街の面白さを再発見したまえとあと / 皆川典久+武田憲人+古川誠(1/2)

  • 皆川典久東京スリバチ学会 会長
  • 武田憲人散歩の達人編集人 兼 Webメディア「さんたつ」編集長
  • 古川誠元オズマガジン編集長

写真:平林克己
企画/編集/執筆:望月大作

離れている人たちと、これからどうつながるか

古川

今回2ヶ月間 stay homeで、ある意味で強制的にみんなが家に閉じ込められたじゃないですか。それがいま開けた時に感じたことは、こんなに同調圧力が利いた2ヶ月ってみんな初体験で、家にいれば正しいことをやっている感覚をつかめ、ある意味では思考停止状態だったと思うんですよね。この思考停止でルールをただ守っていればいいって感覚、何か決めてもらうことで人は随分楽になるって感覚を個人的には持ちました。多様な価値観と正解がみつけづらい世の中の風潮のエアポケットに入ったみたいな2ヶ月だった。

皆川

何か新しい構想とか、やりたいことが見つかるとか、そんなことはありましたか?

古川

僕はいま地域の仕事をしています。オズマガジン・オズモールを使って、日本中の観光の予算を頂きながら、人が地域に足を運ぶきっかけをつくる仕事をこの2年間ぐらいずっとやっているんです。でもこの状況で今、それが完全に分断されている状態なんですよね。これから何が起こるかというと、おそらく東京の人間や外部の人間に対する受け入れる側の拒否反応が起こると思うんですよね。

そしてそれは既に起こっているじゃないですか。車のナンバーを見て勝手に取り締まってしまっているような人がいるように、観光客が「おらが街」にウイルスを持ってくるかもしれないという警戒心があるので、観光を推し進めたい自治体と、観光を推し進めたい自治体に対して、ネガティブな意識を持つ住んでいる人たちの対立構造が起こるはずなんですよね。そこに対して新しい観光のカタチを提示しなきゃいけない。

逆にこの何年も国が関係人口と言っていましたけど、今こそ関係人口となりうる人たちを地域に作らないと、本当に一見さんはとにかくお断りされる観光時代がやってくる。つまり観光地以外は一見さんが歓迎されづらい時代になりつつあるんですね。

皆川

そういう形で、現地の人と繋がれるような場を、雑誌で提供する可能性ってありますか?

古川

そうですね。こういうときやっぱりメディアって大きいと思います。望月さんがメディアを持ちたいと思い続けているのも、たぶん発信する場所やベースを持ちたいと思っているからだと思うんですけど、その気持ちは本当によくわかります。僕はずっと雑誌をやってきたので、そうやって世の中と繋がっている場所はちゃんと持ってたいなって感覚が今また強くありますね。

皆川

でも古川さんと武田さんは、地方の方々の知り合いもあちこちにいらっしゃるわけですよね?

古川

はい

武田

私はあんまりいないですね(笑)

皆川

都内が多いですかね?

武田

都内ならまあまあ(笑)

皆川

そのつながりをこれを機会に上手くビジネスにつなげる展開はないんでしょうか?

古川

それが腕の問われているところです。今回は離れていてもコミュニケーションを取る手段が、テクノロジーも含めてみんなに明らかにされたじゃないですか。それによって働き方もきっと変わるので、観光や旅の考え方、関係人口の考え方も一段変わるんじゃないかと思います。それを仕組み化し、みんなの課題を解決するようなプラットフォームを作ることが出来れば、優位性が持てると思います。

雑誌のまえとあと

皆川

たとえば地元から是非うちで散歩の達人の特集を組んで欲しいとか、オファーがありそうですが?

武田

地方はあまりないですかね。

皆川

どんな町にも地元を自慢したい人はいるはず。持ち込み企画で雑誌化するって実現できるものなのですか?

武田

やってみたいですけどね。

皆川

武田さんの持っている雑誌化のノウハウに期待する人は多いのでは。地方特有の情報は地元の方が一番知っているはずなので、それを上手く引き出して、散歩の達人のテイストにすれば、地元の人たちも喜ぶはずです。

武田

そうですね。何かやりたいんですけどね。やり方が今一つ分かってないんですよね。

皆川

そういう意味で僕は地方の人なら色々紹介できますよ。

古川

本当ですか?

皆川

新潟や秋田に名古屋など。もちろん仙台もそうだし。

武田

是非お願いします。

皆川

本当に街歩きが好きな人たちがたくさんいるんです。「散歩の達人」みたいなマニアックなガイドブックって地方だけではなかなか世に送り出せない。

古川

散歩の達人は作り方がイケてますよね。

皆川

他の雑誌にはない独特な世界観を持ってます。

武田

本当にそう言われるとありがたいです。そんなに売れてないんで(笑)。

皆川

そうか、地方だと部数の問題が出ちゃうんですかね。

武田

それは出るでしょうね。

古川

散歩の達人は作り方が世の中に評価されていないんじゃない。いま本屋さんに行く人が圧倒的に少ないんで、散歩の達人みたいな本があることを知る機会が減っているんですよね。この課題で雑誌ビジネス全体が本当に苦しくなっている。だから散歩の達人の価値観を、どういった形で世の中の人と接点を持たせるかがより問われていると思うんです。

皆川

オズマガジンも散歩の達人もみんなブランド名としては十分知られているはず。東京に出てきて一度は目にしているはずだし。

武田

今は本当に本屋さんには人が行かないですよね。コロナ後は本が売れるのかと言えば、逆になる気がしてます。

古川

コロナ禍の前と後で言うと、雑誌業界の中でもお出かけ系の雑誌は、前を100としたら、しばらく部数は70ぐらいなんじゃないかと思います。本屋さんが開いてなかったから緊急事態宣言下では納品部数も極端に下げました。武田さんや僕らはお出かけを誘発しているメディアなんで、ここ数ヶ月はとにかく苦しい戦いが続きましたね。

武田

そうですね。これからどうなるんでしょうかね。

これからの仕事の仕方

皆川

生活のスタイルも変わりそうですか。在宅勤務やテレワークで全てをこなすって、難しいですかね?

古川

そうですね。まだ慣れないですね。

武田

会社に行かなくても取材は出来るかもしれないから、そういう意味ではテレワークは出来ます。ただ慣れの問題なんでしょうが、何十年も編集部は顔を合わせてやっている仕事なので、どうもなかなか理屈では出来ても、一番基本的な心の部分で、私はきっとうまくシフト出来ていないところがあるんでしょうね。

皆川

たぶん職種によりますよね。自分はオフィスの供給にかかわっているんで、今後オフィスの需要がどんどん減っていくじゃないのかと考えてます。経営者はオフィスを借りる時、1人当たり6〜10平米ぐらいの床を確保するとされています。あるいは会社として1人あたり月に6〜10万円の賃料を払っているとも言われます。その固定費が削減できるのは経営者にとってはメリットがあるはずでしょうし、逆に今のようなテレワークの方が生産性が上がる職種の人もいるんでしょうね。

古川

僕はいま12人の仲間とチームを組んでいるんですが、営業もクリエイティブの編集チームもいるし、企画を立てるチームなど、いろんな職種のメンバーが集まっている部署で。この2ヶ月のテレワークでは朝と夕方にその全員にメッセージを送り、こうなる前からずっとやっていた全員と週に1回、30分の1on1でおしゃべりする時間を、テレワークでも続けていました。

他にも2週間に1回やっていた会議を週に1回にしたり、コミュニケーションをとる目的も兼ねてチームを3つに分けて違うことを考える機会を作ったり、マネジメントのやり方で最初に苦労はしましたが、テレワークで一体感が生まれたんですよね。モノを作っているだけの編集部だったら、武田さんみたいに僕も違う意見だったかも知れないんですけど、組織をまとめてマネジメントしていく立場としては、案外このテレワークは悪くなかった。

会社にいると顔を合わせているようで、精神的には向き合いきれていない状況もあったのかもしれないなぁって思いました。

皆川

意外と向かい合って話す状況って少ないかも。

武田

確かにそう。意外にもWebで対面する会議がいいんですよね。

古川

すこし距離があることで逆に、心を寄せようとするみたいで、この動きが心理的に全員に起こりました。そして献身性や思いやりが、全員で顔を合わせているときよりも、制約がある状況の中の2〜3週間でどんどん顕在化し、成熟していった感覚がありました。それはチームリーダーとして頼もしかったですよね。

武田

その12人はオズマガジンの編集部も含むんですか?

古川

含んでいません。地域の仕事だけをすることでいうと、オズマガジンとオズモールの中で、旅の部分だけは自分がやっているところなんですよね。そういう意味では、オズマガジントリップとオズモールの旅のコンテンツを作る部隊と、自治体の旅関係の仕事を提案する営業と、そのすべてを束ねて動かす企画の4チームに分かれています。

武田

なるほど、うちは雑誌編集部とWebの編集部が隣り合って座ってます。私はWeb の方の編集長ですが、今回はWebも雑誌も関係なく、その都度みんなで対応を考えている状態です。以前にはない種類のチームワークを感じることはありますね。

皆川

古川さんのマネージャーとしてのやり方は、ついていく人たちも良い経験をしたんじゃないんですか?

古川

だといいなとは思いますけどね。

皆川

同じような考え方を持っているマネージャーなり、経営者はけっこういます。オフィスの在り方も変わるでしょうし、街のあり方も変わるのかなと思いながら、ではどういう方向に向かっていくのか、模索をしているところです。

武田

テレワークが増えると、オフィス需要が減るんですか? 

皆川

たとえば交代性にして半々で出社すれば、オフィススペースは半分ですむはず。賃貸する面積を減らせるわけです。

望月

ベンチャー企業がもう解約して、テレワーク中心だって会社もあるみたいですね。

皆川

職種によりますが、画面で同じ資料を眺めながらの会議って意外とやりやすいんですよ。今までのように大量の紙をコピーする必要もないし、「ここはこうだね!」と、みんなで同じ個所に注視できる。職種によっては意外と仕事出来ると感じる人もいますよね。

望月

簡単なミーティングならテレワークでいいと思うんですけどね。ただ重い話を画面越しでやると疲れますよね。

皆川

そうなんです。相手の顔色を伺いながら、その場の空気を読み取り、話しを引き出す会議は、なかなかオンラインだと難しいですよね。

望月

だから疲れている人も多いですよね。移動時間がなくなり逆に会議が増えている人の話も聞くんで。

皆川

PCを複数台駆使して、会議を同時に二つか三つ掛け持ちでやっているツワモノもいるらしいですからね。