に帰ってからの晩酌的な立ち位置でも、コカコーラは良い意味でも悪い意味でも刺激的で、コカコーラを飲むとどこか癒され、大好きで毎日のように飲んでいました。

だから元々クラフトコーラを好きになる素養がものすごくあった一方で、酒に対して一抹の寂しさを抱えて、社会人2年目ぐらいまで過ごしてきたんですね。

そして2018年の年末。今やクラフトコーラの2大巨頭である「伊良コーラ」が、表参道の国連大学前でやっているファーマーズマーケットに出店してると知り、運命的な出会いだと直感しました。クラフトコーラが現れたことは自分の人生において重要な出来事なんじゃないかと鳥肌も立ち、「これは行かなきゃ!」とすぐに「伊良コーラ」を飲みに行くとすごくおいしくて。ファーマーズマーケットで飲んだ「伊良コーラ」が、僕のクラフトコーラとの出会いです。

そのときはまだクラフトコーラは「伊良コーラ」と「ともコーラ」しかなかったので、その2種類のクラフトコーラをずっと飲み続ける生活が、2018年末から2019年前半でした。

クラフトコーラ行商・マイスターとして

そこからどうなっていくんですか?

鯉淵

ひたすらクラフトコーラが出店する機会に自分が飲みに行くこともあるし、もちろん「伊良コーラ」や「ともコーラ」のクラフトコーラ側に顔を覚えてもらって作り手と仲良くなるんですよね。「ともコーラ」と「伊良コーラ」は同じ時期に生まれたんですけど、この2つが登場してクラフトコーラというジャンルが日本で生まれました。

クラフトコーラをずっと飲み続ける2019年前半を過ごしながら、クラフトコーラをみんなに知ってほしいから、とにかくSNSで発信してました。クラフトコーラの美味しさや、自分の身近な人たちに「クラフトコーラ、ちょっと美味しいから飲んでよ」って、数人で集まって食事会をするときに、クラフトコーラを持ちこんで飲んでもらったりしました。

2019年夏ごろにようやくクラフトコーラの3種類目が生まれたんですよね。今後も増えてくるぞって予感もあり、この3種類をしっかりみんなに紹介するためにSNSでの発信を2019年は繰り返してました。なので身近な人からは「クラフトコーラ大好き男」と認識されつつあったとき、2019年年末に日本テレビの番組ディレクターさんから、1本のDMがTwitterに届いたんですね。

番組はすでに終わってしまっているんですけど、その番組でクラフトコーラ回をやりたいんだと伝えられて「もちろんです! 出ます!」と快諾しました。実際に2020年2月に取材されて放送されました。クラフトコーラを好きになり、クラフトコーラへの愛を周りに伝え始め、活動がメディアにピックアップされたのが2019年から2020年でした。

僕がテレビに出たことで「伊良コーラ」と「ともコーラ」がバーンと売れたらしいんですよ。オンラインサイトで注文がすごく入ったと喜んでくれて、自分がメディアに出たり絡むことで、クラフトコーラが知れ渡り、伝わり、そして売れることに初めて快感を覚えたんですね。このメディア出演の経験が、いまの活動の原体験のひとつになりました。

2020年はクラフトコ ーラの種類が同時多発的に増えたんですが、 その原因はなぜかというと、 ひとつはやはり、 「伊良コ ーラ」と 「ともコ ーラ」が メディアに引っ張りだこで広く発信されたことがあると思います。クラフトコーラという存在自体がとてもキャッチーだし、そもそもすごくおいしいし、なにより素敵なバックボーンと思想やストーリーを持っているから。

鯉淵

3種類目が2019年の夏に出たんですけど、それも「ともコーラ」がやっている、各地域のプレイヤーとタッグを組んで、その地域の素材と文化をクラフトコーラに落とし込む、「ご当地クラフトコーラ」の取り組みで。その第一弾で2019年夏に「熊本クラフトコーラ」が出来ました。その存在も、地域性を反映してクラフトコーラをつくることができるという証明になってインパクトがあったり、クラフトコーラのメディアでの反響を見て、日本のいろんな地域のプレイヤーがクラフトコーラを仕込み始めたと思うんです。それが一気にバッと出てきたのが2020年なんです。

なので2020年はクラフトコーラが一気に増えてきたんですけど、出てくれば出てくるほど自分は全部飲みたいし、紹介したいから、毎月新しく出たものを取り寄せては、コロナ禍だったこともあり、とにかく家で楽しみまくり、 SNSで紹介しまくってました。

僕がクラフトコーラ紹介の活動や発信を強めたのが2020年前半ですね。10種類20種類とどんどん出てくるクラフトコーラを紹介することを繰り返していると、2020年8月に、イベント出店のお誘いをもらいました。場所は表参道のジャイルという複合施設で、珍しい上質なドリンクが週替わりで出店者が変わるイベントでした。そこにクラフトコーラの飲み比べでいろんな種類を集めて出店してほしいと言われたんですね。

これは願ってもない機会で、いろんな種類のクラフトコーラを一度にぶつけられる機会はそうそうないから、「もちろん出ます」って二つ返事で出店しました。

結果的に300杯以上出たんですよ。8月の1カ月間、週替わりでいろんな出店者がいたんですけど、圧倒的な来客数と売上を叩き出したんですね。その結果を見たときにクラフトコーラの可能性を感じざるを得なくて。テレビ番組に出たとき以上の快感を出店することで感じてしまったんですね。

たくさんの人が来てくれて、クラフトコーラを人に振る舞い喜んでくれて、それがお金にもなって。良い循環が出来たことに自分自身が直面したときに、こんな気持ちいいことはないと感じ、これを活動にしたいなと。クラフトコーラを1つの文化として根付くように仕掛け続けたいと思って、しっかりクラフトコーラを伝え、体感する場づくりを、一年前の2020年8月をきっかけに開始したんですね。

基本的にはエバンジェリストみたいな感じで活動されているんですか?

鯉淵

そうですね。僕はクラフトコーラ行商・マイスターと名乗っているんですが、意味合いとしては近いかもしれませんね。

行商マイスターは、マイスターだけにすればわかりやすいのはあるんですが、この名称にはこだわっていて、伝えるだけに終始したくない気持ちがあるんですね。伝えた上でしっかり買ってもらって楽しんでもらいたい。人に届けるところまでを含めて自分がやるということを大事にしたいので、行商・マイスターと重複しているような・してないような言葉を2つくっつけた肩書きを持って活動してます。

クラフトコーラと地域性

クラフトコーラの背景の話があったと思うんですけど、ストーリー的なところでどういう面白さがあるのかなと。

鯉淵

クラフトコーラのストーリー的な面白さは3種類ぐらいあります。まずクラフトは地域になぞらえやすい。クラフト◯◯づくりをするのは、地域性・郷土性みたいな切り口が多いと思うんですけど、クラフトコーラも漏れず、地域性みたいなところを素材づかいやデザイン、ネーミングに落とし込んでいるコーラたちもあります。

ものによっては地域の文化を将来に受け継いでいきたいみたいな。ただ地域の素材を使うだけじゃなくて、地域の文化までも受け継ぎたいからクラフトコーラにそれを宿しているケースがあります。

たとえば「ぎふコーラ」というものがあります。岐阜に伊吹山って山があります。過去に織田信長さんが岐阜で薬草園を開墾せよみたいなことをして、 そこに薬草園を開墾された歴史があり、その近辺で薬草の文化が根付いているといわれているんですね。曰く、具合悪いときに家で薬草を煎じて飲んだり、 薬草を風呂に浮かべて入ったり、薬草が日常生活で根付いている地域だと。

ただ、それも長い年月を経て根付いてきたけど、 薬草園の後継者不足や自然の破壊等によって、薬草を生活で使う人も少なくなっていることもあって、 薬草文化がやはり縮小傾向になっていると。薬草の文化を伝える、かつしっかりとお金が還元されるサイクルをつくって、文化を受け継ぎたいという想いがあって・この薬草を主役にしたクラフトコーラを楽しんでもらいながら、岐阜には薬草があるんだってことをリーフレットに起こしたり、実際の発信活動でもしっかりと伝えていってるんです。地域の素材だけではなくて、「ぎふコーラ」を使って文化をディグルことができる面白さがあるんです。

それを「ともコーラ」は仕掛けている?

鯉淵

いろいろな地域で、同じようなことがクラフトコーラでできるじゃんと、「ともコーラ」のご当地クラフトコーラづくり以外のところでも現れてはいます。が、このうねりを生み出し、あるべき姿を提示したのは間違いなく「ともコーラ」で、非常に重要な仕事をしているなと。

「伊良コーラ」はある意味パイオニアなので、それを日本に転換させている「ともコーラ」みたいな位置なんかな?

鯉淵

そうですね。「伊良コーラ」は、2021年初に直営店2店舗目を渋谷にオープンしたり、2024年にはニューヨーク出店を目指す等世界に出て行こうとしているので、ある意味ひとつのクラフトコーラブランドがどこまで市場を開拓し、規模を大きく出来るのかを体現していて。で、「ともコーラ」は、いろんな地域に眠る素材や文化をクラフトコーラづくりに落とし込むローカライズ文脈で、多様なままどれだけ根付くのかを体現しているように感じます。

「伊良コーラ」も「ともコーラ」も何歳ぐらいの方々がやられているんですか?

鯉淵

どちらも20代後半でクラフトコーラを始めていたはずなので、30代になられたか、30代前半かな?どちらも近い世代です。

バックボーンはどんな感じなんですか?

鯉淵

バックボーンとして「伊良コーラ」のルーツのほとんどを占めているものに漢方があります。「伊良コーラ」の代表は、祖父が漢方職人なんです。高田馬場で古くからの漢方工房を営んで漢方を生業としていたそうで、小さいときから工房を手伝ったり、漢方と身近に接していました。

実際進学した先も、北海道大学の農学部で勉強をしたり、もともとコーラも大好きで世界のコーラを飲み歩くぐらいで。そんななかで、コーラのレシピに関する資料に偶然触れたらしく。

そこでコーラを作れるなら作ってみようとなり、実際漢方の工房もあるので、祖父からの漢方や漢方魂を受け継いでコーラ作りに活かすところから「伊良コーラ」は始まりました。

一方「ともコーラ」は、クラフトコーラを始める前からスパイスとハーブに詳しくて、自ら和ハーブ協会とタッグを組んで、日本のハーブブランドを立ち上げたり、ハーブの歴史文化を勉強して、素材に関する造詣があったようです。

クラフトコーラはメディアである

鯉淵

クラフトコーラにとって、この2つが始まりだったのはものすごく幸せだったと思います。クラフトコーラとは何たるかを示しているし、自ら可能性を体現しているし、ご当地クラフトコーラづくりでローカルにも影響を与えていて。指標となる2つが素敵だったからこそ、後続にも素敵な銘柄さんがたくさん現れているのかなと。

そして、たくさん現れても、多様な魅了を享受できるのが、クラフトコーラの面白いところの大きな一つで。ある意味、調合をしっかりすれば、どんな素材を入れてもコーラとして成り立つところがあるんですよ。すごくざっくり言っちゃってますけど。

コーラとしての香りや味わいを出すためのベーシックな素材は踏襲しつつ、+αで素材を入れたり。どの香りや味わいを強めたいかで、チューニングしたり。つくるときの素材の数も多いし、どんな素材を入れるか選定する際の余地も広いし、数が多い分、調整の余地も広い、ともいえるかもしれません。

つまり、表現したいことや伝えたいことを宿すキャパシティが広い。なので、素材自体や香り、味わいでしっかり伝わりやすい面があるのかなと。それって、メディアとしての機能が高いといえるなって。

カレーに似ているかもしれないですね。

鯉淵

あ!おっしゃるとおりです。ともコーラも以前までの公式サイトでは「コーラはカレーだ」って言ってました。

平林

コーラである条件は、何から何まで入れたらコーラではなくて、これだけを入れておかないといけないよってものはあるんですか?

鯉淵

あります。あるんですけど。ちょっと悩ましくて。それは何かというとコーラナッツなんです。コーラナッツがコーラの名前の由来になっているんですね。コーラナッツはアフリカの植物らしいんですけど。コカコーラの発祥はとある薬剤師が作ったと言われているんです。周りで頭痛に悩んでいる人がいて、頭痛解消のためのドリンクを作りたいなと。頭痛解消のためには覚醒作用をもたらすカフェインだからと手にした二つの素材がコカの葉とコーラナッツなんです。だからコカコーラなんです。

だからコーラナッツが入っていることが、もしかしたらコーラの条件であるべきだったんですけど、難しいのがコカコーラも途中からコーラナッツがまったく入らなくなったんですよ。いま原材料を見ると書いていない。これはコーラナッツが採りづらかったり、ちょっと高価なものとか、いろいろな事情があるとは思います。

実際レシピは企業秘密だとは思うんで、入っている可能性もないとは言えないんですけど、実質コーラナッツは入っていないことになっている。万が一入っていたとして、入っていることが重要ではないことになっている。コカコーラがコーラナッツを入れずに成り立っている歴史もあるし、カフェインを含む素材を必須とすると、それでためらってしまう方や身体に合わない方が出てくる可能性もあるなと。

コーラはポップな存在であるべきだし、ノンアルコールドリンクとしてなるべく境界線を引かない方が望ましいと思うので、コーラナッツを必須とまではしたくないなというのが、正直僕の「コーラ」の今の解釈としてあります。

というよりは、なんで入れるのか、なんで入れないのかを、ちゃんとコーラナッツに向き合った上で、選んでいればいいのかなって。コーラナッツのことをちゃんと調べて、コーラのルーツなんだよってわかった上で、なんで入れるのか入れないのかをちゃんと思考していれば、僕はコーラだと言えるんじゃないかと思っています。物質的に必須というより、精神的に必須というか。

じゃあコーラナッツが入っていないものもある?

鯉淵

あります。みんな基本はコーラの原点をリスペクトして、入れているところが多いです。でも味にはあまり影響ないらしいんですよね。だから余計なものを入れるぐらいだったら、他の素材を使ってもっと美味しいドリンク体験を作りたい考えの人たちもいて、それでコーラナッツを入れていないケースがあります。

あとは当初生まれたときのレシピで言うと、その時からシナモンとバニラや複数のスパイスと、レモンやオレンジみたいな複数の柑橘を調合してコーラは作られていたので、天然な複数のスパイス・柑橘というものを煮詰めて作られているドリンクが「コーラ」ってドリンクだと思っています。コーラナッツと向き合った上で。

取材のあと

声配信アプリ Stand.fmを使って、取材後のインタビューをしています。

Edit & Text:Daisaku Mochizuki
Photo:Katsumi Hirabayashi