カフェに縁のなかった安川さんが、いつの間にかコーヒーを淹れるプロになったまえとあと【前編】

安川佳織
小さな焙煎所 花待ち雨珈琲 店主

先日取材した「本と羊」の店主である神田さんに、面白いひとを紹介して欲しいと言って出会った「花待ち雨珈琲」の安川さん。面白いひとから紹介された面白い人が面白くないわけがない。興味深いコーヒーを淹れる世界の話。

Profile

安川佳織
小さな焙煎所 花待ち雨珈琲
毎日の生活に珈琲で「ちょっとした素敵な時間」を。
 
2017年9月無店舗で花待ち雨珈琲を開業。2020年1月六本松に実店舗をオープン。
2017年、2018年ファディカップ優勝
2019年ジャパンハンドドリップチャンピオンシップ全国4位
2020年(2022年開催)ジャパンハンドドリップチャンピオンシップ全国2位

Index

もともとコーヒーが飲めなかった安川さんがコーヒーを淹れるようになったきっかけ

安川

もともと私はコーヒーも飲めなかったので、大好きだったわけじゃないんです。だから私もコーヒー屋さんになると思わなかったです(笑)

ーえ、本当ですか? この仕事でコーヒーは飲めるようになったんですか?

安川

そうですね。飲めるようになりました。それからスペシャルティコーヒーに出会い、これはお砂糖やミルクを入れたらもったいないぐらいそのままで飲めるし飲みたいコーヒーでした。

ー今のお仕事を始めたきっかけを教えてください。

安川

きっかけは私の姉がカフェをやりたいと言っていたことでした。

ーいまお姉さんはカフェをやられているんですか?

安川

姉はそのときすでに就職していて、将来的にやりたいって話でした。私も新たな仕事を探している時期でした。だから私がアルバイトをすることでカフェについて学び、姉と将来一緒にカフェができたらなって飲食業に入りました。

ーそうだったんですね。

安川

私の家では外食する文化がなかったので、実際に仕事をするまで「カフェ」がテレビや漫画の世界だったので、全然イメージがつきませんでした。でも食後にコーヒーが出てくるイメージがあったので、せっかくだったら食後のコーヒーもハンドドリップで淹れたり、フードもやっている小さなお店だといろいろ学べるんじゃないかと求人を探してました。

ー面白いですね。現在は「花待ち雨珈琲」でしかできない体験を安川さんが作られていると思うのですが、「仕事はこれだ!」と思った瞬間があったのか、それとも流れからだと、どちらですか?

安川

流れの中ですね。いまの仕事を始める前に、会社勤めをしていた時期があるのですが、すごく窮屈だったんですね。

ただ、カフェで仕事を始めると、お客様が「美味しかったよ」と世間話をしてくれて、お客様と1対1で年齢関係なく喋れるのが、すごく心地良かったんです。

そして「淹れてくれたコーヒーが美味しかったよ」と言ってもらえるうちに、もっと美味しいコーヒーを提供したい方向に少しずつ流れが変わってきました。

ーそれは別にどこかで美味しいコーヒーを飲んだわけではなく?

安川

ではありません。本当に私は職場のカフェのコーヒーしか知らなかったんです。

ーそうなんですね。

安川

お店でお客様にコーヒーを提供することで、そこから「美味しかったよ」と会話が生まれ、私はさらにコーヒーの中でも美味しいものを提供したくなり、だからもっと美味しいコーヒーを淹れるためにコーヒーの勉強を始めました。

ーこれは勝手なイメージ論ですが、今回「本と羊」の神田さんから安川さんをご紹介いただいて、他に安川さんが載っている記事も拝見したんですけど、コーヒーを極める人像って、職人気質があるじゃないですか。

お話を伺っていると、そうではなくて、逆にお客さんとのコミュニケーションを楽しみたい延長線上にコーヒーを淹れることがあったのが面白いですね。

安川

そうですね。

美味しいコーヒーを淹れるためには練習もあり、日々のコンディションでの微調整もあり

ーコーヒーを淹れる練習もされるんですか?

安川

やっぱり美味しいコーヒーを提供したいというのがずっと根本にあるので練習はしますね。なおかつ今取り扱っている豆たちは本当に美味しいと思っています。なので、そのコーヒーたちをちゃんと表現して提供したいと。

お店の持つ雰囲気が楽しくて「ここで飲むからおいしいよね」ってところから、今は本当に最高品質のコーヒーたちを取り扱い、適切に焙煎するので、本当に美味しいコーヒーだと思っています。この子たちをちゃんと表現してあげたいし、この子たちの魅力をちゃんと伝えたいので、コーヒーを淹れる練習もするし、勉強もしています。

ーコーヒーを淹れる行為って、極論では誰でもできるっちゃ、できるじゃないですか。例えばパンだったら、その日の気温によって配合を変えることがありますが、コーヒーを淹れるときも気温や湿度によって変えることはあるんですか?

安川

ありますね。焙煎してから何日経っているかとか、今日はちょっと気温が高めだから、じゃあカフェラテのスチームも飲みやすい温度にしようって微調整しています。

例えば86℃で淹れていたけど、今日淹れた感じだと87℃の方がいいなとか、本当に1℃単位でレシピは変えてます。

ー初めて「花待ち雨珈琲」に来るお客さんも、もちろんリピートで来る方もいらっしゃると思うんですが、初めてお店で珈琲を飲まれたときって、どんな反応が出てくるんですか?

安川

嬉しい反応が返ってきていると思います。

最近は私が「ジャパンハンドドリップ チャンピオンシップ」で全国2位になったことを知って県外からもご来店されます。

他にもコーヒーが好きで美味しいコーヒーを飲みに来た方や、他のコーヒー屋さんに紹介されましたとか、普段浅煎りは飲まないけど、飲みにきましたって方が少しずつ増えてきたと思います。

だからなるべく声をかけるようにして私もお客様の反応を伺っています。それが結果として花待ち雨のクオリティを上げていくきっかけになっていると思います。

「花待ち雨珈琲」のインスタを見てはる人が多いですよね?

安川

そうですね。イラストがかわいいって言ってくれます。

お店で提供するコーヒーとお店以外で淹れるコーヒーの違い

安川

私がお店で提供するコーヒーは完璧を求めます。でも例えば私もアウトドアをしたり、ベランダでコーヒーを淹れたりするんですが、そういうときに淹れるコーヒーは、全然パーっと淹れることもあります。 キャンプで飲むときは、本当に適当に淹れたりもします。お店で淹れるときと違い、アウトドアなどのシチュエーションでの特別感はそのときでしか味わえなくて、パーッと淹れることも全然ありだと思います。

平林

そういう場所で飲むのはトータルだから、コーヒーだけではないのはわかります。

安川

コーヒーを淹れる作業って、コーヒー豆を焙煎して粉にしてお湯を通すだけだから、基本的には全部行程は同じです。ただ、それをどこでどう表現したいか、お店では完璧を求めて淹れるんですが、プライベートだったら意外とちゃちゃちゃってやるような楽しみ方もあるし、本当に気軽に楽しめます。

今日私が話したことって本当に難しいと思うんですよ。ただそれは「私」が考えていることで、別にお客様にとっては全く関係のないことです。 

お客様にはコーヒーを淹れてお出ししたそのカップを美味しく飲んでくれたら私は良くて、そこで私はここ1℃だけ変えてるんですよって答えは、正直お客様にはいりません。

平林

それも写真と全く同じですね。僕も写真を撮るとき、自分のキャンプなんて場合によってはiphoneで撮影しますね。

安川

そんな感じです。 今のこの雰囲気はたぶん写真には収まりきらないけど記録は残しておきたいから、iPhoneだったり、フィルターをちょっと緩めてあげても楽しめるように、今の感じを、今、心に刻んでるからみたいなことで。

私もそんな感じでコーヒーをフランクに楽しんでもらいたい部分もあるし、でもやっぱり「花待ち雨珈琲」は”こんなコーヒーがあるんだ”みたいな感動と驚きや、”こんなカフェラテがあるんだ”と感じてもらいたいから、お店でのコーヒーは完璧に淹れたいんです。

Edit & Text:Daisaku Mochizuki
Photo:Katsumi Hirabayashi